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生きるとは何か  作者: ルーツ


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18/161

え……

あの件の、翌日だった。


登校し、教室へ向かう廊下を歩いていると、

妙なざわめきが聞こえてきた。


──騒がしい。


教室の前には人だかりができ、

朝から誰かが喧嘩をしているらしかった。


当時の俺は背が低く、前から二番目に並ぶほどだった。

人垣の向こうは、ほとんど見えない。


けれど──人と人の隙間から、一瞬だけ見えた。


そこにいたのは、和樹と塚本だった。


騒ぎはすぐに教師へ伝わり、

数名の先生が雪崩れ込むように教室へ入る。

二人は引き離され、そのまま生徒指導室へ連れて行かれた。


何もかもを楽観視していた俺には、

なぜ和樹が怒っているのか、

なぜ塚本が殴られているのか、分からなかった。


……いや。

冷静に考えれば、分かることだった。


塚本の親が学校へ訴え、それを知った和樹の父親が、

暴力で和樹を戒めた。


そして和樹は、

その原因となった塚本を恨み、仕返しをした。


──きっと、そういうことだ。


なぜか俺まで呼ばれ、生徒指導室へ連れて行かれた。

そして、そこで待っていたのは、理不尽な決めつけだった。


「お前たちが非を認めない限り、

 この部屋からは出さない」


だが、俺は、和樹を裏切るなんて、できるはずがなかった。


─────


俺たちは黙り続けた。

向こうが諦めるまで、何も話さないつもりだった。


どれくらい時間が経ったのか。

どこからか給食の匂いが漂ってくる。


──そろそろ解放されるか。


そう思ったが、甘かった。

給食も与えられず、ただ正座を強いられる。


痺れた足の感覚は消え、残ったのは、拷問のような時間だけだった。

その時──扉が大きな音を立てて開いた。


顔を上げる。


そこに立っていたのは、和樹の両親と、俺の母親だった。

後から数名の教師も入ってくる。


正座させられている俺たちを見た瞬間、

母の顔が変わった。


「……なぜ、この子たちは

 正座させられているのですか?」


静かな声。

だが、怒りを孕んでいた。


教師は当然のように言った。


「悪いことをしたのなら、ペナルティは必要でしょう」


母は、一歩も引かなかった。


「では──

 先生方は原因をすべて理解した上で

 そうしているのですね?」


「こちらだけに非があるという

 証拠も、当然お持ちなんですよね?」


声が震えていた。

怒りで。


教師たちは顔を見合わせ、やがて生徒指導の教師が口を開く。


「先方から連絡もあり、

 実際に不登校になっている生徒も──」


その瞬間。


母の目が、低く、鋭く光った。


「その前に──

 うちの子が何をされたか

 ご存じなのかと聞いているんです!」


教室の空気が凍った。


「何もなければ、

 こんな問題は起きないはずでしょう!」


「先に手を出したのは、

 そちらではないんですか!」


「この子は誰にも言えず、

 ただ耐えていた──」


「そこに手を差し伸べてくれたのが、

 下村くんなんですよ!」


「行き過ぎた行動だったとしても、

 小さな子どもなりに

 状況を変えようとした結果でしょう!」


「それを正座させるなんて……

 正気ですか!?」


母は、涙を流していた。


──守ってくれている。


それだけは、はっきり分かった。


「これ以上話しても進展はありません。

 こちらは、こちらで動きます」


「追って連絡が行くと思います。

 ……覚悟しておいてください」


その言葉を残し、俺たちは解放された。


和樹も、

それぞれの家へ帰っていった。


後から知ったことだが、

和樹の両親は、夏休みの間に復縁していたらしい。


しばらくは何事もなく、また二人で遊ぶ日々が戻った。


けれど──

和樹に、わずかな違和感を覚えていた。


────


それから、何日経っただろう。


朝、教室へ入ると、いるはずの和樹がいなかった。


風邪でも引いたのか。

そう思ったが、その日も来なかった。


朝の会で、杉浦が言った。


「諸事情により、

 今日で学校を離れることになりました」


──何かがおかしい。


理由の分からない不安が、胸をよぎった。


翌日。


やはり和樹はいない。


朝の会が始まると、

杉浦ではなく、見覚えのある男性教師が入ってきた。


「今日から臨時で、

 このクラスを担当します」


そして扉の方を向く。


「……入っておいで」


扉が開く。


そこに立っていたのは──

和樹だった。


(また何かやらかしたのか?)


そんな軽い考えは、

次の言葉で消えた。


「急ではありますが──

 本日限りで、

 下村和樹くんは

 他校へ転校することになりました」


──え。


何も、考えられなかった。


言葉も、

感情も、

浮かばない。


ただ──


小さな頭で、

ひとつだけ思った。


これからの自分は、どうなっていくのだろう……


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