04.海賊団をスカウトしに行く
明くる日。
私はアスベル、アンチ、メメ、アトーフェをつれて、ゲータ・ニィガ王国の港町、ウォズへとやってきた。
「ふわわぁ~♡ 潮のにおいがします!」
『ふっ……ここが海か。面白い』
フェンリルのアトーフェ背中に、アンチが乗っている。
アトーフェは人間サイズにまで縮んでいる(魔法でサイズを変えられる)。
だから、フェンリルが出た! と大騒ぎにはなっていない。
アトーフェをみな、普通の従魔だと思ってるのだろう。
「セイコ。ウォズには初めて来ましたが……どういう街なのですか?」
アスベルが私に尋ねてくる。
皇帝が他国のこと知らなすぎるだろ……。
まあいい。
「見ての通り漁港だ。ここから、西は砂漠の国フォティアトゥヤァ、東は獣人の国ネログーマ、はては最南端に存在するエルフの国アネモスギーヴ……と、いろんなところにいける、大きな漁港だよ」
人も物もかなりの数行ったり来たりしてる。
アンチが迷子にならないように、護衛二名をつけている。
「漁港になんのようなのでしょうか? まだ、ドワーフ国カイ・パゴスへは行きませんよね?」
「ああ、まあ今日は旅行の前の下準備みたいなもんだ」
「下準備……?」
私たちは港へとやってきた。
大きな船がいくつも止まっている。
「わ! わぁ……! おっきな船ぇ……! アトーフェみたい! おっきくってかっこい~!」
『ふっ……そうだろうそうだろう。皇子はよくわかっているな。我のすごさが』
「あとーふぇは、すごい!」
『ふっ……面白い皇子だ』
海を前にはしゃぐアンチ……尊いぜ。
が、今はそれどころじゃない。
「アトーフェ」
『どうした、聖母?』
「私とアスベルとメメは、ちょっと所用で外れる」
「ふぇええ……? あ、あたしもですかぁ…………?」
ドジメイドメメが首をかしげる。
話を聞いてなかったみたいなリアクションだ。まあ話してないしな。
「アトーフェはアンチの護衛を頼む。すぐ用事済ませて戻ってくるから」
『ふっ……いいだろう。矮小なる人間の頼みなんぞ、本来なら気高きこの神獣フェンリルが聞く道理もないのだが……貴様は特別だ、聖母』
「おう、そうか。しっかりな」
アトーフェの背中に乗っている、アンチに近づく。
「アンチ」
「あいっ!」
「聞いてたな?」
「あいっ! かぁたまはとぉたまとメメと、お出かけ! ぼく……あとーふぇとお留守番!」
「良い子だ」
私はアンチの頭をわしゃわしゃなでる。
アンチはうれしそうに笑った。
「じゃあな」
「あいっ! いってらっしゃーい!」
……息子が送り出してくれると、元気100倍おばちゃんマンだぜ。
私は二人を連れて、人通りの少ない方へと向かう。
「あ、あのぉ~……皇后さまぁ~……なんか、どんどん治安の悪い感じになってるんですけどぉ~……?」
メイン通りを離れると、メメの言うとおり、柄の悪い連中が増えてきた。
怪しげな店もまた、だ。
「どこ行くんですかぁ~?」
「【ジョリーロジャー海賊団】のアジト」
メメが立ち止まってしまう。
「どうしたのだ、メメ?」
アスベルは……まあ、安定の無知っぷりだ。
一方でメメはわかっているらしい。
「じょ、じょじょ、ジョリーロジャー海賊団ぅう!? って、あの大海賊ジョリーロジャー率いる、海賊団ですかぁ!?」
「そうだな」
言い方がバカ丸出しだったが、まあこいつもバカだしな。
メメはきびすを返して、逃げようとする。
「アスベル。とってこい」
「わんっ!」
わんって……。おまえ犬かよ……。
まあ、犬っぽいけどさ、アスベル。
バカだし、アホだし、ご主人に甘えてくるしな。
アスベルはメメを羽交い締めにして戻ってくる。
「い~~~~~~~やですぅ~~~~~~~~~! 帰りたいですぅうううううううう!」
「却下」
「いやぁ~~~~~~~~~~~~~~~!」
嫌がるメメを引き連れて、私たちはとある酒場の前にやってきた。
