悪い事だけじゃない。
「ユージ……タカシ……大丈夫か……?」
「うん……痛いよ……」
「あはは……そりゃそうだ……」
痛む身体を引きずるように起こし、三人はその場に座り込んだ。
しばらく、誰も何も言わなかった。
──なのに。
なぜか、笑いがこみ上げてきた。
「……ふふ……はは……」
気づけば声に出ていた。
「あははは……なんか、ウケんな」
息も絶え絶えのまま、俺は二人を見た。
「タカシ……声、でかすぎ。うるせえよ」
「ユージ……弱いのに、無理しすぎだって」
そう言いながら、また笑ってしまう。
「……でもさ」
胸の奥が、妙に軽かった。
「なんか、楽しかったよ。痛いけどな」
三人は顔を見合わせ、同時に吹き出した。
──この瞬間だった。
俺たちの距離が、一気に縮まったのは。
それからというもの、三人はいつも一緒にいた。
学校でも、外でも。
気づけば“連れ歩く”のが当たり前になっていた。
この三人が、やがて地元で起きる
ある大きな出来事に巻き込まれ、少しだけ名を知られることになる。
だが──
それは、まだ先の話だ。
───────────────────────
あの日以来、
俺は「誰にも頼らず一人でやる」と思っていたはずだった。
地元を出る、その日まで。
──なのに。
心から笑える相手が、二人もいる。
それだけで、毎日がやけに楽しかった。
吹っ切れたようなユージ。
相変わらず調子のいいタカシ。
その中に、俺もいる。
──最高な気分だった。
タカシの周りには、いつの頃からか人が集まり始めていた。
年下の中にも、
非行に足を踏み入れかけた連中がいたらしい。
俺の知らないところで、
そいつらを体育館裏へ連れてきては、「仲間」として紹介してくる。
そんな日が、しばらく続いた。
気づけば昼休みになると、
十人以上の少年たちが体育館裏に集まっていた。
そこはもう、周囲の生徒が近づかない別の場所になっていた。
当然、教師に目をつけられる。
ある日の昼休み。
いつものようにたむろしていると──
「こらぁ!
お前たち、そこで何をしている!!」
怒号が聞こえる。
生徒指導の教師が、竹刀を手に近づいてくる。
だがそのとき、俺たちは本当に何もしていなかった。
ただ、話していただけだ。
──けれど。
外から見れば、
“何かをしていそうな集団”だったのだろう。
当時の俺には、そんな視点はなかった。
ただ、態度の荒さに苛立っただけだった。
次の瞬間。
教師は俺の髪をつかみ、力任せに正座させようとした。
周りには後輩がいる。
──ここで
格好悪い真似はできない。
俺は腕を両手で押さえ、踏ん張って抵抗した。
力が、一瞬だけ緩む。
その隙に、体勢を崩しながら横蹴りを放った。
手応えはあった。
どこかに、当たった。
次の瞬間、教師の腕の力が抜けた。
─────────
そして。
「あはははは!!」
周囲から、爆笑が起きた。
見ると教師は、股間を押さえ小さく跳ねていた。
顔を赤くし、こちらを睨む。
だがもう、何をしても笑われるだけだと悟ったのだろう。
教師はそのまま、去っていった。
────────
地面に、竹刀が残された。
それを拾ったタカシが、俺に差し出す。
「直樹。
……戦利品」
言い終わる前に、自分で吹き出していた。
「あはははは!!」
笑いが、止まらなかった。
その日から。
その竹刀は"戦利品”と呼ばれ、
生徒指導の教師は──
タマキンと呼ばれることになる。




