12.酔い止めを作って絶賛される
海魔蛇を退けた、翌日。
私は目を覚ます。
「くぅ~……くぅ~……むにゃぁ……♡ かぁたま……しゅきぃ~……♡」
私の隣で寝ているのは、天使。
おっと違った、大天使アンチ。
私達がいるのはキンサイの用意した船の、船室の一つ。
息子と一緒に昨日は寝たのだ。
息子は私の体にコアラみたいに抱きついてる。
可愛い子だよ、本当に。
ああ、いつまでもこのかわいらしい寝顔を見ていた。
が……そろそろ動かないとね。まだ航海の最中だから。
「アンチ。朝だよ。起きなさい」
「ふぁ~……い」
眠そうな目をこすりながら、アンチは目を覚ます。
こうして一発で目を覚ます我が息子は、本当に偉くて良い子だなって思ったな。
で、だ。
「おまえら……何してるんだ……?」
「「「おえぇええええええええええええ……」」」
甲板では、船員たちが全員青い顔をしていた。
ほとんどの連中が、手すりから顔を出して、吐いてやがる。
「おいアスベル。アスベル?」
アスベルはワイン瓶を抱えて、気持ちよさそうに眠っていやがった。
ったく……。
「かぁたま……みんな、どうしたのぉ? 病気ぃ~? 心配です……」
おお、アンチが心配してる……!
「大丈夫だよ、優しい我が息子。こいつらがこうなってるのは、自業自得だ」
「じごー、じとく……?」
「ああ。こいつら、昨晩は夜遅くまで飲んで騒いでたからな……」
海魔蛇討伐後、キンサイは宴会を開いたのだ。
助けてくれたジョリーロジャー海賊団に、感謝するためと、そして彼らを迎え入れるための宴だそうだ。
航海の途中で酒なんて飲むなよ……と注意しようとして、やめた。
キンサイの厚意を無碍にしたくなかったしな。
で。
私は昨晩、アンチを寝かしつけるために、宴会を早めに切り上げた。
が。
このバカどもは、私達が寝た後も、どんちゃんさわぎをしていたわけだ。
「飲むのもほどほどにしておけっつったよなぁ? あぁ!?」
「「「すみませ……おぇええええええ!」」」
ったく。
こいつらは……。
「うう……母さん……」
「じょにー!」
近くで倒れていたのは、ジョニィ・ロジャー。
この子も遅くまで飲んでいたらしい。
アンチはジョニィに慌てて近づく。
「じょにー、だいじょうぶ?」
「ああ……アンチ。オレはだいじょうぶ……いたたたた」
「! だいじょーぶじゃないよぅっ、わぁん! どうしよぉ! かぁたま~……たすけてあげてぇ~?」
上目遣いで、アンチが、おねだりしてきた……だと……?
なんて破壊力だ。これはまずい。
こんな風におねだりされて、断る女がいたら、そいつは人間じゃない!
全人類をメロメロにしてしまほどの魔性のおねだり……。
アンチ、恐ろしい息子!
そんな風におねだりされたら、断れない。
「しょうがねえな。アンチに感謝しなよ、おまえら!」
こいつらが不調なのは完全に、自分たちが遅くまでバカやっていたから、自業自得も良いところ。
だが、まあ……航海に支障が出てもこまるしな。仕方ない。
「アンチ。倉庫からカラの樽を、転がしてこれるかい?」
「あいっ!」
アンチが元気よく返事をする。ああ、かわいい。りりしい。かっこいい。
私はアンチが出て行った後、作業を開始する。
「かぁたま、あったよぉ~! たる~!」
うちの賢い息子が樽をコロコロと転がしてきた。
「偉い! 偉すぎる! ノーベル科学賞……受賞!」
「わぁい! ……のーへる?」
可愛くて偉くて、やっぱり可愛い息子の頭をわしゃわしゃとなでた後……。
私は、最終作業に入る。
樽に水を入れて、そして……創薬スキルを発動。
樽の中の水が、翡翠色に発光し出す。
「わ、ひかった! あと……さわやかな、いいにおいぃ~」
私は転がっていたコップ(宴会で使ったんだろう)で、薬をタルからすくう。
ジョニィのそばにしゃがみこんで、薬を飲ませる。
「!? す、すげえ……! 母さん、すげえよ! 一発で、気持ち悪いのがなおったぁ……!!」
さっきまで船酔い+二日酔いで、死にかけていたジョニィの表情に、活力が戻る。
「すごいよ! 何したの?」
「ちょいと、お薬を作ったんだよ」
「薬?」
「ああ。アンチ、ジョニィ、手伝ってくれ。この薬を、倒れてるバカどもに飲ませるんだよ」
「アイ・マム!!」
ジョニィが元気よく返事をする。
アンチはそれを見て……。
「あい! まむ!」
と最高に可愛い返事をした。
ああ……切実に写真機が欲しい。スマホが動けるようにしてほしい。
アンチの写真を撮りまくりたい……。
ややあって。
私たちは手分けして、ダウンしてるバカどもに薬を飲ませた。
「うぉ! すげえ!」「目がしゃっきり!」「酔いがぴたーって止まった!」「奇跡の水だこれっ!」
バカどもが覚醒。
私の元へと押し寄せてくる。
中でも……。
「皇后はん!!!!!!!!!!!!」
グロッキー状態だったキンサイは、今ではすっかり、元気になっていた。
「こ、こ、これなんの薬なん!? 酔いが一瞬でなおったんだけどぉ!?」
「酔い止めだよ」
「酔い止めぇ!? なんやそれ! 聞いたことあらへんよ!」
「まあ、この世界にはないだろうよ」
私が造ったのは酔い止め薬。正確に言えば抗ヒスタミン薬だ。
私の魔力はあらゆる化学物質に変換可能である。
薬の聖女たる私にとって、この世界で酔い止めを作ることなんて、たやすいことなのである。
が、この世界の住人はそんなことできない。
ましてや、この世界に酔い止めなんて者は存在してないのだ。
結果どうなるかというと……。
「皇后はぁああああああああああああああああああん!」
またしても、キンサイは私の前で土下座してきた。
「売ってくれぇえええええええええええええええええええ!」
はぁ……。
まったく、この男は……。
土下座することに躊躇しなさすぎるだろ。
あと、金になりそうな匂いに、敏感すぎる。
「こんなめっちゃ便利なお薬があれば! 船乗り相手にぼろもうけできるでぇ!」
まあそりゃ、船乗りと船酔いは切っても切れないような関係だ。
酔い止めなんて、喉から手が出るほど欲しいだろうよ。
「お願いします! 偉大なる皇后さま! どうかそのすごい薬を! 我々におゆずりくださいぃいいいいいい!」
「考えとくよ」
まあ考えるだけだけど。
「おねがいします! くださいくださいください! 酔い止めくださいぃいいいいいいいいいい!」
「ああも、くどい! やめろ!」
「やめたら薬売ってくれますかぁ!?」
「めんどくさいやつだな!」
結局、商売の話は陸地についてから、と言ったところ、キンサイはおとなしくなった。
まったく人騒がせなやつだ……。
「しかしセイコ、これはほんとうにすごい薬ですね。こんなすごい物を作ってしまうなんて……ほんと、さすがセイコですっ!」
あほアスベル、あほ商人……。
この場で酔い潰れていたあほどもに、私は言う。
「いつまでもぼさっとしてないで、さっさと出航準備しな!」
「「「「イエス・マム!」」」」
キンサイ、ジョニィ、そしてこの場の全員が、私にそう言うのだった。
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