03.超発明品を披露して驚かれる
ポーション工場を最短で作るために、ドワーフをスカウトすることになった。
帝都カーター、帝城の会議室にて。
私、アスベル、ユーノ、キンサイ、そして……マギが集まっている。
「う~? かぁたま……? 何始めるのぉ?」
アスベルの膝の上には、我が愛しの息子、アンチが座っている。
「これから楽しい家族旅行の、日取りを決めるんだよ」
「!? か、かぁたま……かぞくりょこー! 旅行……つまり、りょこーってことでしょうかっ?」
「アンチ……」
おまえってやつは……。
「天才か?」
「うー!」
「賢さが半端ないな」
「かぁたま~♡」
全く末恐ろしい息子である。可愛い上に紳士、さらに頭までいいだなんて……。
「ずるいですよ、アンチ! 俺だって……セイコに褒められたいのにっ!」
「! かぁたま……とぉたまも褒めてあげてくらさいっ!」
まだ褒めるとこ何にもないが……まあ息子がそうしてほしいって言うんだ。
「アスベル。偉い」
「とっても雑……! だが……それがいい!」
はぁ……とキンサイがため息をつく。
「ちょ、早くはじめよーや、会議」
「そうだな」
ユーノがホワイトボードを持ってくる。
「なんや、これ?」
「ホワイトボード」
「????」
まあ、こっちの世界にはないものだ。
私は立ち上がり、水性ペンを持って、ホワイトボードの前に立つ。
きゅきゅっ、と簡単に周辺国の地図を書く。
「これが我らのいる、六大陸と呼ばれる、一つの大きな大陸だ」
【コ】の字をした、大陸の画を描く。
【コ】の一画目、その中央部分。
「ここがマデューカス帝国。で、私たちが行こうと思ってるのが、ここ……」
【コ】の二画目の終わりの部分を、丸する。
「ここに、ドワーフ国カイ・パゴスがある。行くためには陸路か海路の二択だが、今回は船を使って海を渡る」
すっ、とアスベルが手を上げる。
「どうした?」
「正直、陸より海のほうが、怖い気がします。沈むリスクもありますし、それに海上の魔物もいます」
「ほぅ……」
「陸路は確かに遠回りになってしまいますが、そちらのほうが安全では……?」
……珍しく夫が頭を使っていた。
今回はアンチも連れていく。親としての防衛本能が、安全なルートを選ばせてるのかもしれないな。
「アスベルの意見はもっともだ。が、陸路を使うと……【赤龍山脈】を通らないといけない」
「【かるま・まうんてん】……とは! なんでしょ~!」
息子が元気よく手を上げる。
「偉い!」
「う?」
「わからないことがあったら、手を上げて質問する。偉い!」
「! これが……えらいことなのですかっ!」
「ああ。なかなか出来ないやつも多いのだ。アンチ……おまえは、すごい!」
「やったぁ~! えらーい!」
えへへっ、とアンチが笑う……くぅ~……疲れが吹っ飛ぶ。
「セイコ! 俺も赤龍山脈を知りません!」
「何で知らないんだい。地図見たことないのかい?」
「アンチと対応が違いすぎません!?」
大人と子供じゃ対応が違うだろうが……。ったく。
「赤龍山脈っていうのは、獣人国ネログーマと、ドワーフ国カイ・パゴスの国境にある、でかい山脈のことだ」
ちょうど、【コ】の二画目の始点あたりがネログーマ、終点であるドワーフ国との間に、赤龍山脈がある。
「陸路を行くとどうしても、ここを経由する。で、赤龍山脈にはやっかいなことに、赤龍っつー、やばいドラゴンの縄張りなんだ。そこを通るとおるとなると……甚大な被害が出ちまう」
瘴気が浄化された後も、居残る魔物ってやつは結構いるのだ。
赤龍はその一角。
「セイコでも赤龍は討伐できないのですか?」
「やったことないからわからないが……でも確実に、大きな戦になる。となるとアンチを連れてくなんてことはできない」
ぴょこっ、とアンチが手を上げる。
「ぼく、おるすばん、できますっ!」
「おお~…………アンチぃ~…………偉すぎるぞぉ~……」
私はアンチに近づいて、ほっぺにキスをする。「きゃー♡ かぁたまのキス~♡ うれし~!」と喜ぶ息子。
「でもなアンチ。カイ・パゴスにいくと、長い間こっちに戻って来れなくなる」
「うぅ~……がまん……」
「いいんだよ、我慢しなくて。言ったろ、今はうんと甘えてもいいって」
「かぁたまっ!」
気遣いの出来る優秀な息子だが、それでもまだまだ幼子だ。
長くお留守番させてはおけない。
「ゆえに、陸路はなし。海路で行く。異論ないな?」
こくん、と男たちがうなずく。
よし。
「じゃあ次の図に移る……」
きゅきゅ、と書いた部分を消す。
「なんやてぇええええええええええええ!?」
キンサイが声を張り上げた。
んだよ……。
「次の説明に移るとこだぞ……邪魔するな」
「いやいやいや! 皇后はん……! なんや今の!? 書いた線が、魔法みたいに消えよったでぇ!?」
ああ、そうか。
キンサイは……というか、異世界人はホワイトボードと水性ペンなんて、見たことないのか。
「これは特殊なインクで出来たペンだ。こうして、書いたモノを自在に消せる」
「なんやてぇええええええええ!?」
うるせえ男だ。
その口にペン突っ込んで黙らせてやろうか……?
