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25.夫の愛



 ドワーフ国カイ・パゴスにて。

 襲いかかってきた魔物を、私の豚汁で【偶然】パワーアップした皆の力で、撃退することに成功した。


 ……うん。成功したんだ。

 それでいいじゃないかい。


 たとえ、偶然だろうと、皆が無事に助かったんだからね。


「ありがとな! 姐さん!」


 ドワーフの戦士、ジョッパリーが近づいてきて、ばしっ! と私をたたく。


「姐さんの超すんげえトン汁のおかげで、おれら勝てたよ! あんがとなっ!」


 ……。

 ふぅ。


「何言ってんだい! あんたらが協力してくれたおかげさ!」


 にかっ、と私は笑って【みせる】。

 それが私の、リーダーの仕事だからね。


「みんなよく頑張ったね! お疲れさん!」


 私が声を張って言うと、皆うれしそうに笑っていた。

 

「よし、いったん食堂に戻って少し休憩! その後、街全体を覆う結界を構築するからね!」

「「「おう!」」」


 ドワーフたち、船員たちが戻っていく。

 アトーフェがちら、と私を見てくる。


『大丈夫か、聖母よ』

「……は? 何だよ」


『いや、少し元気が無いように思えてな』


 …………少し、ね。


「なーにバカなこといってんだい。たった今勝ったんだよ? ウキウキにきまってんじゃないかい」


 と、言ってしまう。

 わかってる、これは強がりだ。そして、アトーフェは私の虚勢に気づいてる。が。


『そうか。わかったよ。我は先に帰るぞ』


 アトーフェのやつは先に帰っていく。


『後のことは、おまえをよくわかってる男に任せる』


 アトーフェはそれだけいって、食堂へと駆けていった。

 ……よくわかってる男、ね。


 振り返る前に、誰かが、私を後ろからハグしてきた。

 ……見なくてもわかる。息づかいで、匂いで、そして……その暖かさで。


「アスベル」


 アスベルが、私を後ろから抱きしめてくれているのだ。

 それも、優しく、包み込むように。


「セイコ。お疲れ様でした。大変でしたね」


 振り返ると、アスベルが微笑んでいる。

 ……やめろよ。そんな顔で、優しい言葉を投げかけないで欲しい。


「……頑張ったって、おまえ、私がどう大変だったのかわかってんのかよ?」


 ……言って、私は驚いていた。

 私の口をついたのは弱音だったからだ。


 ……いつから私はこんな弱っちくなってしまったんだろうかって。

 でも、不思議と嫌じゃ無かった。


「全然! わかりませんでした!」


 ……ははっ、たく。

 何真っ正面からわからなかったて言ってやがるんだよ。


「でも、セイコが焦ってることだけはわかりました。戦闘中、アトーフェに何かを聞いていたようですし」

「……それだけで、わかるのか?」


「はい! もちろんです。だって、愛するセイコのことですから」


 ……きゅう、とアスベルが強く私を抱きしめる。


「むしろ、あなたが大変なとき、何もできなくてすみません。俺……頭がよくないですし。多分、セイコの疑問には答えられなかったです。だから、俺は……自分のできることで、あなたを支えようと思いました」


 ああ、駄目だ。

 愛おしさであふれてしまう。私はアスベルの唇に、自分の唇を重ねた。


 彼は驚いていたけど、でも抱きしめてくれた。

 しばし、私達は抱き合いながら唇を重ねた。


「……ありがと、アスベル。すごく、愛を感じたよ」


 彼の明るい太陽のような笑みに、私は安らぎを覚えていた。

 ほんと、いいやつだよな、アスベルは。


 大好きだよ、おまえが。ほんとうに……大好きだ。

 ……まあ、あんま言うと言葉が軽くなっちまうからね。何回もは言わないけどさ。


「うぉおおお! セイコぉ! 俺も愛してますよぉおおおおおおおおおおおお!」


 アスベルがバカみたいに大声で言う。

 まったく、バカみたいなやつだ……ったく。


 でも……私は彼のバカさかげんに救われてるところがある。


「うぉおおおおおお!」

「やかましいわ」


 ぺんっ、と私はアスベルの頭をたたく。


「すみません。それで、何を悩んでいたのですか?」


 切り替え早いなこいつ……。


「ああ。ちょっとトン汁のことでな」

「トン汁?」


「そう。トン汁さ、食べて元気になって普段より強くなった気ぃしなかったか?」

「しました!」


「……あれさ。偶然だったんだよ。私の予想していない、効果だったんだ」


 アスベルが不思議そうに首をかしげる。


「それはラッキーだったじゃ無いですか」

「そうだね。ラッキーだった。でも……偶然に起こったことだった。起きない可能性だってあったし、そっちのほうが大きかったろ?」

「ふむ……まあ」


 私は、言う。


「嫌なんだよ。私。偶然とか、ラッキーとか。……神とか。……そういった、形の無いものに頼るのが、嫌いなんだ」


 ラッキーなんて、不確定で不確実なモノに頼るのが、嫌なんだ。

 

「もちろん、今回の戦い、勝算はあったよ。SSポーションのストックも結構あったし。でも……あのラッキーに助けられた部分は大きかった」


 トン汁パワーで【偶然】強くなったから、こんなにあっさりと、敵を倒せた。

 でも、偶然が無かったら? 起きなかったら?


 大事な人たち、彼らを大事に思っている人たちを、死なせてしまったかもしれない。


「うーん……セイコ。君の言ってること、正直難しくて、ほぼ理解できないです」

「まあ、だろうな。これは、私の性格の問題でもあるからな」


 不確実なモノに頼りたくないっていう、性格。


「でも、良いじゃ無いですか。ラッキーに頼っても」

「…………そうかな」


「そうですよ! いいじゃないですか、上手くいったぜラッキー! で」

「で、でもよ……それがもし悪い効果を発揮してたら……」


「大丈夫です! だって、セイコの作るものですよ? 良い効果しかでないに、決まってるじゃ無いですか!」


 ……ああ、まったく。

 この夫はよぉ。


 どんだけ私のこと、信頼してんだよ。ほんと……。


 ……私はこいつがバカ正直なやつだって知ってる。

 裏表の無いこいつの言葉だから、すとん……と私の胸に、彼の言葉が響いた。


 ラッキーに頼ってもいい、か。

 

「そうだな。たまにはいいかもね、ラッキーに……不確実なモノに、頼ってもさ」


 依然として、私は神を信じたわけじゃ無い。

 これは……夫を信じた結果だ。


 私は夫の言葉を信じることにする。


 さっきまでの私は、不確実なモノを頼ったことについて、思い詰めていた。

 不確実なものを確実にして、次にいかさないといけない。それは、まあ確かにそうなんだけどさ。


 今は、ラッキーで、済ませることにした。

 

「あんがとな、アスベル。楽になったよ」

「いえいえ! 少しでもお力になれたら何よりです!」


 私は夫と並んで帰路につく。

 隣にいるのがこいつで、ほんとうによかったって……。


 改めて、そう思った。

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