02.アイテムボックス無双
あくる日、私は隣国、ゲータ・ニィガ王国の王都、【ニィガ】に来ていた。
ここはかつて、私を召喚したくせに、追い出した国。
出禁を食らっていたのだが、王太子に謝罪させたことで、出禁は解除。
こうして普通に来れるようになったのだった。
で。
私は夫と一緒に、王都にある銀鳳商会の本店へと訪れていた。
「皇后はん! おひさやな!」
「おう、キンサイ」
入り口で待ってると、私の元に、翼人の美男子がやってくる。
こいつは、キンサイ・クゥ。
ここ、銀鳳商会のギルマスをやっている男だ。
「いやぁ、今日の皇后は、ほんま、お美しいなぁ」
「おいおまえ! 失礼だぞっ!」
……私の隣にも、美男子が立っている。
美しい銀髪に、青みがかかった銀の瞳。
背は高く、筋肉質で、しかしすらっとした体躯を持つ。
こいつは……アスベル。
【アスベル=フォン=マデューカス】。
マーキュリー帝国の皇帝……なのだが。
「セイコは今日【も】! 美しいだろうがっ!」
……とまあ、少々頭がアレなのだ。
「セイコの美しさはいついかなる時も損なうことはない! セイコの美貌は我が帝国を照らす太陽のようで……あいたっ」
色ぼけ年下皇帝の頭を、はたく。
「世辞は結構だ」
「いや! お世辞ではないです! セイコはきれいだし、美しいのは、世界の真理ではないですかっ!」
「はいはい」
「雑! だが……そんな雑に扱われることに、喜びを覚える! セイコに雑に扱ってもらえるのは、俺だけですからねっ! えへへっ♡」
……前は、変な男だと思っていた。
でも今は……まあ、面白いやつくらいには、思うようになってる。
キンサイが目を丸くし、にやにやと笑う。
「なんや、皇后はん。皇帝はんと、寝たんか? あいたっ」
無礼な商人の頭をはたく。
「バカ言ってないで、さっさと案内しな」
「冗談やってもう……。まあええわ。こっちですわ。ついてきてくださいな」
私たちはキンサイとともに、ギルドの中を歩く。
銀鳳はでかい商業ギルドだ。
それを証明するかのごとく、この建物の広さも相当なものだ。
そして……。
「うぉお! セイコ! すごい大きいですね、この倉庫っ!」
私たちが来たのは、王都銀鳳商会の倉庫だ。
アスベルが驚くのもわかる。
首を動かさないと、倉庫の端から端が見渡せないのだ。
「盛況だな」
たくさんのギルド職員たちは、忙しそうに、行ったり来たりしている。
「へへっ。おかげさんで。これも皇后はんとこと、手を結んだからですわ。SSポーション、ほんま……高く売れてます」
SSポーション。
私の造る、最強ポーションのことだ。どんな怪我病気もなおしてしまう、魔法の薬として、市場ではすごい高値で売れる。
「オークションでしか手に入らなかったSSポーションが! 銀鳳で普通に買える! 客が押し寄せてきてもーーーーーー笑いが止まりませんわ!」
キンサイは相当SSでもうけたのだろう。
ほくほく顔をしていた。
「ぐぬぬ……うちで売れれば……」
アスベルが悔しそうに言う。
まあたしかに、作ってるのはうちで、うちで売ればその分もうけは多くなる。が。
「諦めろ、アスベル。たとえ作れたとしても、販路がないからね」
作っただけじゃ儲からないのだ。
作って、売らないとな。
かつては大きかったらしいうちの国も、今ではすっかり衰退し、弱小国家に成り下がっている。
こんな状態で、モノを売ることなんてできない。
だから、銀鳳に頼らざるを得ないのだ。
「これからも、銀鳳商会をごひいきに♡」
「態度次第だな。帝国へのリスペクトがなくなった瞬間切るからな」
「わ、わかってますわ! 皇后はん相手に、嘘はつきまへん!」
こいつがもうけを不当に着服しやがったら、その瞬間に取引をやめるぞ、と脅したのだ。
「百戦錬磨の大商人キンサイを動揺させるとは……さすがセイコですね!」
「ほんま、この皇后はんはすごい聖女能力だけでもキカクガイなのに、頭もキレるから、やっかいやわぁ……」
ま、キンサイの今のぐちは、聞かないでやるか。
「で? 用意は出来てんだろうな?」
「もちろんや。こっちやで」
私たちはキンサイとともに、倉庫の中を移動する。
こんもりと、資材が山積みになっていた。
「なんです、この資材の山」
「ポーション工場を作るための資材だよ」
「ああ、そういえば! 我が帝国に、ポーション工場を作るという計画がありましたね!」
現状、ポーションは手作業で作ってる。
手作業だと作る量に限界があるからな。
だから、ポーション工場を作ろうってことだ。
「あとはこの資材を運ぶだけやけど……運ぶのにも結構これかかりまっせ?」
キンサイが指で丸を作る。金がかかるってことか。
まあそうだ。こんな山盛りの資材を運ぶとなると、相当な金がかかるだろう。
「問題ない。ボックス、オープン」
私がそう叫ぶと、目の前にあった山盛りの資材が、一瞬で消えた。
「ええええええ!? 消えた!? ど、どうなってるんですかセイコぉ!?」
「あほ。落ち着け。アイテムボックスに入れただけだ」
