19.瀕死のグリフォンを助ける
キンサイを舎弟にした。
その数十分後。
「かぁたま、どこにいくんですか?」
私はアンチを抱っこしながら、帝城の中を歩いていた。
「騎竜をもらったんだ。アンチにも見せてやろうと思ってな」
「きりゅー?」
「ドラゴンだよ。人間が乗れるように調教されてる」
「どりゃろん!」
どりゃろん……。
か、可愛いな……よしよし。
「ぼく、どりゃろん……みたいです!」
「騎竜な」
「きりゅー!」
私の後ろには……。
「ああ、セイコ様はアンチと一緒に居るときが、一番美しいです……」
「それは同感ですね」
色ボケ皇帝と、有能執事が、後ろから着いてくる。
「おまらえ……何故着いてくる? 見学に行くだけだぞ」
「「何があるかわからないのでっ!」」
妙な連中だ。
ややあって。
「グギャギャア~~~~~~~~!」
「ああもう! 手に負えんわ! どうないなっとんねん!」
ん?
帝城の庭が、何やら騒がしかった。
「キンサイ。何やってるんだ」
「皇后はん!」
大商人キンサイが、困り顔で立っていた。
その側には……。
「うわわ! お、っきぃ~……。かぁたま、あれ、なぁに~? おうまさん? とりさん?」
大きな鳥のようにも、馬のようにも見える獣が、そこにいた。
「あれは鷲馬だ」
「ぐりぽん!」
ぐりぽん……。か、可愛いな。
アンチは本当にかわいらしい。
まあ、それはさておきだ。
「キンサイ。おまえ鷲馬なんて持ってたのか」
鷲馬は幻獣の一種。
非常に稀少な種だ。
飛竜よりも力強く、そして長距離を飛ぶ力を持つ。
また、手懐けることが難しく、これも高値で売られている。
まあ、キンサイは金持ちだから、鷲馬を持っていても不思議ではない。
「ええ。帝国くるときにわいが乗ってきたんや。帰ろう思ったら、鷲馬のやつ、急に暴れだしてなぁ。参ったで」
ふむ……。
鷲馬は首輪と鞍がついてる。
首輪からは太い鎖が伸びており、それを商会の人間(キンサイの部下だろう)が、抑えてる。
「ゲギャァアアアアアアア! グゲェエエエエエエエエエエエエ!」
「あない暴れるやつやなかったんやが……あれじゃ乗れへんわ。もったいないけど……殺処分せなあかんかな」
ふむ……。
私は鷲馬に鑑定をする。
……なるほどな。
「かぁたま……」
「ん? どうしたアンチ?」
息子が私に、不安げな顔を向けてくる。
「あの、ぐりぽん……なんだか、苦しそうです」
……なんてことだ。
我が息子は、凄い子だ。あの鷲馬の状態を、見抜いてしまうなんてな。
「おまえは本当に優しい子だな。母様も、おまえと同じ意見だ。あの鷲馬は、苦しんでる。どれ、母様が行って助けてくるか」
「かぁたまが!」
「ああ。アスベル、アンチを頼む」
息子をアスベルに任せ、私は暴れる鷲馬のもとへ向かう。
「ちょ、皇后はん、危ないでっせ! 鷲馬のパワーは、首輪で制御してるとはいえ、どえらいもんや! 下手したら腕が吹っ飛ぶで!」
腕が吹っ飛ぶ、だぁ?