「メメがこれだけおびえるということは……ジョリーロジャー海賊団とは、恐ろしい輩なのですか?」
「そうだな。この近辺で、ジョリーロジャー海賊団をしらねえやつはいないだろうよ」
このウォズをはじめ、あちこちで出現しては、船を襲い金品を強奪する……。
大海賊、ジョリー・ロジャーを頭とした、やばい連中である。
「この酒場は海賊のアジトになってるんだ」
「では……ここにジョリー・ロジャーが?」
「ああ」
「何をするのです?」
「決まってんだろ? スカウトだよ」
メメがくわっ、と目を見開く。
「す、スカウトぉおおおおおおお!? あの恐ろしいジョリーロジャー海賊団をですかぁ!? バカなんですか皇后さまぁ……!? あいたっ!」
メメの頭をはたく私。
おまえには言われたくない。
「セイコ、なぜ海賊をスカウトするのですか?」
「ま、理由は二つだ。戦力増強、そして……道案内」
アスベルが首をかしげる。
「戦力……? なぜ戦力が必要なのです? 帝国には兵士がいるではないですか?」
「あほ。うちでまともに戦える兵士の数は30。船にこいつら乗せたら、帝国の守りはどうするんだよ?」
「あ、そうでしたね……。我らがいない間に、敵国や、魔物に襲われる可能性だってある」
「そういうこった。だからホサやジンたち、帝国兵は国に残しておきたい」
しかしそうなると、船を護衛するやつらがいなくなる。
「そこで……海賊? ちょっと突飛すぎませんか? セイコを否定したいわけではありませんが、もっとちゃんとした護衛をつけた方がいいかと。冒険者とかで」
「そうですよぉう! なーんでわざわざ海賊!? しかも、ジョリーロジャーを?!」
まあ、その意見は最もなのだが……。
ガチャッ……!
「おいおまえら! 表で何わめいてやがる!? うるせえぞ!」
柄の悪い大男が、ドアを開けて、私たちに怒鳴りつけてきたのだ。
「うひぃいいいいいん! すみません! すみません! かえりまーす!」
ばびゅん! とメメが去って行く。
……ったく、あいつ戦闘の適性があるっつーのに、なんで逃げてやがるんだ……。
「犬。とってこい」
「わんわんっ!」
……アスベルにメメをとってこさせてる間……。
私は大男を、にらみつける。
……【違うな】。
「…………」
しばしにらみ合う私たち。
確かに相手はごついし、顔が怖いが……。
だが、それだけだ。
ならば逃げる必要はない。
「要件は?」
「酒を飲みに」
「ちっ……入りな」
メメとアスベルが帰ってきた。
アスベルはメメを脇に抱えている。
メメは生きの良いマグロのように、びちびち動いていた。
「セイコ、どうなりました?」
「中に入っていいとさ」
「さすがセイコ! あのような大男ににらまれ、怒鳴られても、一歩も引かないその胆力! お見事です!」
うんうん、とアスベルが感心したようにうなずく。
一方メメは「ふぇえ~……中に入りたくないですぅ~……」と泣く。
それを無視して、私たち三人は酒場の中に入った。
さっきの大男をはじめとして、目つきと柄の悪い連中が、ゴロゴロいた。
「一秒でも早く外に出たいですぅ~……殺されちゃいますよぉ~……」
まあ、ここは海賊のアジト。
やばい連中のたまり場の、ど真ん中だ。
下手なことしたら、殺されるか、売り飛ばされるか……あるいは、どちらもってこともありえる。
「セイコ、どうするんですか?」
「ここの頭に用事がある」
「ということは、ジョリー・ロジャーを探すのですね」
「いや、探す必要はない」
「へ?」
驚くアスベルをよそに……。
私は、壁際へと向かっていく。
壁近くにはバーカウンターがあった。
椅子には、一人しか座っていない。
「子供……?」
アスベルが首をかしげる。
椅子に座っているのは、子供と【見間違う】ほどの、小柄な男だ。
「あぁん……?」
ド派手な赤色の髪を、ウニのようにツンツンにした男が、こちらをにらみつけてくる。