「アイテム……ボックス? ああ、召喚聖女のスキルの一つですね!」
召喚聖女。
文字通り、異世界から召喚された、聖女のことだ。
召喚聖女には、この世界に来る際に、特殊な能力がいくつか付与される。
アイテムボックスは、その付与されたスキルのひとつだ。
「いやぁ……皇后はん、うらやましい! ほんっま! うらやましいわぁ!」
キンサイが心の底から、うらやましそうな顔をして言う。
「ただでさえ、アイテムボックス持ちは、レアや。1000人に一人くらいの割合」
「1000人! 多いな!」
「少ないよ」
全人口の0.1%しか、持ってないってことだもんな。
「しかもアイテムボックスには、普通、制限があるんや」
「せーげん? 限りがあるのか?」
とアスベルがキンサイに尋ねる。
「せや。入れるものの大きさ、容量に限りがあるんや。けど……召喚聖女の持つアイテムボックスは特別なんや。大きさ無制限、容量無限! こんなすごいアイテムボックスは、召喚聖女しかもってへん!」
ただでさえ少ない、アイテムボックス持ち。
聖女のアイテムボックスは、その中でも性能が段違いなのだ。
「ほんまうらやましいわ~。無制限のアイテムボックスなんて、全商人のあこがれやぁん……なぁ、皇后はん」
すっ……とキンサイが私に近づいてくる。
近くで見ると、顔はいいなこいつ。
「わいを、あんたの夫にしてくれへんか?」
「なにぃい!?」
いきなりの、キンサイからのプロポーズに、驚く夫アスベル。
「あんたのためなら、わいの財産全部捧げてもええ。わいの妻になってくれへん……?」
ふむ、なるほど。
銀鳳の全財産か。
とんでもない金額になるだろう。
「だぁああああああああああああああああああああめっ!」
アスベルが私の肩をだいて、ぎゅーっと抱きしめてくる。
……その力強さから、私への愛情の深さがうかがえた。ったく……どんだけ取られたくないんだよ。
次の台詞も、はいはい、わかってるわかってるって。
「セイコは、俺のだ! 誰にも渡さない!」
ったく、はぁ~~~~~~ったくもぉ。
どんだけ私に執着してるんだ、この皇帝さんはさぁ。
キンサイが私の顔を見て、ふふっ、と笑う。
「しゃーない。今は諦めるわ♡ 時期が悪いみたいやし」
「は? 時期ってなんだよ」
私が尋ねると、キンサイがニヤニヤ笑う。
「どーやら、皇后はんは今、皇帝はんにゾッコン……あいたっ!」
私は慌てて、キンサイの頭をはたいた。
「ゾッコン……? セイコ、ゾッコンとはどういう意味でしょう……?」
「知らん」
「え、でも……」
「知らんと言ってる。二度言わせるな……ばか」
「は、はい……」
……そうだ。
私は、この年下皇帝のことを、まあ、結構気に入っているのだ。
だから……今はほかの男になびく気はさらさらない。
たとえ相手が、超金持ちの大商人だろうと……ね。
「皇后はんに、愛されてまんなぁ、皇帝はん」
「そうかぁ! そう思うか! キンサイなんだおまえ良いやつだなぁ!」
単純すぎるよ……ったく。
「で、だ。キンサイ。資材はそろってんだ。ポーション工場はどんくらいでできそうだ?」
「まあー……最速で1年やな」
「遅すぎる。なぜそんな時間がかかる」
「そら……当たり前やん。ただの建物たてるんやないんで? 工場や。しっかり作らなあかんやろ」
ふむ……まあそうか。
「もっと早くならんのか?」
「うちらお抱えの最高の大工をつかっても、1年や」
「そうか……なにか早くする方法はないか?」
するとキンサイが少し考えて言う。
「ドワーフがおれば、早く作れるかもな」
「ドワーフ……なるほど」
このファンタジー世界にはドワーフなどの亜人が存在する。
ドワーフ、手先の器用な種族だと聞く。が、それと同時に……。
「あんたもわかってるとおり、ドワーフのスカウトは……無理や」
「? なぜ無理なのだ?」
とアスベル。
まあこいつは頭がアレだからな。
「ドワーフはかなり頑固なんや。カイ・パゴスっちゅー、ドワーフ国に引きこもって、自分たちのモノ作りに専念しとんねん」
「ドワーフ国カイ・パゴス……」
ドワーフ製の商品はかなり性能がよい。
そこに加えて、ドワーフは人嫌いかつ頑固で有名だ。
「なるほど、頑固な人たちだから、スカウトが難しいと……」
「せやな。わいらが大金積んでも、スカウトは無理やった」
なるほど、そうか。
「キンサイ。船を手配しろ」
「は? ええけど……え、まさか……?」
「ドワーフ国カイ・パゴスへ行って、私が直接交渉してくる」
「はぁ!? 交渉ぅ!? 無理や無理無理!」
ふん……。
「やってみないとわからないだろうが」
「さすがセイコ! 前向きで素敵です! 俺もついてきます!」
「当然だ。それに……アンチも連れて行くぞ。ついでに家族旅行だ」
こうして、私はドワーフのスカウトのため、海を渡ることにしたのだった。
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