07.船長をなぐさめ、海賊団を仲間にする
【※読者の皆様へ】
今回のあとがきは、
「全ての読者様」にお読みいただきたいです!
1分も掛からないので、最後まで目を通してくだると幸いです。
酒飲み勝負から数時間後……。
酒場の二階に、私は居た。
二階は宿屋になっているみたいだ。
ベッドが一つ、椅子1つだけの、簡素な部屋。
ベッドにはジョニィが眠っている。
安らかな寝息を立てていた。……私は彼が起きるのをじっと待つ。
ほどなくして、パチ……とジョニィが目を覚ます。
「おはよう、ジョニィ」
「ババア……」
もはやこの子にババアと呼ばれても、私は特に気にしない。
この子の素性をある程度、私は理解してるからだ。
「ぐっすり眠れたようだね」
「…………ああ」
彼が頭を押さえる。
多分そして、首をかしげた。
「なんで……二日酔いになってねえんだ。頭がしゃっきりするし、吐き気もしない……」
「ああ、そりゃ、私の薬のおかげだね」
「薬?」
私はアイテムボックスから、茶色い瓶を取り出す。
「なんだよ、それ?」
「これは肝臓の機能を、強化する薬だ」
「か、かんぞう……? 強化……?」
「酒ってのは人体に有害でね。肝臓ってところで毒性を弱めるんだ。この薬は、肝臓の働きをよくするもんなんだよ。それをあんたに飲ませたのさ」
薬の聖女たる私の力、創薬。
あらゆる化学物質を作り出すというもの。
キャ●ジンとか、ああいう二日酔いにきく薬だって、この異世界でも作れるのさ。
で、私が飲ませることで、その薬の効果は向上する。
結果、ジョニィの体内にあったアルコール分は、数時間で完全に分解されたってわけ。
「…………そうか。ババア。それを、勝負の前に飲んでたんだな」
「おや、頭が回るじゃないか。その通りだよ」
何も、飲み会のあとに飲まなくても、この薬は効くのだ。
「この薬を飲んで肝臓を強化していたから、私はいくら飲んでも酔い潰れなかったのさ」
「…………」
ジョニィはギリ……と歯がみする。
そこに彼なりのプライドがあるように思えた。
「悪かったね、ズルして」
「……いや。気にすんな。仕掛けに気づかなかったオレが間抜けだったのさ」
ずるだ、無効試合だ、といってこない。
潔い男だ。
ジョニィは今にも泣き出しそうだ。
でもぐっとこらえている。
「オレは……負けちまったんだな。一味の前で」
「そうだ」
ジョニィは勢いよく立ち上がる。
一体何を……。
「ばかっ!」
ジョニィのアホは、窓に足をかけて、飛び降りようとしたのだ!
私は急いで彼の足をつかむ!
落下しようとしていたジョニィを、なんとか引き留める!
はぁ……はぁ……ふうぅ……間に合ってよかった……。
だが……。
「何やってんだいこのバカ!」
私は声を荒らげた。
そりゃそうだろう。勝負に負けたくらいで、こいつは二階から飛び降り、自殺しようとしたのだから!
「離してくれ! オレは……もうおしまいなんだ!!」
ジョニィのアホは、泣いていた。
本気で死のうとしてるってことがわかった。
「オレは! じーさんみたいな、強い海の男じゃないといけないんだ! ジョリーロジャー海賊団の船長は! 負けちゃいけないんだ!」
「だから死ぬっていうのかよ!」
「そうだよ!」
……よほど、この坊やは船長であることに誇りを持っているのだろう。
だが……!
「馬鹿野郎!」
私は力を込める。
お、もぉ……重い……けどぉお!
私は一本釣りの要領で、ジョニィを引っ張り上げた。
どしんっ!
私は仰向けに倒れる。
その上に、彼がもたれかかっている。
よし……とりあえず危機は脱した。
「ば、ババア……なにしやがる……離せ!」
私はジョニィを……抱きしめてやった。
「あんたは、頑張ってるよ」
私は言う。
「でもね、ジョニィ。今のままじゃあんた【も】死んじまうよ。あんたの尊敬する、先代の船長、ジョリー・ロジャーのように」
「!?」
ジョニィが驚いた顔してる。
何を驚く?