と思ったが、よい子(※アンチ)が見てるので我慢する。
「こ、皇后はん!? そ、それほしい! くれ! ホワイトボードとペン! ほしい!」
立ち上がって、キンサイが叫ぶ。
一方アスベルはよくわかってない様子。
「なぜそんなにほしがってるのだ、キンサイ?」
「バカ皇帝! これがどれっだけ革新的発明品か、わかってへんのか!?」
「ああ」
「ったく! ええか、これさえあれば、リアルタイムで画を描きながら説明できる! しかも……紙を全く使わなくてや! 紙は高いからな!」
「ほぉ……?」
わかってない様子のアスベル。
「皇后はん、なんやこの発明品! どうやって作ったん!?」
「そこの天才魔道具師に作らせた」
会議なんて何も聞いてない様子の、ピンク髪の男を指さす。
「マギア・クィフの元宮廷魔導師殿だよ」
「ま、魔法国の宮廷魔導師やてぇえええええええええええ!?」
また叫ぶ、キンサイ。
「驚きすぎだろう? なにを驚く?」
とアスベル。おまえのその素直な無知っぷりは、嫌いじゃないぜ。
「こない天才的発明品を開発できるのは……そうか。マギア・クィフの天才を連れてきたからか! わ、う、うちでほしいぃい~」
「やらん」
魔道具師マギが、ちらっとキンサイを見て言う。
「ぼくここ離れるつもりないから。皇后さま、いろんなアイディアくれるし。好きなだけ物作りさせてくれるし。後普通に好きだし」
「なんだとっ!? おいマギ、最後のそれはほんとなのかっ?」
アスベルが声を張り上げる。
「え、好きに決まってんじゃん。仕事できるし、こっちの仕事に過度に干渉しないし、有能だし。あと美人だし」
「わかる! マギ、おまえはわかってるな……!」
うれしそうにうなずくアスベル。
ったく……今のですっかり、マギが私のこと好きって台詞が、抜けてしまってるようだ。
「悪いな、マギ。私はそこのバカ夫と可愛い息子一筋なんだ」
「ん。別にいいよ。ぼくが勝手に好きなだけだし」
ドライな性格でよかった。
「まじか……なあ、皇后はん。ドワーフいる? というか、ポーション工場いるん? そこの天才と、あんたのアイディアがあれば、金はいくらでも生み出せるんとちゃう?」
まあ言いたいことはわかる。
私が持つ、地球の品物を、マギが魔道具で再現して、それを流通販売すれば……。
キンサイが言うとおり、結構もうけが出るだろう。
実際にそうだろうしな。
「マギのような凄腕魔道具師が、今後も出てくるとは限らない。こいつがいなくなったら、うちが終わり……みたいなことにはしたくないんだよ」
「な、なるほど……長期的に物事を見てるんやな。慧眼やで……」
ポーション工場は、最終的に私がいなくても、安定してポーションを製造販売できれば、帝国はとりあえず安泰になる。
ま、それですべての問題が解決するわけじゃないけどな。
少なくとも……アンチが皇帝になったとき、今のように、弱小と馬鹿にされるようなことはなくなる。
「話を戻すぞ。カイ・パゴスは船で1週間かかる」
陸路だともっとかかるから、早いほうだ。
「セイコ、船はどうするのですか?」
「そこのキンサイに船を用意してもらった。それを使ってカイ・パゴスへ向かう」
ゲータ・ニィガのウォズという、港町から船が出る予定だ。
「となると、往復で二週間。カイ・パゴスですぐにドワーフが見つかるかはわからないですし……一ヶ月くらいは、皇族不在となるってことですか?」
「そうだ。ま、アスベルよ、おまえの不安はわかる」
中が回るかってことだろう。
私らがいない間も、内政をやらないといけないからな。
「が、まあユーノがいれば大抵なんとかなる。こいつは出来るやつだからな」
「光栄です」
むむむ、とアスベルが不満そうだ。
「なんだ?」
「まるで、皇帝がいなくても、国が回るみたいな……」
「現にそうだろうが。内政仕事は、全部私とユーノがやってるんだし」
「ぐぬぅう……バカで申し訳ない……」
いや、アスベルはこれでいいんだ。
こいつは後ろでデスクワークするより、前に出て前線指揮者として働かせるのがベストなのである。
そういう適性を持ってるのだから。