「なんだてめえ……? てめ今オレのこと、ちびっつったか?」
ウニ頭がアスベルに絡んでくる。
一方アスベルが不思議そうに首をかしげる。
「いや俺はただ、なんで酒場に子供がいるんだって……あいたぁ……!!!!!!」
私は強めに、アスベルの足を踏みつける。
彼が脇にかかえていた、メメが、床に落ちる。
メメは床に落ちると同時に、私の背後に隠れて、ぶるぶると震え出す。
「このバカが、大変失礼した。お詫びに、こちらを……」
私はアイテムボックスのなかから、【とあるもの】を取り出す。
「ん? なんだこれは……?」
酒瓶を、男の前に置く。
「きれいな琥珀色してんな……」
「それはウイスキー。私の、故郷の酒だ」
「へえ……」
男が酒と、そして私とを何度も見る。
「あんたはオレに、子供が酒なんて飲むなよ、って言わないんだな、ババア」
「ば!? き、貴様……! 俺のセイコにババアとはなんだババアとは……! あいたぁ!」
私はアスベルの足を踏んづける。
「セイコ……足痛い……」
「怪我はしてないから安心しな」
私の目では、アスベルは健康そのものだと見える。
で、だ。
「おまえに子供なんて言わないさ。ジョリーロジャー海賊団船長……【ジョニィ・ロジャー】?」
瞬間……。
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!
「うひゃぁああああ! く、屈強な男たちが、曲刀を向けてきたですぅううううううううううう!」
酒場にいた全員が私に殺意を向け、そしてその曲刀で、攻撃しようとしてきた。
「よさねーか、てめえら……!」
「船長……しかし……」
「オレがよせといったんだぞ?」
最初に出てきた大男が、ジョニィを見て船長と言った。
「ほ、ほんとうにこの子が……船長なのですね……? セイコ」
「ああ。ジョニィ・ロジャーご本人様だよ」
ジョニィがクルーたちをにらみつける。
周りで見ていた彼らは、曲刀を下げた。
「あんた……オレが海賊団船長だって、なぜわかった? オレはガキにしか見えないだろう?」
自己申告通り、このジョニィってガキは(私から見ればガキ)、子供だ。
体の大きくない、しかも、童顔。
頬には十時傷があって、わんぱく坊主感を倍増させている。
誰がどう見ても、十中八九、こいつが船長だとは気づかないだろう。
ではなぜ気づけたか?
「私には、鑑定スキルがある。私の目にはおまえの名前が写ってる」
私は嘘をつかなかった。
交渉の場で嘘をつかない、それが信条だからだ。
「ふっ……なるほど。ババアのくせに、結構やるじゃあないか」
「そりゃどーも」
「まあ座れよ」
「じゃ遠慮なく」
私はジョニィの隣に腰を下ろす。
一方でジョニィは私のお土産を手に取って、グラスにつぐ。
私が現代知識を使って作った、ウィスキー。はたして……。
「!? なんだこりゃ……うめえ! 超うめえ! なんだよこのうまさ……半端ないだろ!」
舌の肥えた現代人ならいざしらず、中世ヨーロッパ風世界観の人間には、地球の美味いウィスキーは劇薬だったらしいな。
「うめ……ほんと……なんだこれ……うますぎだろ……! なぁババア!」
「ああ。私もウィスキーは好きだ」
「気が合うじゃねーかババア!」
ジョニィが酒を絶賛してる様を見て、クルーたちが驚く。
「気難しい船長があそこまで気に入るなんて……」
「あの女……何者……?」
驚くクルーをよそに、アスベルが得意げに胸を張っていた。うぜぇ。
「手土産に免じて、話くらいは聞いてやるよ」
「そりゃどーも」
さて、大海賊を交渉の場に引きずり出せたぞ。
あとは……楽な仕事だ。
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「セイコの度胸すげえ!」
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