「な、なんで……じーさんのこと……」
「調べたに決まってんだろ?」
「なんで……?」
「仲間にする相手のこと、ちゃんと知っておきたかったからね」
ジョニィが、暴れるのを止める。
私はジョニィを抱きしめ、頭をなでてやる。
「あんた……ほんとは13なんだろ? 未成年のくせに、酒なんて飲んで……まったく、バカなことして」
ジョニィは16と自己申告してるが、こいつ自身13才。
つまり……さば読んでいたのだ。
「そんなに、相手になめられるのが嫌だったのかい……?」
「…………当たり前だろ。船長は、なめられたらおしまいなんだ。敵にも……仲間にも……」
「それはおじいさんから学んだのかい?」
「ああ……じーさんは、オレの憧れなんだ……あんな風に、強い海の男に、なりたかった……。じーさんにもっといろんなこと、教えて欲しかった……けど……」
けど、死んでしまったのだ。
この子が10歳の時に。病気でね。
「あんたは、じーさんが残したこの海賊団を……守りたかった。だから……年齢をいつわって、船長をやってたんだね」
「……ああ。でも……」
ぐす……とジョニィが涙ぐむ。
私はそんな彼を、よしよしと頭なでてやった。
「でも……全然うまくいかなかった。オレはじーさんみたいに、強くないし、カリスマもない。オレのせいで……海賊団の名前にも、泥を塗っちまって……」
「そうだね。海賊行為、あんたらはしてないもんね」
「!? 知ってたのか……?」
「ああ。言ったろう? 調べたって」
「…………」
「あんたらは、財宝を求めて航海をしてるだけなんだよね? 未開の島へいって、宝を探す。それがあんたらの主立った活動だ。その課程で、海で困ってるやつがいたら、助けていた。金が無くて困ってる連中に財宝を配ってもいたんだね。義賊ってやつなんだろ?」
ジョニィが何度もうなずく。
でも……。
「名前が売れすぎたんだろうね。あんたらの名前を騙って、船から盗みをする輩も増えてきた。ジョリーロジャーが死んでから、特に、そういうアホな連中が増えた。その結果……」
ジョリーロジャー海賊団は、悪。
そういうレッテルが、張られてしまったわけだ。
「あんたは、どうにかして、その悪いイメージを払拭しようとした。でも、だめだったんだね」
「…………うん」
そこに居たのは、もう……突っ張ってる海の男ではなかった。
我慢強い、ただの……男の子だった。
「祖父のように強くならないと。海賊団の汚名を返上しないと。部下たちに……なめられないようにしないと。って、ずっと……頑張ってきたんだね」
「……………………うん。でも……全然だめで……」
「だめじゃない!」
私は、はっきり言ってやった。
「だめじゃないよ! あんたは頑張ってる! 現に、じーさんが残した海賊団は、空中分解せず……ちゃんと形を残してるじゃないか!」
この子の努力は、ちゃんと、実っているのだ。
「あんたは偉いよ! まだ13なのに! しっかり帳簿もつけて、部下にも給料をしっかり払って! ちゃんと、頑張ってる!」
「…………なんで、そこまで知ってるんだよ……?」
まあ、そう思うよな。
「あの酒場のマスター……【ギウデ】から聞いたよ。あんたの……兄貴分なんだってね」
「……うん。じーさんの片腕だった男で、オレの……兄貴だ。でも……ほんとにギウデの兄貴が、教えてくれたのか?」
「ああ。頑張ってるってさ。ちゃんとあんたの頑張り、見てるやつが……近くにいるじゃないか」
「ギウデの、兄貴……」
……思うに、この子は祖父が死んでから、自分の兄貴にも頼らなくなったんだろう。
自分一人で、頑張らないとって。
自分が、船長の孫だからって……。
「ギウデは、あんたのことすごく心配してたよ。一人で大丈夫だろうかって。なあ……頼って良いんだぞ? 人に」
「…………でも、オレは……船長なんだ。じーさんは、みんなを引っ張っていた。頼れる存在だった。オレも……ああならないと……」
私はよしよし、とジョニィの頭をなでる。
なんとなく、この子をほっとけなかった。一人で頑張ろうとしていた、うちの旦那に……似てるから、かな。
「いいんだよ。人は人だ。あんたと私が違うように、あんたとじーさんも違う。じーさんは確かに、みんなの頼れる船長だったかもしれない。けど……あんたはじーさんとは違うんだ」
