08.出航
数日後。
私ら帝国は、ウォズの港町へとやってきた。
港には、でかく立派な船が停泊している。
「わぁ! かぁたま! すっごい! おっきおふねです!」
腕の中で、息子のアンチが歓声を上げている。
目をキラキラさせている息子のなんと可愛いこと……。
「かぁたま、これにみんなでのって、ドワーフ国カイ・ぴゃゴスへいくのですねっ」
「ああ、ドワーフ国カイ・パゴス、な」
「あいっ!」
港には帝国の連中が集まっている。
今回、同行するのは……。
私、アスベル、アンチ。
メメ、マギ、アトーフェ。
ホサたち兵士、そして……。
「ゆーのぉ? おるすばん?」
めがねをかけた執事、ユーノに、アンチが尋ねる。
「ええ」
「うぅ~……さみしくない?」
「お気遣いどうもありがとうございます、皇子。ですが、さみしくありません。龍脈式通信機がありますし」
ユーノには海を挟んでも通話可能な、龍脈式通信機を持たせている。
これで、向こうに行っても会話ができる。
「でも……ひとりぼっち……」
「いいのです。私は、うれしいので」
「う?」
「聖母様に、大事な仕事を任せられてます。それが、私にとってうれしいことですし、誇らしいことなのです。旅に同行することよりも」
「そっかぁ~……。じゃあ、おみやげ、いーっぱい、かってくるねっ! おみやげばなしも、いーーーーっぱい、してあげるねっ!」
アンチ優しい……息子好き……ああ……
私はぎゅっとだきしめて、頬ずりする。
「ユーノ。帝国は任せたぞ」
「…………はい。命にかけて、あなた様の大事な国を、守らせていただきます」
ユーノはできるやつだし、一番信頼してる。
だから、置いてくのだ。
「ユーノよ、帝国は俺の国なのだが……」
とアスベルがツッコミを入れる。
ユーノはめがねをかけ直す。
「せいぜい、聖母様の足を引っ張らないでくださいよ、アスベル様」
「わ、わかっている……! セイコは俺が守る! たとえこの身朽ち果てようと……あいたっ」
私はアスベルの頭をはたく。
「勝手に死ぬんじゃないよ。全員で生きて帰るに決まってんだろ?」
「! そうでした……俺たちには、幸運と治癒の女神がついてるんでしたね!」
こ、幸運と治癒の女神って……。
「わ、私のことかい?」
「ほかに誰がいるのですか! 兵士たちの間で、セイコはそう呼ばれてるんですよ?」
「んなっ!? は、恥ずかしいあだ名つけるんじゃあないよ! だれだい、噂の出所は!?」
じっ、とユーノがアスベルを見つめる。
「おまえかぁ……アスベルぅ!」
「だ、だってだって……」
「だってじゃない! 帰ったらその恥ずかしいあだ名、言うなって厳命すんだよ!?」
「えー……」
「返事!」
「はーい……」
ちっ。妙なことしやがって……たく……。
「おー、皇后はん。そろってまんな?」
「キンサイ」
翼人の商人、銀鳳商会ギルマス、キンサイ・クゥがやってきた。
「乗り込むのはこのメンツで全員か? 結構すくないな」
「いや、もうちょっとで追加メンバーがくる」
「追加メンバー? ほかにあんたのお仲間っておったっけ?」
すると……。
「ババア! 来てやったぜ!」
赤髪のガキと、柄の悪そうな連中が、ぞろぞろとこちらにやってきた。
ツンツンとした赤髪に、黒いマント。
やんちゃそうな顔つきの男……というか、少年。
ジョニィ・ロジャーとその仲間たちだ。
「おう、ジョニィ。キンサイ。こいつらが追加メンバーだ」
キンサイが、ぽっかーん……と口を大きく開いてる。
「なんだその間抜け面?」
「こ、皇后はん!? え、嘘やろ!? こ、こいつらってまさか……じょ、ジョリーロジャー海賊団……!?」
「ああ。それがどうした?」
「どうした!? えええ!? あ、あの凶悪で有名な、荒くれ者集団の……!?」
「凶悪かどうかは知らんが、ジョリーロジャー海賊団とその船長、ジョニィ・ロジャーも今回旅に同行するぞ」
「なんやてぇえええええええええええええええええええええ!?」
びっくり仰天といった感じで、声を張り上げるキンサイ。
うるさいやつだ、アンチが耳を押さえてるじゃ無いか。ったく……。
でも泣かない。
偉すぎる。ちゅーしてやりたい。しちゃおう。ちゅー。
「こ、皇后はん……同行……って、こんなやつらを……あいたっ!」
私はキンサイの頭をぶったたく。
「こんなやつらっていうなよ。彼らは私の仲間だ」
「仲間!? まじか!?」
キンサイがジョニィに尋ねる。
「ああ! オレら海賊団は、マデューカス帝国と手を組んだ! 対等な……仲間だ!」
「なんやてぇええええええええええええええ!? あいたっ」
