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残り記憶一文字分

作者: 藤乃花

人々の夢に現れて『お告げ』を伝える竜、その竜の名前を『ユメツゲリュウ』と云う。何千年と生きてはいたが、竜とはいえ寿命は在るのでいつかは一生を終える。幾度となく夢の中でお告げを下し、多くの人を導いてきた。そしてついにユメツゲリュウは、天に召された。遠い過去の記憶。ユメツゲリュウの魂は何度も生まれ変わりを繰り返し、何度も人間として生きている。(輪廻天性を繰り返しながらユメツゲリュウだった時の記憶を保ってだけど……もうすぐそれが終わってしまうわ。寂しいけど、それが魂の仕組みなのね)ユメツゲリュウだった彼女は今、その頃の記憶を次に生まれ変わると同時に全てなくしてしまうのだ。どういう経緯で記憶が消えるのかと云うと、新たに魂が再生する毎に名前が一文字ずつ削られていき、最後には0になるのだ。ユメツゲリュウ、ヒメツゲリュウ、ヒナツゲリュウ、ヒナカゲリュウ、ヒナカリリュウ、ヒナカリシュウ、ヒナカリショウ、と……こんな風に名前が一文字ずつ変わる度、ユメツゲリュウ時代の記憶も一つずつ消えつつあった。今の彼女は消えてしまう一つ手前のヒナカリショウ……雛狩翔という名前の女性として成り立っている。(昨夜みた夢では、次の私は『雛刈初夏』、ヒナカリショカに更新されてたわ。ユメツゲリュウの記憶が全部消えるのね)運命には抗える事は出来ない。悲しさのあまり彼女はある日夢の中で神様に願った。『神様……どうか私からユメツゲリュウの記憶を消さないで下さいませ!』運命だから無理な願いだと分かりつつ、心から願いを告げた。『貴女は昔、夢のお告げにより多くの人を救ってきました』『!』神様から答えが返ってきた。『その善行を讃え願いを聞き入れましょう』神様の声を聞いた彼女は、報われた気持ちになった。『神様……ありがとうございます』『貴女の両親となる二名に名前を消さぬよう願います』

そして時は流れ、三十年経過した。とある夫婦の間に赤ん坊が生まれた。「お疲れ様、頑張ったね」「不思議とそんなに大変な事はなかったわ。この子、負担をやわらいでくれたみたい」「そうか。俺たちの子供だな、良い子だ。それで、名前だけどさ……『ユメ』って、どうかな?」「え?うそ!わたしも同じ名前を考えてたの」「そうなんだ!実はさ、ゆうべ夢に竜が出てきて子供の名前『ユメ』にしなさい……って言ったんだよ」「え……?凄い!その夢、わたしも見たわ!綺麗な竜で、その名前をつけるよう言って……何故だかその竜が、わたし達の子供みたいに思えたの」二人は驚きと喜びで満ち溢れた。幸せな二人から生まれた赤ん坊は、『日名刈夢ひなかりゆめ』という名前に決められた。これでもう彼女は、ユメツゲリュウの記憶が消える事はない。神様の計らいでその名前は永遠に彼女の中に生き続ける。








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