05.大海賊をスカウトするため、勝負する
漁港の街ウォズにて。
ジョリーロジャー海賊団の船長、ジョニィ・ロジャーと話しに来た。
「それで? ババア。ここに何しに来たんだよ?」
赤いツンツン頭の小柄な男……ジョニィは、私の持ってきたウィスキーをちびちびなめながら尋ねてくる。
あの手土産がなかったら、今頃この酒場から放り出されているだろう。持ってきて正解だった。
さて、要件を聞いてきてるな。
ふむ。
「要件を単刀直入に言おう。私は、ジョリーロジャー海賊団が欲しい」
「…………」
がきんっ!
金属がぶつかる音がする。
振り返ると、入り口にいた大男が、いつの間にか曲刀を、私の頭上に振り下ろしていた。
男の曲刀を、アスベルが受け止め……。
そして、メメがナイフを、男の喉元に突きつけていた。
どうやら大男が私を殺そうとしたらしい。で、うちの優秀な護衛が、止めた……と。
やるじゃないかい。二人とも。
「【サブ】! 武器を下ろせ!」
「しかしジョニィ船長! このくそババア調子に乗ってますぜ!」
「いいから、サブ、下げろ」
大男……サブは、ジョニィに言われて渋々武器を下げる。
メメたちは私が何も言わずとも、獲物をしまった。
「よく訓練された兵士だな、ババア」
「そりゃどうも」
一人はうちの帝国の皇帝だ……とは言わないでおくか。めんどくさいし。
アスベルはその辺あんまり気にしないが。いちおうあとで褒めておこう。
今ここでアスベルを褒めると、駄犬っぷりを発揮し、相手になめられる可能性が高いからな。
「で、ババア。どういうことだよ。オレたちが欲しいって」
「文字通りだ。おまえたち全員を、まるごと、帝国で雇わせて欲しい」
「…………」
ジョニィが黙りこくる。
すぐにだめだ、と感情的に反発しないのは、こいつが一味のリーダーだからだろう。
「どうして海賊団ほしがるんだ?」
「これから私らは今後、海に出る。その際、海をよく知るやつらに、護衛と道案内を頼みたい。この海を誰よりも知ってるのは、ジョリーロジャー海賊団だ。だから、おまえたちが欲しい。報酬はきちんと払う」
「…………」
ジョニィが私の目をまっすぐ見てくる。
値踏み……というか、私の真意を推し量ろうとしてるのだろう。
好きに探るがいいさ。
私は本心で言ってるんだからな。これが伝わらないようなバカは、いらないよ。
「偉そうにしやがって! 船長! こいつらぶち殺しま……ぶげええ……!」
ジョニィがサブの顔面をぶん殴った。
……小柄なのに、なんてパワーだ。とは驚かない。
こいつの適正については、私の目が見抜いている。
これくらいは、やる男だってわかっているのだ。
「サブ。黙ってってさっきオレは言ったよな?」
「ずびばぜん……」
サブが口元を押さえながら言う。
私はアイテムボックスから、ポーションを取り出して、サブに放り投げる。
「それ使って怪我を治しな」
「なっ!? くそババア……なんのつもりだ!」
「別に。あんたが怪我したのは、私が来たことが原因と言えなくもないからね。それ使ってサクッと怪我治しなよ」
サブが私にいぶかしげなまなざしを向ける。
だが、よほど殴られたところが痛いのか、私のポーションを飲む……。
しゅぉんっ!
