それぞれの想い
あの一件以来、
ユージに手を出す者はいなくなった。
初めて会った頃とは別人のように、あいつは毎日を楽しそうに過ごしていた。
同じクラスにも友だちができたらしい。
移動教室の途中、俺のクラスの前を通る姿をつい目で追ってしまう。
──笑っていた。
それを見たときの俺の気持ちは、
正直、複雑だった。
嬉しいはずなのに、どこか苦しかった。
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昼休み。
いつもの体育館裏で、俺はユージに言った。
「今の環境、ユージにとって悪くないと思うんだ」
「だからさ……もうここにも来ないほうがいい」
「俺とも、距離を置け」
ユージは困った顔をしていた。
「でも……」
「三浦くんには感謝してるし、ずっと友だちでいたいんだけど……それじゃダメなの?」
胸が少し痛んだ。
それでも俺は、言葉を続けた。
「ほら、俺って敵多いだろ」
「一緒にいたら、巻き添え食らうかもしれない」
「何も起きないうちに、離れたほうがいい」
視線をそらす。
「……だから明日からは、普通に友だちと遊べよ。な?」
半ば強引に話を終わらせ、俺はユージと距離を取った。
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また、ひとりになった。
そんなある日の、十三日の金曜日。
夜、
テレビでは映画が流れていた。
『十三日の金曜日
ジェイソン、ニューヨークへ』
見たかったわけじゃない。
この町は民放が少なく、選択肢なんてほとんどない。
ぼんやり眺めていただけだった。
だが──
この映画が、俺の中の何かを変えることになる。
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恐怖の象徴であるジェイソンが、
きらびやかなニューヨークの街を歩く。
彼の正体を知らない人々は、平然と声をかける。
「ヘイ、兄弟!
今日は何かのイベントかい?」
それを見た瞬間──
胸の奥で、何かが弾けた。
……見えた気がした。
自分が、進むべき道が。
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「……そうだ」
声が漏れる。
「俺、中学卒業したら都会に行く」
「こんな陰険なクソ田舎で、終わってたまるか!」
小学生四年生の、幼すぎる決意。
それでも──確かに本物だった。
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数日後。
帰りの会で浜田が言った。
「再来週から二週間、
先生は講習で学校を離れます」
「その間、
みんなは別のクラスで授業を受けてもらいます」
特に何も感じなかった俺は、その日を迎えた。
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班分けの結果、俺は五組になった。
翌朝、机を運んで教室へ入る。
そこには──やけに陽気な奴がいた。
朝から笑い声の中心にいる、
一人の男子。
八木 貴史。(やぎたかし)
こいつは、この先、俺が高校を卒業するまでユージ含め、つるむことになる男だ。
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最初の印象は、ただのうるさい奴。
だが数日経っても、タカシは変わらず絡んできた。
「三浦ってさ、めっちゃ怖いって聞いたけど
何したの? ねえねえ?」
そんな毎日、八木にうざ絡みされていた俺は、
昼休み、体育館裏で一人ぐったりしていた。
「あ! 三浦みっけ!」
最悪だ、と思った。だがその時──
「うるせーよ。誰だよ…バレんだろーが…」
低い声。
体育倉庫から、三人の上級生が出てきた。
タバコの匂い。
一人がタカシの胸ぐらをつかむ。
タカシはびびって動けない……
だけど放っておけなかった。
俺は近くの一人の膝を蹴り、顔面を殴った。
「テメェ、ぶっ殺すぞ!」
思惑どおり、怒りの矛先が俺に向いた。
後は俺が逃げ切ればいい。
そう思った瞬間、背後の二人に押さえつけられた。
殴られる。
蹴られる。
視界が揺れる。
その時──
「やめろー!!」
叫び声が聞こえた。
顔を向ける。
「……なんで……」
そこにいたのは、ユージだった。
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喧嘩も知らなかったあいつが、叫びながらこっちへ走ってくる。
その姿を見た瞬間、頭が冷えた。
押さえつけている腕に、思いきり噛みついた。
痛さで相手が俺から離れた。
自由になった身体で、痛がってる奴の腹を蹴り、何度も殴る。
ユージも、震えながら拳を振るっていた。
タカシも、無我夢中で手を出している。
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だが、上級生相手に、慣れない喧嘩。
体育館裏に、倒れていたのは俺たち三人だった。




