解消
あの出来事から、数日が過ぎていた。
朝の会。
数日休んでいた塚本が、杉浦と一緒に教室へ入ってきた。
肩と腕には包帯。
松葉杖をついている。
左肩、左手首の骨折。
全治、数か月。
重傷だった。
正直に言えば、俺の胸に浮かんだのは
ざまあみろ。
その一言だけだった。
そんな俺の感情など知るはずもなく、
杉浦は教室を見渡し、もっともらしい口調で言った。
「みなさん。喧嘩は良くないことです。
仲良く、健やかに学校生活を送りましょう」
……今さら何を言っている。
俺がいじめられていた時は、見て見ぬふりをしていたくせに。
────
朝の会が終わり、
和樹に話しかけようとした。
──いない。
教室を見渡すと、和樹は塚本の机の前に立っていた。
「直樹、こっちこっち!」
ニヤニヤと笑いながら、俺を手招きする。
何が始まるのか分からないまま、隣へ立つ。
その瞬間、
和樹は怪我をした塚本を睨みつけた。
「また何かやらかしたら、
その腕、もう一回やるからな」
「俺がいない時に直樹に手ぇ出してみろ。
次は──俺がやってやるからな!」
言い切ると、
俺たちは顔を見合わせ、高笑いしながら席へ戻った。
──その時を機に
いじめが、ぴたりと止んだ。
和樹には、感謝しかなかった。
けれど──
これで終わる話ではなかった。
─────。
七月も半ば。
夏休み前の、蒸し暑い頃。
意気消沈した塚本。
大人しくなった取り巻き二人。
その変化を、和樹は見逃さなかった。
「直樹。
今日から反撃だぜ」
「え……何が?」
「昼休み、裏山集合な」
意味も分からないまま、昼休みに裏山へ向かう。
そこには──
取り巻きの一人が、
かつて俺が立たされていた場所に立っていた。
和樹が気づき、楽しそうに手招きする。
「お、直樹。こっちこっち」
そして、何でもないことのように言った。
「とりあえず一人目は、お前な」
和樹は手に持っていた牛乳パックを開き、そのまま相手の頭から浴びせた。
続いて、一つを俺に差し出す。
「直樹。
やり返せ」
──あの時。
もし、
ここで踏みとどまっていれば。
俺の人生は、
違う形になっていたのかもしれない……
けれど脳裏に浮かんだのは、あの日の記憶だった。
悔しさ。
嘲笑。
掃除の時間の視線。
胸の奥に沈殿していた、言葉にならない感情。
それが、
ゆっくりと──
怒りに変わっていく。
気づけば俺は、
何のためらいもなく、
牛乳を頭から浴びせていた。
笑いながら。
相手は下を向き、泣いていた。
「ざまあみろ!!」
胸の奥が、異様なほどに晴れていた。
爽快だった。
これまで耐えてきた時間は、いったい何だったのか。
そう思ってしまうほどに。
──そして。
何かが、決定的に変わった。
その日を境に、俺たちの“番”が始まった。
来る日も、来る日も。
取り巻き二人は孤立し、
昼になれば裏山へ連れて行かれ、好き放題にされ、殴られる。
怪我をしても、親には言えない。
言えば、もっと酷い目に遭うから。
──まるで、生き地獄だった。
────
だが。
やがて夏休みが訪れ、時間が流れ始める。
少しずつ──
俺自身も。
そして、周りの環境も。
静かに、変わり始めていった。