「しかし、そこの有能執事はんと、皇后はんで回してる国から、皇后はんがいなくなったら、やばいんとちゃう? 指示出し役がいなくなるやんな?」
キンサイの指摘はもっともだ。
が。
「そこも問題解決済みだ。マギ?」
「ん。もちろん出来てるよ」
マギが現在進行形で作っていたモノを、こちらに持ってくる。
「出たな! 通信機! 金のなる木!」
「なんだおまえ、知ってるのか……?」
「当たり前やん! 商人からすれば、喉から手ぇ出るほどほしいもんやで!」
通信機。
ようは、日本にあるトランシーバーと同じだ。
マギはスマホから、音声を遠くに飛ばす技術を独自開発し、通信機を作ったのである。
たいしたやつだ。
「そか。通信機があれば、カイ・パゴスにいても、通信機でやりとりできるんやな?」
「いや、普通に出来ないよ?」
「なんやて!?」
マギがため息をつく。
「通信機で会話できる範囲は、せいぜいこの帝国内くらいだよ。海の向こうのひとと会話なんて無理」
「そ、そうよな……うん。そないもんがあれば、世紀の大発明どころの話ちゃうしな……」
「ま、作っちゃったんだけどね~。海の向こうの人と、会話できる通信機!」
ぽかーん……とするキンサイ。
「ま、マギ……? それってひょっとして、すごい発明じゃないのか?」
とアスベル。
お、珍しい。アスベルよ、さえてるな。
「あったりまえじゃん。海向こうと通信できる魔道具なんて、歴史上存在しない。それを作ったら、そりゃもう世界に革新を起こすレベルの、超発明さ。でしょ、皇后さま?」
「そういうこったな」
え、え? とアスベルが首をかしげる。
「キンサイに、知られちゃまずいんじゃ……? 絶対にほしいって言ってくるだろうし……」
「ほしいいい!」
キンサイが私の前にやってきて、土下座してきた。
「皇后様! どぉおおおおおおおおおおおおおおか! その海の向こうのやつと、会話できる通信機! ゆずってぇええええええええええ! お願いしますぅうううううううううううううう!」
よしよし。
狙ったとおりになった。
「キンサイよ。この【龍脈式通信機】、試してもないのに、ほしいのか?」
「りゅーみゃくしき、つーしんきぃ~?」
アンチが復唱する。か、かわいい……。
「ほしい! 絶対すごいやつなの確定してますやん! 天才マギ・クラフトの作ったものですし! それに……皇后はんは交渉の場で嘘つくバカじゃないし!」
ふむ、こいつちゃんとここが、交渉の場だってことを理解してるようだな。
「え、交渉の場だったんですか?」
……アスベルよぉ。
「まぎぃ~。りゅーみゃくしき、つーしんきってぇ?」
「電気信号と龍脈を利用して、世界中どこにいる人間とも通話を可能にした、通信機のことだよ」
「う~? う~~~?」
「龍脈って言うのは地中を流れるエネルギーで、音波を電気エネルギーにして地中に流せば……」
「う~……わからなぁい~……」
潤んだ目のアンチ。
だが私は言う。
「えらいぞ、アンチ。わからないこと、ちゃんとわからないって言ったな」
「かぁたまにほめられたぁ~! えへ~♡」
ああ……アンチ……癒やし……好き……。
「ま、ようは衛星電話みたいなもんでな。世界中のやつと話せる通信機で……」
「ほしい!」
「よし、じゃあわかってるな?」
「はい!」
キンサイが興奮気味にいう。
「船のレンタル代から、滞在費! 今回の旅行でかかる費用、全額! 出資させてください!」
「おう、わかってんじゃないか。それでいいよ」
「ははぁー! ありがたき幸せぇえええええええ!」
よし、足代と宿代ゲット。
「とまあ、国内のことはユーノ、おまえに任せる。指示は龍脈式通信機で出す」
「御意に」
その後細かい打ち合わせをして……。
数日後、私たちは船の上の人となったのだった。
【★大切なお知らせ】
好評につき、連載版をスタートしました!
『【連載版】異世界帰りの元剣聖、二度目は王子に転生し、魔法を極める〜恵まれた家柄と才能で世界最強〜』
広告下↓にもリンクを用意してありますので、ぜひぜひ読んでみてください!
リンクから飛べない場合は、以下のアドレスをコピーしてください。
https://ncode.syosetu.com/n3643iz/