ふ……わかってねえなこいつ。
「私を誰だと思ってる? まあ、そこで見てろ」
私は鷲馬に近づく。
血走った目、そして……。
お腹がぽっこりと膨れている。
……やれやれ、これだけヒントがあるのに、キンサイは気づかないとはな。
「一体何をなさるです? 皇后はん?」
キンサイの……。
頭を、びしっとチョップ。
「あいたっ。なにすんねん!」
「おまえ、この鷲馬が、身重だってこと気づいてなかったのか? あ?」
「身重……え!? に、妊娠してたんか!? あいたぁ……!」
本気で驚いていたアホ商人に、強めのチョップを食らわせる。
「こいつは妊婦だ。しかも、今陣痛が始まってる。その上……こいつは今、分娩困難を起こしてる」
「なんやて!? 分娩困難ぅ!?」
はて、とアスベルが首をかしげる。
「セイコ様。ぶんべんこんなん、とは?」
「ふぅう~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~! ユーノぉ!」
アホへの説明はあとだ。
ユーノは近づいてきて、すっ……と筒を差し出してくる。
「なんなん、その筒と、やじり……?」
「吹き矢だ」
「吹き矢ぁ!?」
「ああ、ここに、麻酔を一滴垂らす……」
アイテムボックスから、私が調合した、特別製の麻酔薬を取り出す。
ひた……と鏃に麻酔液をたらす。
そして、吹き矢を構える。
そして……。
「フッ……!」
ぶすっ!
「皇后はんの吹き矢が鷲馬の体に突き刺さったで! なんと見事な……!」
「まあ、暴れてるやつを治療することもあったからな。慣れてるんだよ」
「な、なるほど……器用やな。皇后はん、さすがやでぇ……」
麻酔が効いたのか、鷲馬はその場にへたり込む。
私は直ぐに次の作業に移る。
「ユーノ。清潔な服」
「ここに」
ユーノがあらかじめ準備していた、キレイな、手術着を取り出す。
「ちょ!? 執事はん! それどっからだしたん!? てゆーかなんで清潔な服なんて用意してるン!?」
「一流の執事は、主が望むものはなんでも瞬時に取り出すものです」
「んなわけあるかい!」
アホはほっといて、私は手術着に着替える。
そして、ポーションを取り出し、鷲馬の周りにかける。
フォォン……!
「光の壁……これは、結界やなっ?」
「ああ。簡易の無菌室だ。外で手術するからな」
「な、な、な!? しゅ、手術!?」
「ああ。今から、鷲馬の腹を捌いて、卵を取り出す」
「なんやてぇ!?」
鑑定スキルで、わかったことがある。
一つは親の腹の中で、卵が詰まっていること。
そして……その卵は、今にも割れそうなこと。
「切開して取り出すしかない。アスベル! アンチと向こう行ってろ!」
すると……。
「かぁたま! ここで、みてりゅます! がんばぇー!」
……どうやら息子は、この場で私のすることを、見るつもりのようだ。
……いや、私を応援したいみたいだ。ほんと、可愛い息子だぜ。
「直ぐ終わらせる。ユーノ、手術道具」
「ここに。すでに煮沸消毒にくわえ、聖母様特製の消毒液をかけております」
さすがだ、ユーノ。
一方キンサイは言う。
「準備良すぎてこわいわ!」
で……だ。
私は消毒済みの手術道具を使って、鷲馬の腹を開いた。
そして……。
ひび割れた卵を摘出した。
「よし……手術……完了」
びきっ!
ぱかーん!
