21.結界ミソ
私お手製ミソで作った豚汁を、ドワーフたちが美味そうに食っている。
うむうむ、良かった。
どーにも腹を空かせてるやつはほっとけないんだよね。
アンチもそうだったが。
何か食べさせちゃいたくなる。
食べ過ぎはまあ確かに良くないけどね。
でも……ガリガリで死にそうな目をしてるより、美味しい物たらくふくって、幸せそうな顔をしてるほうがいいって私は思うね。
で、だ。
美味いものを作ると、必ずこいつが食いついてくる。
「皇后はん!」
大商人キンサイだ。
口にものつめこみすぎてリスみたいになってる。
「飲み込んでからしゃべれ」
キンサイは高速で咀嚼し、飲み込んだあとに言う。
「ミソ、どうやってそんなたくさん用意したんです!?!?!?!?!?」
この世界においてミソはかなり希少な調味料だ。
現状、東の果てにある極東でしか製造できない、とされている。
キンサイは私がたくさん味噌を仕入れたと思ってるらしいが……。
さて、どうするかね。いくらでもごまかし方はある。
が、まあ……。
こいつは身内だしな。嘘つく理由もない。
「作ったんだよ」
「つ、つ、つぅう!?!? つくったぁああああああああああああ!?」
こいつほんと、リアクション大げさだな。
芸人かよ。
「キンサイ。おまえなぜそんなに驚いてるんだ?」
事情を知らぬアスベルが不思議そうに首をかしげる。
おまえのそのバカ正直なとこ、可愛くて好きだぜ。
「皇后はんが味噌を作ったって言ったからや! そんなあり得へんことを! さらっと!」
「ありえないことなのか?」
はぁ……とキンサイはため息をつく。
「ミソが希少な理由は、味噌を作るまでの管理が大変やからな」
「かんり?」
「せや。ミソっちゅー食品は、腐らせることで完成するって言われてるんや」
ああ、こっちじゃそういう認識なんだな。
「く、腐らせるぅ? 腐ったら食えないだろう?」
「せや。けど……実際極東のミソで作った料理を食ったことあるんやが、マジでうまいんや。もっとも、皇后はんのミソは! そのミソを超えるうま味があったけどな!」
ま、こっちは現地人とちがい、ズル使ってるからね。
「うーむ、不思議だ。腐ってるのにとても良い匂いがする……」
アスベルが不思議そうに豚汁を見つめている。
「ま、腐るって言うか、発酵させるっていうのが、正しい表現なんだけどよ」
「「はっこー?」」
……ま、こっちじゃまだ発酵という概念を理解できないか。
「微生物が炭水化物やたんぱく質等の有機化合物を分解し、アルコール、有機酸、二酸化炭素などを生成する……って言ってもわからんな?」
こくこく、と二人がうなずいてる。
まあしょうがない。
「目に見えないちいさな生き物が、この世界にはいるんだよ。そいつらが頑張ると、食べ物が美味しくなる、こともある。これが、まあ発酵だ」
「なる……ほど?」
うーんまだ伝わらないか……。
キンサイは真面目な顔で私の言葉を聞いてる。さすが、大商人。知識欲がはんぱないな。
「微生物にはそれぞれ、一番力を発揮しやすい条件ってのがあるんだ。常温であることとか、酸素がない状態とかな」
「ふむふむ……」
「ミソは、微生物が大豆を発酵させることでできる。で、その大豆を発酵させるのにもっともいい条件を、一定に保つのが、難しい」
「温度とかかいな?」
「お、そうだ。それと、外から入ってくる雑菌……大豆発酵に関わらない微生物のせいで、発酵が美味くいかなくなることもある」
ぴしゃんっ、とキンサイが膝を打つ。
「そうか……結界やな! だから、皇后はんは味噌を造れたんや!」
「え、え? なになに、どういうことだキンサイ?」
アスベルはまだ理解できてないらしい。
まあこれが普通だ。これで理解できたキンサイがおかしい。
「皇后はんは結界を作って、内部の条件を一定に保つことができる! 大豆を発酵させる微生物が、一番力を発揮する条件を、結界の中に構築できれば! 安定して、大量のミソが量産できるっちゅーことやな!」
キンサイ、正解。
私は現代知識にプラスして、結界というチート能力が使える。
だから、この科学が未発達の異世界でも味噌を安定して作れるということだ。
「はぁ~……ほんますごいおひとやで、皇后はん……」
「おほめいただきどーも」
「いやいや! まじですごいと思ってますわ!」
「わかってるよ。卸して欲しいんだろ?」
「はい! 話が早くて助かりますわ!」
そりゃ、キンサイの目が【金】になってるからな。
ほんと、わかりやすいやつだ。
「ま、卸してやってもいい」
「ありがとうございますぅうううううううううううう!」
ま、こいつはもうけをネコババするようなバカ商人じゃないしな。
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