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1. 貧困をなくそう

 わたしの名前はサスティナ・ビリティス。

 ここセシウム王国で王家に次ぐ地位をほこるビリティス公爵家の娘で、現在は王都の魔法学園に通っている。


 学園での成績はというと、座学はトップクラスだが実技が()()()()()である。差し引き普通といったところだ。

 生まれつき魔力量の少ないわたしは、せいぜい土を少し盛り上げることしかできない。

 とはいえ家柄のおかげで学内ではそれなりの地位にある。


 まーぶっちゃけわたしは悪役令嬢だ。

 なろうに出てくる悪役令嬢は、何もしてないのにイジメの濡れ衣を着せられるようなタイプが多いけど、わたしはそうじゃない。

 自分の意志でキッチリ彼女ヒロインをイジメていた。

 すれ違いざまに罵声を浴びせるのは日常茶飯事で、教科書に落書きしたり物を隠したりもした。

 つまづいたふりをして体当たりし、弁当を床にぶちまけさせた事もある。


 とはいえ、もともとわたしは人をイジメるタイプではなかった。

 むしろそれを止める側だった。

 上級貴族のつとめとして、幼少期から寛大なふるまいを心掛けていたからだ。

 彼女ヒロインに対しても最初は良好な関係をたもっていた。

 事あるごとに声をかけ、王都や学園での生活についてアドバイスを与えていた。

 その関係性が変わったのは、彼女ヒロインのある言葉がきっかけである。


「わたし、この国に産業革命・・・・を起こそうと思ってるんです」

 この一言でふたりの友情は終わりをむかえた。

 どうしてそうなったのか――そもそもの始まりから説き起こしてみよう。


       〇


「流されびとが発見されたですって? いつ? どこで?」

 わたしは目を丸くしてシイを見た。


 ここは魔法学園の貴族寮にあるわたしの部屋。

 本日の学業を終えて自室に戻ってきたところ、専属メイドのシイが興奮気味に伝えてきたのだ。


「発見されたのは王都から北に三日の距離にあるセレン村だそうです。先月の終わりごろ、村の猟師が森に入ったところ、見たことのない服装の人間が倒れているのを見つけたのです。連絡を受けた王宮の調査官が村に出向いて尋問したところ、流されびとに間違いないと認定されたそうです」

 シイが得意げな表情で返答した。


 流されびとというのは異世界からの漂流者のことだ。

 複数の歴史書によると、ときおり時空の裂け目を通って異世界の人間がやって来ることがある。

 この世界にない知識を持っていることが多く、王国では見つけしだい保護する定めになっていた。


「信じられないわ。それは本当の話なの?」

「間違いありません。メイド仲間のあいだでは、その噂でもちきりです。なにしろ百年ぶりの流されびとですからねえ」


 貴族寮では一人まで使用人の帯同が許されているので、ほとんどの入居者がメイドを連れてきている。

 おもな仕事は部屋の管理や主人の世話だが、ほかのメイドとの情報交換も重要な任務だ。


「よくやったわシイ。それで、その流されびとはどんな方なの?」

「名前はマリエ・キンバラ、二十五歳。エキゾチックな容姿の美女だそうです。職業はリコーガクブのダイガクインセーと申告していますが、それがどのような仕事なのかは不明です」

 シイはここぞとばかりに用意したメモを読み上げた。


「まあ、女性の方なのね、興味深いわ。異世界の女性ってどんな姿なのかしら。一目でいいからお会いしたいわ」

「お嬢様は本当に流されびとがお好きですねえ」


 そうなのだ。どういう訳か、わたしは子供のころから流されびとという存在に心惹かれていた。

 学園に入ったばかりのころは図書館に通いつめ、異世界からの漂流者の資料を片っ端から読みあさった。


「とはいえ、たとえ公爵の娘であっても、ただ会いたいからという理由で会わせてくれるとは思えないわ……」

「そんなお嬢様に朗報です! じつは、そのマリエ嬢が魔法学園への転入を希望されてるようなのです」

「まあ! それは素敵ね。学園への転入が実現すれば、一目どころか毎日でも会えるようになるのね」

 わたしは胸の高鳴りを感じた。


「あ、あの……」

 シイが急に顔を赤らめてモジモジし始めた。

 わたしはピンときたが少し意地悪して、しばらくその様子に気づかないふりをする。


「お嬢様、わたしの情報は役に立ちましたか?」

 たまらずシイは声を上げた。


「ええ、とっても役に立ったわ」

「で、でしたら、その……ご褒美をたまわれないでしょうか」

「もちろんよ、今まで褒美を渡さなかったことがある?」

「ああ! ありがとうございます、お嬢様」


 その場でひざまずいたシイは顔を上にあげ、ひな鳥のように口をぱっくり開いた。

 わたしは彼女の顔をのぞきこみ、その口めがけてペッと唾を吐く。

 唾はねらい通り口の中に吸い込まれていった。

 これは子供のころからくり返されている儀式だった。

 何かわたしの役に立つことをした時、いつもシイは褒美として唾を要求するのだ。

 彼女のフルネームはシイ・シェパーという。狂信的なまでにわたしを崇拝する女である。

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