39.指輪
ビバークしてる夜。
私は天才職人、ガンメイジに相談してみることにした。
テントの中にて。
「つーわけで、結界をもっと早く構築できるようになりたいんだ」
「ふむ……現状で満足せず、常に向上心を持っているのじゃな」
「そらまあね」
「ふっ……気に入ったのじゃ! わしも力を貸そう!」
何かやらガンメイジはやる気になったようだ。
「いいのかい?」
「ああ。おぬしの向上心に共感を覚えた。わしも、常によりよいものを造りたいと思って物を作っておるでな」
なるほどね。
「あんがと」
「よし……今まずどうやって結界を作ってるのじゃ? そもそも、薬で、どうやって再現してるんじゃ? 聖女の結界は、たしか聖女が祈るだけで作れると聞いたが」
この世界の常識では、聖女が祈ると結界ができる(機序不明)というもの。
じゃあどうして、聖女が祈ると結界ができるのか、誰も調べようとしていなかった。
「で、私が調べた。すると、どうやら結界っていうのは、魔法と似てるようだった」
「魔法と似てる?」
「ああ。この世界の魔法は、1.魔力、2.精霊、3.命令、この3つが必要となる」
魔力。これは魔法を発動させるための燃料だ。
精霊。この世界に存在する霊的な存在。精霊は魔力を人間からもらうことで、魔法を使ってくれる。
命令。具体的にどのような魔法を発動させるか、指示する。
「…………」
「どうしたんだよ?」
「いや……おまえさんは魔法使いなのか?」
「いや。単なる召喚聖女だよ。それが?」
「いや……聖女でここまで、魔法について詳しく知ってるものがいるとはな」
ガンメイジの言い方が気になった。
「他に聖女の知り合いでもいたのか?」
「ああ。少し前に、聖女がこの国を訪れたことがあった」
ああん?
少し前、だぁ……?
「ブリコってやつか?」
「いや、違う。【ワガママーナ】ってやつじゃ」
「ワガママーナ……。ワガママーナ……どっかで聞いたことあるような名前だな」
あ、思い出した。
アスベルの前の妻じゃねえか。
「あいつ……ここに来てたのか。なんでまた?」
「さぁの。ワガママーナはふらりとこのドワーフ国カイ・パゴスに来た。魔物から守るための結界を作ってやるから金をよこせと、大金をせびってきたのじゃ」
……結界を作れるのは聖女だけ。
ワガママーナは結界を作る代わりに金銭を得ていた……か。
「あれ? でも結界なんて港町にも、里にもかかってなかったが?」
「うむ……1週間もたたずに結界は消えてしまっての」
ふぅう~~~~~~~~~~~~~。
マジか……。くそだな! ちくしょうが。
「まあもうそいつのことはいいのじゃ」
よかねーけどな。私はそのワガママーナに対して怒りを覚えていた。
第一、あの女、うちのアスベル、アンチにもひでえことしやがったしな。
いらだってる私を見て、ガンメイジが微笑む。
「ありがとうな、聖母よ。わしらのために怒ってくれて」
「ふん……当たり前だろうが。あんたらドワーフは、もう他人だとは思えないしよぉ」
「そうか……ふふ。うれしいのじゃ」
まあ、何はともあれだ。
「結界は魔法と同じプロセスで構築されていた。聖女の魔力、精霊、そんでもって命令。聖女の結界は精霊の部分が神、命令が祈りとなっている」
しかしこの神ってやつ、相当遠くに住んでいるのか、こちらからの命令を受け取るまでにかなり時間がかかる。
「そこで、祈りの対象を精霊にしてみた」
「精霊……」
「ああ。精霊はどうやら特殊な匂いに集まるのがわかってな。精霊の好む匂いを発する薬剤を作った」
「なるほど……あの薬剤は精霊を集めるための道具じゃったのだな」
遠くに居る神様より、近くに居る精霊を集める。だから、結界構築スピードがこっちの方が早いわけだ。
「純粋に速度を上げたいのなら、簡単じゃな。精霊と契約すれば良い」
「アー……それな。やろうと思ったが……無理だよ。精霊との契約には、触媒となる特殊な道具がいるってさ」
マギのやつにも聞いて、精霊との契約について、知識を得ている。
しかし精霊契約には触媒が必要といっていた。
「マギでもその触媒はなんなのかわからんってよ」
「ふふ……じゃろうな。何せの触媒は、ドワーフの秘奥じゃからな」
ガンメイジがにやりと笑う。
ドワーフの秘奥……?
「精霊契約のためには、【指輪】が必要なのじゃ。ただの指輪じゃだめじゃぞ。その精霊が好む指輪を用意するのじゃ」
「そうだったのか……」
それは古文書に残ってなかったな。
「知らなくて当然じゃ。わしらドワーフに口伝として残ってるものじゃからな」
「お、おいおいそんなの私に教えて良いのかよ……?」
「あたりまえじゃ! おまえさんが言ったんだろ? わしらは、他人じゃないって」
「ガンメイジ……」
にこっ、とガンメイジが笑う。
「おまえさんになら、精霊契約に必要な、精霊の指輪を作ってもいい。いや、むしろ作らせておくれ」
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