「っ!」
「あんたは、あんたなりの船長になればいいんだよ? 自分一人で無理だと思ったら、人を頼ってもいいんだって」
「う……ぐす……うぅうううう……! うわぁあああああああああああん!」
堰を切ったように、ジョニィが泣き出す。
もう……限界だったのだろう。一人で頑張るのが。
「オレ……オレぇえええええ! 頑張ってるよねぇえええ!」
「ああ、頑張ってるよ。ほんとうによく頑張ってる。13でこんなでかい組織まとめるなんて、たいしたやつだよ」
「うわぁあああああああああん!」
大泣きするこの子の頭を、私はよしよしとなで、あやしてやる。
ジョニィは私にしがみついて、ずっと……泣き続ける。
……やがて、彼は泣き疲れて、眠ってしまった。
「出てきたどうだい?」
ガチャッ。
部屋に入ってきたのは、酒場のマスター……ギウデ。
そして……。
「うう……船長ぉ~……」
大男、サブ。
「ちゃんと話聞いてたね?」
「ええ、ばっちりと」
ギウデの手には、通信機が握られている。
ベッドの脇には、私の持ってきた通信機。
私とジョニィの会話を、こいつらは聞いていた。いや……私が聞かせたのだ。
「船長……こんな苦労してたなんて……」
私はジョニィを抱っこして、そして、ベッドに寝かせる。
ギウデとサブを連れて、私は部屋を出た。
そして……。
パシッ! とギウデとサブの頬をはたく。
ギウデは、目を丸くするだけだ。
一方でサブは激高する。
「な、何すんだよババア!」
「バカ野郎ども! 大人のくせに! なにガキ一人に大きな荷物背負わせてるんだい!?」「!?」
そうだ。
こいつらはそばで、あの子が頑張ってる姿を見てきたのだ。
……いや違う。
ただ、傍観していただけだ。
「頼って良いんだって、なんで言ってやらなかったんだい!?」
「だ、だって……」
「だってじゃない! この子の頑張りを見ていながら何もしないなら、何も見てないのと同じだよ!」
「っ!?」
ぽん……とギウデがサブの肩をたたく。
「セイコ様の言うとおりだよ、サブ」
「ギウデの兄貴!」
ギウデが私に頭を下げる。
「セイコ様。どうか……私達と、船長に……力を貸していただけないでしょうか。私達も頑張ります。でも……私達だけでは……足りないのです」
……ジョニィの適性を見た。
あの子は、アスベルと同じタイプだ。前に出て働くことで、輝くタイプ。
事務作業などは苦手なんだ。
そこを補って欲しいってことだろう。
「ギウデの兄貴、頭を上げてくれ。。それは……おまえの仕事じゃねえ」
「ジョニィ……」
ジョニィがいつの間にか、私達の後ろにいた。
「起きてきたのかい?」
「ああ。おかげで、すっきりしたよ」
ジョニィが私に深々と頭を下げた。
「お願いします、どうか……オレに……力を貸してくれ」
と、頭を下げた。
私……じゃない。
私達に、だ。
「だってよ、あんたたち。何か言ってやりな」
「うぉおおおおおおお! もちろんですよ船長ぉおおおおおおおおおおお!」
サブがジョニィに抱きついて大泣きする。
「おれら、甘えすぎてました! これからは、一岩となって、みんなでこの海賊団を盛り上げていきましょう!」
「ああ! 頼むぜサブ! ……ギウデの兄貴も」
ふっ……とギウデは笑う。
「もちろんだよ、ジョニィ」
そして……ジョニィが私を見る。
「ありがとな、ババア! あいたっ」
私は、ジョニィの頭をはたいてやる。
にっ……と笑う。私とジョニィ。
「失礼なガキだな。でも……嫌いじゃないよ」
「ほんとかっ? じゃあオレの嫁になれ!」
「残念。悪いがもう旦那がいるんだよ」
しかし……ジョニィは不敵に笑う。
「じゃあオレが奪ってやる! オレは海賊だぜ? 欲しいものは奪ってでも手に入れてやるからな!」
元気が出たようで、何よりだ。
私はジョニィの頭をなでる。
ジョニィはうれしそうに笑ったのだった。
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タイトルは、
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