何度も叫ぶアホの頭を、ぶったたく。
ったく、アンチの耳に負担をかけるんじゃないよ……。
「まじか。海賊団を配下に加えるなんて……」
「配下じゃないよ。対等な仲間っつったろ」
「だとしても……すごいことやで……」
「そうか?」
「そうや! あり得へんことしとるんやで、あんた。自覚あらへんの?」
「ないな」
やってることは、いつものことだからな。
仲間スカウト。
「しっかし……ほんまに言うこと聞くんかいこいつら……? 仲間のふりして、荷物取られるとか嫌やで……?」
まあ、言いたいことはわかる。
ジョニィがフンッ、と鼻を鳴らす。
「おいカラス男」
「わ、わいのことか……?」
「ほかに誰がいるんだよ?」
確かにキンサイの腰から生えているのは、カラスの黒い翼だ。
「出航はいつだ?」
「きょ、今日の予定やけど……」
「今日はやめておけ。これから、嵐になる」
「はぁ? あんた何言うてんの……?」
キンサイが疑いの目を、ジョニィに向ける。
「こんな晴れとるんやで? 嵐なんてくるわけないやん?」
キンサイの言うとおり、今は快晴。
雲一つ無い空がどこまでも広がっている……。
が。
「キンサイ。出航を遅らせるぞ」
「はぁ!? こ、皇后はん……こいつの言葉を信じるん?」
「当然」
私はジョニィをまっすぐに見て言う。
「私は、仲間の言葉を信じる」
こいつは裏切らない。
「こ、根拠は……?」
「まあ、強いて言えばジョニィ・ロジャーが、ジョリーロジャー海賊団の船長やってるからだ」
「は、はぁ……?」
彼が人に信頼される人物であるのは、わかっている。
部下がみんな、ジョニィを信じてるからな。
そんな男が、仲間を裏切るわけがない。
「ババア……いい女だな。やっぱりオレの女にふさわしい! 結婚してくれ!」
「悪いね。無理だ。可愛い息子がいるもんでね」
じっ、とアンチが私を見てきた。
「ああ、すまんな。紹介がまだだったな。ほら、アンチ。ご挨拶なさい」
私はアンチを下ろす。
ぺこ、とアンチがジョニィに頭を下げた。
「あんち、ふぉん、までゅーかすです! よろしくおにゃーします!」
ジョニィは……にっ、と笑う。
「おう! オレはジョニィ・ロジャー! 海賊だ!」
「かいじょく! か、か、かっこぉうぃ~」
「はは! そうだろ! おまえ気に入った! クルーにしてやる!」
「やたー!」
秒で仲良くなってるな……。
と、そのときだ。
ぽつ……ぽつ……。
「な、なんや……急に空が暗くなってきたで……!?」
すっ、とユーノが近づいてきて、傘を広げてきた。
私はアンチを抱っこする。
ザァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
「うぉおお! どしゃぶりやぁあああああああああ!」
バケツをひっくり返した、といってもいいレベルの大雨が降っている。
「ほ、ほんまや……あの男の言うとおりやった!」
「だから言ったろ? これからは、船乗りの言葉は信じろよな、カラス男」
「あ、ああ……わるかったわ……あんたを疑って……」
キンサイはジョニィを信じるようだ。
「ジョニィ、出航はいつがいい?」
「明日……とおもったんだが、この調子なら夕方には雨がやみそうだぜ」
「そうか。じゃあ夕方に出航するよ!」
アスベルたちがうなずく。
「さすが聖母様です。有能な海の男までも、短期間で虜にしてしまうなんて」
傘を差しながら、ユーノが言う。
振り返ると、ユーノがどこか、嫌そうにしていた。
「海賊を仲間にするのは、嫌だったか?」
「海賊が、というより、男を仲間にするのはちょっと……」
「? どういうことだ」
「いえ……なんでもありません。聖母様は魅力的な女性。男が寄ってくるのは、しょうがないとはいえ……複雑な気持ちです」
何言ってんだこいつ……。
「道中、お気をつけて」
「おう」
その後、ジョニィの言うとおり夕方には雨がやんだので、私達はドワーフ国カイ・パゴスへ向けて、出港したのだった。
【★☆読者の皆様へ 大切なお知らせです☆★】
新作の短編投稿しました!
タイトルは、
『スキル【無】の俺が世界最強〜スキルの無い人間は不要と奈落に捨てられたが、実は【無】が無限に進化するSSS級スキルだと判明。俺をバカにした奴らが青ざめた顔で土下座してるけど、許すつもりはない』
広告下↓にもリンクを用意してありますので、ぜひぜひ読んでみてください!
リンクから飛べない場合は、以下のアドレスをコピーしてください。
https://ncode.syosetu.com/n7314iz/