「なっ!? 痛みが一瞬で消えたし、折れた歯が生えてきた!? す、すげえ……!」
サブに飲ませたのはSSポーション。
あの程度の怪我は一瞬で治る。
「船長……! この女すごいですぜ!」
「そんなの、見りゃわかる。この女は召喚聖女だ」
「な!? しょ、召喚聖女!?!? ってたしか、ゲータ・ニィガ王子の婚約者だって……」
「サブ。偽の聖女が捕まったってニュースは新聞に書いてあったろ? つまり本物がこのババア……いや、この女ってわけだ」
私こそが本物の聖女だった……というニュースまでは、報じられてないはずだ。
あくまで偽物逮捕ってだけ。
「アイテムボックスに鑑定スキル。その二つがあれば金を稼ぐなんて簡単だろう。つまり……この女は金を持っている、あるいは、これから大金を稼ぐ可能性が大ってわけだ」
鑑定もアイテムボックスも、商売にかなり有利なスキルだ。
それをこの男はちゃんと理解してる。
「…………」
後ろで首をかしげてる、アホ皇帝とは大違いだな。
でも空気を読んで、私にアホな質問してこないところは、評価に値するぞ、アスベル。
「女。手を組んでやっても良いぜ」
「…………!」
サブがまた声を張り上げようとして、やめる。
さっきボコられたのが応えたのだろう。
だが、不満がサブの顔に表れていた。
「どうした、サブ?」
船長であるジョニィが発言を許す。
「船長……! どうして受けるんですか!? 帝国の犬になれってことですよね!?」
「サブよ。それは違う。この女はあくまで手を組もうって言ってきてる。傘下に入れじゃなく……な」
その通りだ。
私は別にこいつらを下僕にしたいわけじゃない。
「なんで手を組まないといけないんですかい!? おれら海賊、自由に生きるのがモットーじゃあないですかぁ!」
ジョニィがサブの質問に答えない。
私をじっと見つめてくる。
サブの質問に対する答えを、私はすでに持っている。
だが……あえて言わない。沈黙を選択した。
「いい女だ……悪くない」
ジョニィが不敵に笑う。
「いいだろう、女。手を組んでやってもいい」
「おお! さすがセイコです! 大海賊を仲間に率いるとは!」
いや、アスベルよ。
ジョニィの目は、まだぎらついてる。
「ただし! 条件がある」
「なに!? 条件だと!? セイコにひざまくらしてもらうとかか!」
アスベルのあほが……そんなんでこいつがなびくわけが……。
「ひざまくら……」
「は?」
「そ、そんな馬鹿みたいな条件があるわけないだろうが、バーカ!」
ジョニィが声を荒らげる。
ん~……なんだったんだろう、今のは。
「条件ってのは簡単だ。オレと勝負して、あんたが勝ったら言うことを聞いてやる」
「勝負だとぉ! 女性相手に殴り合いで勝敗を決めるだなんて、男の風上にも置けないやつだな!」
アスベルが激高する。
こいつの、私をオンナ扱いするとこ、嫌いじゃないぜ。むしろ優しくて、好きだなって思う。
「安心しな。オレに女を殴る趣味はない。こいつで決着をつける」
ジョニィが、酒場のマスターに目配せをする。
ドン!
「酒の、大ジョッキ……?」
2杯分のジョッキが、カウンターの上に載せられた。
「勝負のルールは単純、どっちが多く酒を飲めるか、だ!」
なるほどな。
この内容なら、男と女が平等に勝負できるか。
「いいだろう。受けて立ってやろうじゃないの」
ということで、私はこの男と、酒飲み比べ対決をすることになった。
「セイコ……頑張ってくださいね!」
アスベルが私を励ましてくる。
「危ないからやめろ、とは言わないんだな」
「もちろん! セイコは、無意味なことを嫌う人だ。きっと、勝ち星が見えているのでしょう?」
……。
……あー、なんだろうね。
アスベルが、すごく、愛おしく感じるよ。
彼の私への信頼が、実に心地よい。
別に、アスベルが私に付与魔法をかけたわけじゃない。
そんな力を持ってないことは、鑑定スキル持ちの私が一番わかっている。
……けど。
いや、だからこそ。
私は、彼からの愛を、そして私から彼への愛情を、強く感じていた。
愛は人を強くするっていうしな。
私はアスベルに近づいて、ぎゅっ、と抱きしめる。
「せ、せ、セイコぉ!? どうしたんですか急に!?」
「勝利の後でキスしてやるぜ、おとなしく待ってな」
「! はい!」
私は席に戻る。
カウンター上には、ずらりと並んだ大ジョッキ。
「勝利の後に……? もう勝った気でいるのか、女?」
私はアイテムボックスに【茶色の空瓶】をしまって、言う。
「ああ。悪いなジョニィ。あんたじゃ【今の】私に勝てない。この、薬の聖女さまにはな」
ジョニィの目がス……と細くなる。
静かなる殺気を、彼から感じていた。
「はひぃん! こわいですぅ~……」
後ろでメメが怯えているが、私は臆することなく、席に座る。
ジョッキを手に取る。
「いつでも始めていいぜ?」
「後悔するなよ、女。いっておくがオレは酒が大好物だ! 酒飲み勝負で、一度も負けたことがない!」
ジョニィもまた、ジョッキを握る。
「あんたが勝ったら、オレは配下に加わろう。けど、オレが勝ったら、オレの女になりな」
「ああ、いいぞ」
アスベルは、この条件を聞いても動揺を見せなかった。
彼と目が合う。
強く、アスベルがうなずいた。私は彼から勇気をもらう。
「さ、始めようか」
「ああ! 悪いがオレが絶対、100%勝つ試合だけどな!」
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