「ぴぃ~~~~~~~~~~♡」
卵から、鷲馬の子供が、殻を破って出てきた。
……どうやら、間に合ったようだね。
子供は元気そのもの。ほんとに、良かった……っと、気を抜いてはいけない。まだ手術の途中なんだ。
私は切開した腹に、SSポーションをかけてる。
「開いた傷口が、みるみるうちに塞がっていくで!」
SSポーションを使えば、縫合を行わず、腹を閉じることができるのだ。
さらに……。
「ぐ、るるるぅ……」
「!? 鷲馬がもう立ちよった! あない大手術をしたのに!」
しかも体内残った麻酔も、SSポーションを使えば、取り除くことができるのだ。
「ぐるるう……♡ ぐるうう♡」
鷲馬が私に近づいてきて、頬ずりをしてきた。
甘えるように、すりすりと。
「なんやてぇ……!? あ、ありえへん! この気性の荒い鷲馬が、初対面のやつに、ここまで心を開くなんてぇ!」
たしかに鷲馬は気位が高いと聞いたことがある。
驚くのも無理はない。
「初対面のやつが鷲馬に近づいて、大けがさせたなんてことも聞いたことある……。でも、こんなすぐになつかれるなんて……す、すごいで……」
鷲馬が私の前で、すっ……と膝を突いて、頭を下げる
「なんだおまえ? 私のそばにいたのいのか?」
「ぐるるぅっ♡」
ふむ……。
とはいえ、この子はキンサイんところの鷲馬だからな。
彼女の許可無く、勝手にそばにおくわけにはいかない。
「皇后はん、その鷲馬、親子共々、もらってくれへんか?」
「ん? いいのか?」
意外な提案だった。
「いいで。あんたはうちのふと客やさかいな。プレゼントや」
「ふむ……」
鷲馬までもらえたら、移動が楽になる。
この子本人も、望んで私の下に尽きたがってるし。それに……。
「わ、わ、わあ~~~~~~!」
なにより、アンチが鷲馬に興味津々だ。
近くで見たくって、うずうずしてる。
「アンチ。おいで」
「わー!」
アンチがアスベルから下りて、私に近づいてきた。
私は抱っこして、アンチを鷲馬に近づける。
鷲馬は、アンチが近づいても攻撃してこなかった。
うむ……。
「鷲馬よ。私のもとへ来い」
「グルルゥウ!」
ばさっ! と鷲馬が翼を大きく広げる。
「わあ……! かっくぅい~~~~~~~~~~~~! かぁたま、ぐりぽん、すっごくかっこいいですねぇ!」
ふふ……アンチが喜んでいる。
この鷲馬を引きとってよかった。
「んじゃ、鷲馬親子のことは、皇后はんに任せるで」
「ああ。礼を言っておくよ、キンサイ」
「かまへん。今後とも、わいらをご贔屓に。あんたのためなら、喜んで何でもするさかい」
……ほぅ。
懐から契約書を取り出す。
「なんだ、もう気づいてたのか」
なんでもするってキンサイが言って、それを契約書に盛り込んでおいたことだ。
「当たり前や。わいは銀鳳のギルマスやで? てゆーか……あんさん、わいが気づくだろうってこと、最初から、わかったうえで、やっとったろ?」
「まあな。優秀な商人だと聞いていたし。これくらいは気づくだろうとな」
つまり……だ。
私は別にこいつをだまくらかしたわけじゃない。
こいつは、私の舎弟になるってことを、最初からわかったうえで、自ら進んで契約を結んだのだ。
ってことを、私は最初からわかっていたのだ。
「うう~……セイコ様。なんだか俺、頭痛いです……二人の会話についてけないっていうか……」
キンサイと私が、ため息をつく。
「さっきの城の中でのやりとりは、お互い合意の元、行われてたってことだよ」
「な、るほ……ど?」
「「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~…………」」
私たちが深くため息をつく。
ほんとこいつは……。
「あんさん、苦労するな。どや、そのポンコツ乗り捨てて、わいに乗り換えるつもりない?」
にや、とキンサイが意地悪そうに笑う。
「うぉおおお! そうはさせないぞ!」
アスベルが私に抱きついて、アンチごと、ぎゅーっと抱きしめる。
「セイコ様は、俺の嫁!」
「だ、そうだ。悪いな」
キンサイ相手に、アスベルはハッキリ主張した。
アスベルのこういう一途なところは、嫌いじゃない。
「ははっ! なんや、えらい気に入ってるンやな、そこの皇帝はんのこと」
「まあな、一緒に居て面白いしよ」
ふふ、とキンサイが笑う。
もう帝国に対して、舐めていたキンサイはもういない。
「お互い、いいパートナーとしてこれからもよろしゅーたのんます」
「ああ、こちらこそ」
こうして、私は本当の意味で、銀鳳商会ギルマスと、手を組んだのだった。




