楽しい時間
朝、目が覚めた。
頭がぼーっとしている。
……何をしても時間は過ぎる。
ダラダラしてても仕方ない。
──学校、行くか。
教室に着いて席に座った直後、ユージが声をかけてきた。
「直樹、ちょっと話できる?」
そうだ。
昨日、こいつも女子と帰ったんだった。
「あーうん……時間ないし、ここでいい?」
ユージはやけに小さい声で言った。
「昨日の子とさ、
遊ぶ約束したんだけど……どこ行けばいいと思う?」
(なんだと!?)
(俺より先に進んでんじゃねーかこの野郎!!)
(てか、どうやってそこまで話進んだ!?)
(映画?遊園地!?)
(女子と出かけたことなんて母親以外ねーぞ俺!!)
そんな心の大騒ぎを隠して、平静を装う。
「……二人で決めるのも楽しいんじゃね?」
我ながら薄い答え。
「そっか!さすが直樹!今日電話してみるよ!」
(電話!?)
(こいつ……できる奴だな……)
────────
その日一日、
俺の頭の中は高木さんへの返事だけだった。
気づけば放課後。
「直樹、帰ろうぜー」
「あー……悪い。今日ちょっと一人にしてくれ」
「そっか。じゃユージと帰るわ」
「おう、悪いな」
体育館裏で座り込み、どうすべきか悩んでいた。
情けない。
俺だって──めちゃくちゃ意識してる。
でも、
•告白なんてされたことない
•気持ちの伝え方も分からない
「あー……どうすりゃいいんだよ、マジで……」
声に出た。
「分からん!とりあえず帰ろ……」
下駄箱へ向かうと、
少し離れた場所に高木さんがいた。
……明らかに、待ってる。
(ここで逃げたらクズだ)
自分に言い聞かせて、歩く。
「昨日はありがとう。手紙、ちゃんと読んだ」
「あ……一緒に帰ろ?」
「……うん。
ちょっとカバン取ってくる」
────────
帰り道。
橋の横の土手に座る。
「手紙、読んでくれたんだね」
高木さんが笑う。
「……今の気持ち、
どう言えばいいか分からない」
「でも、ちゃんと言わなきゃいけないと思ってる」
向き合う。
「……高木さんの言葉、借りるけど」
「三浦直樹は、高木香織が好きです」
「…………」
それから、ふっと笑った。
「……なんか緊張したね」
「そう…だね…あはは」
──付き合う、という形じゃない。
でも確かに、距離は一気に近づいた。
その日の夜。
楽しさの余韻のままチョコを食べようとして冷蔵庫を開けると、無い。
こんな事するのは一人しかいない。
兄の部屋。
見覚えのある箱。
「……それ、どうした?」
「あー?食ったけど?」
──その瞬間、分かった。
(こいつに関わると、碌なことにならない)
「……もう俺に関わるな。俺も関わらない」
そう言い残した。
……せっかくの幸せが、全部上書きされた気がした。
──────────
数週間後。
俺の耳元でユージが話しかけてきた。
「日曜、映画行くんだけど……四人で行かない?」
「え?四人って誰と誰よ?」
「そりゃ、僕とこの前の子。そして直樹と高木さんだよ」
マジか……心臓が、少し速くなった。
(でも、何で俺たちの関係知ってんだ……?)
(あっちが話したのかな?)
特に深く考える事なくその日を迎える。
───────
当日。
香織の姿に、思わず俺は見惚れていた。
四人揃った事で映画館に行こうと歩くと香織が口を開く。
「長谷くんは友希とでしょ」
「あ、うん。そうだね…」
どこか照れくさそうに並んで歩いていた。
そんな二人を俺は見つつ。
香織の方を向き手を出した。
「俺たちも行こうか、香織」
その瞬間、空気が止まった。
すると香織は顔を赤し戸惑っていた。
「あ、あのさ…まだ誰にも言ってないんだよね…」
「へ?」
……名前で呼んだこと、自分だけ気づいてなかった。
──────────────。
それから四人でその日は楽しんでいた。
映画、ファミレス、ボウリング、ゲーセン。
全部、ただ楽しかった。
屋上へ向かう途中、
差し出した手を──
香織が握る。
引き寄せた瞬間、
距離がゼロになった。
その一瞬、
"女子”じゃなく“女性”見えた。
──楽しい時間は、すぐ終わる。
帰宅後。
静かな部屋。
……でも、
兄の気配だけが、嫌に重かった。




