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【書籍化】精霊つきの宝石商  作者: 藤崎珠里
フラワールチルの祝福

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 首輪の納品も無事終わり、ペランに特別手当を出すこともできた。


 その手当で何かルースを買いたいということで、今日のペランはお客様として来ている。

 奥の小部屋のテーブルにずらりと並べられたルースを前にして、ペランはうめき声を上げた。


「……全っ然、決めらんねぇ……」

「あはは、午前中は予約のお客様もいないし、ゆっくり見ていいからね」


 途方に暮れるペランに、私は笑って声をかけた。

 店頭に置いてあるのはジュエリーだけだが、この店はルースも数多く取り揃えている。ルースが欲しい、というぼんやりとした気持ちでは、それはもう目移りしてしまうことだろう。


「私のおすすめは、やっぱりここら辺のパパラチアサファイアだな」


 そう言いながら指を差しただけで、ペランは私が勧めた理由を察したらしかった。ぐっと少し眉根を寄せて、ルースと私を見比べる。


「……これは俺が持ってたらちょっと気持ち悪くないか?」

「そうかも」

「おい」

「ごめんごめん、冗談だよ」


 けらけら笑ってから、一緒になってルースを見下ろす。

 予算しか聞いていないので、本当に雑多なルースを並べてある。私はもうこれを見ているだけでわくわくするけど、ペランはどうだろうか。欲しい石が見つからなくても、この時間を楽しんでくれたらいいな。


「何色の石がいい、とか、どういう力のある石がいいとかもないの?」

「やっぱそれくらい決めてくるべきだった?」

「ううん。決めてきたところで、ぴんと来る石があったらどうせそれが欲しくなるだろうし……こういうのは巡り合わせだから」

「ぴんと来る石、なぁ……」

「今この瞬間、これ! って思う石がないんだったら、無理して買わないほうがいいと思うよ。買うことを目的にはしないでね」


 本当に気に入った石だけを買ってほしいから、釘を刺しておく。

 お客様の中にもたまにいらっしゃるのだ。宝石じゃなくて、宝石を買うこと、ひいては宝石を買う自分がお好きなんだろうな、と感じる方が。

 別にそれはまったく悪いことじゃない。私と彼らでは楽しみ方が違うだけだ。

 けれどペランはうちの従業員だし、友人だ。できれば純粋に、自然に石を愛してほしいし、そういうふうに愛せる石だけを手元に置いてほしいな、と思う。


 ペランは私の言葉にうなずきつつ、難しい顔でルースたちとのにらめっこを続行した。

 その姿をしばらく眺めていると、ドアベルの音がした。いらっしゃいませ、というノエルさんの声も。このままノエルさんが対応してくれるだろうけど、一応私も行っておこう。


「じゃあ、しばらく見ててね。私は向こうの対応してくるから」


 ああ、というペランの返事を聞きつつ部屋を出る。

 さて、どんなお客様がいらっしゃったかな……と店先を確認すると、そこにはソフィちゃんの姿があった。以前お母様のためにと、ピンクトルマリンのペンダントを買ってくれたあの少女である。


「いらっしゃいませ、ソフィ様」


 微笑みかければ、少し不安そうだったソフィちゃんの顔がぱっと明るくなった。


「エマさん、こんにちは! 覚えててくれたんですね。あの、今日は……妹のためのプレゼントが欲しくて。いろいろ見ても大丈夫ですか?」

「ええ、もちろんです」


 健気な様子にほっこりとしながらうなずくと、ソフィちゃんは安心したようにアクセサリーを見始めた。

 ソフィちゃんの妹さんも、宝石を好きになってくれたら嬉しいな。


 ……けど、ソフィちゃんの妹となると何歳だろう? 歳がそう離れていなければいいけど、小さい場合には誤嚥が怖い。

 ベルはいろんなものを口に入れる子だったから大変だったんだよね……。

 しみじみ思い返しながら、ソフィちゃんにそっと声をかける。


「すみません、妹様はおいくつですか?」

「この前生まれたんです!」


 頬を染めて、嬉しそうにはにかむソフィちゃん。

 ち、小さいどころの話ではなかった……。確認しておいてよかったな。


「お姉さんになったんですね。おめでとうございます」

「ありがとうございます! すごい可愛いから、可愛い宝石をあげたくて……」

「妹って本当に可愛いものですよ。私も妹がいるんですが、生まれたときから今まで、もうずーっと可愛いんです」

「わぁ、お姉さん仲間ですね!」

「ふふ、そうですね、お姉さん仲間です」


 和やかにお話をしてから、ふっと真面目な顔を作って声を潜める。


「もしかしたら赤ちゃんは、宝石を間違えて飲み込んでしまうかもしれません。買ったとしても、ソフィさんくらいの年齢になるまで、手の届かないところに置いておいてくださいね。お姉さん仲間の私と約束していただけますか?」

「や、約束します!!」


 ソフィちゃんも私と同じような顔になって、こくこくとうなずいた。いい子すぎて頭を撫でたくなってしまったけど、ここは我慢。帰ったらベルの頭撫でさせてもらおうかな……。

 なんてことを考えつつ、ふむ、と口元に手を当てる。


 せっかくだし、セミオーダーなんてどうかな。

 既製品の在庫を一つ作る分の力をこっちに回してもらえれば、急ぎ目に仕上げられるだろう。シャンタルも快諾してくれるはずだ。


「ソフィ様。よろしければ、なんですが……ここにあるアクセサリーだけでなく、いろんな宝石を見てみませんか?」

「……ここにあるのだけじゃなくて?」


 ぱち、とソフィちゃんは大きな目を瞬かせた。




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