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旅路5「スリの少女」

第二部スタートと言った感じです、よろしくお願いします。


※1レイア=1円、大金貨=10万円、小金貨=1万円、大銀貨5千円、銀貨=千円、銅貨=百円位の貨幣単位です。




 ラミア退治を終え、周辺で一番大きい都市・・・では無く、2番目に近い都市クイーザに向かう。

 一番近いのは王都だが、王都には大聖堂があるからだ。


 ペインさん曰く「ジジイどものお膝元なんかに行きたくなんざァねえよ」だそうだ。私としても大聖堂に帰るつもりがないのに王都へ行くのは気まずいので助かったのですが・・・


 夕暮れ過ぎに到着したクイーザの街のギルドで、ペインさんは「おう、ペインが来たって言ってくれ、預けてる金を下ろしたいからよ」と言ってギルドマスターに面会すると、150万レイアという私が見た事も無い大金をすぐに用意させた。


「すぐに使わない分は10万レイア大金貨で12枚、すぐに使う分は1万レイア小金貨と、銀貨でいいな?」

「ああ、ジャラジャラ持ち歩いても仕方ないからな、それで頼む」


 こうしてギルドに大金が預けてあるのを目の当たりにすると、本当にペインさんが元勇者なんだと実感する。

 しかし困った事にペインさんはその大金のほとんどを、「持ってろ」と言って私に渡してきたのだ。



「こ、困ります、こんな大金!」

「どうせ食材とか買うのはお前の役目になんだろ? それにスリやかっぱらいも聖職者は避けるからな」

 

 ペインさんが言うには、傭兵や裏社会の人間など、ほんのちょっと賽子(サイコロ)の目が替わるだけで生死が別れる様な生活をしている人間ほど、意外と信心深かったりするらしい。

 ほんの少し運が良い悪いで天国と地獄だからこそ、バチが当たったりツキが落ちるような事を嫌がるそうだ。


「でも・・・」

「まあ俺が一緒にいる間は目を光らせといてやるよ、慣れろ。」


 それからペインさんは、「せっかく都会に来たんだから、綺麗なネーチャンのいる店に行くか」と、少し高級で、女性の接客を受けるタイプのバーに私を連れて入った。


______________



「あ、あの・・・お連れ様も何かお飲みになりますか?」

「私は白湯をいただければ・・・」

「あ、はい、ご用意いたしますね」


 ペインさんの様な身なりの人でも、ギャンブルなどで小金が入った時に贅沢する事があるようで、ペインさんに関しては何も不思議に思うことは無いようだが、店の女性は明らかにその連れが神官の女性である私である事に動揺しているように見えた。


 そりゃそうですよね、神官連れでこんな店に入る人なんていないですよね。


 ペインさんはそんな事お構いなしに、接待の女性の腰に手を回し、出てきた料理に舌鼓を打ち、しこたま酒を飲んだ。


 その帰り道でのことである。

 支払いを済ませ、千鳥足のペインさんの介抱をしながら、取ってある宿に向かって路地を歩いている時の事だった。


 ペインさんは久々の都会を楽しむように、時間をかけてゆっくりと飲んでいたので時間はかなり遅い。


「ほら、ペインさん、しっかりしてください! 飲み過ぎなんじゃありませんか?」

「ばぁか、俺がこれくらいの酒で酔うかよ、ま、ほろ酔いってとこだな」


 機嫌よく歩くペインさんを私が支えようとした時、私はすれ違おうとした小柄な人物にぶつかってしまった。


「あ、すいません」


 フリージアが謝ると、その人はフードを深く被ったまま軽く会釈を返し、そのまま通り過ぎようとする。

 ・・・ほら、通行人にも迷惑ですよ? と、そう思った時だった。


 ペインさんが素早い動きでその人物の襟首を捕まえると、片手で持ち上げたのだ。


「おい、聖職者を狙うとか、お前なかなかいい度胸してんなァ?」

「は、放せェ!!」


 意外と高い声でそう抗議するその人の懐にペインさんが手を突っ込み、そこから取り出した何かを私の方に放って来る。


「フリージア、お前も財布スられて『すいません』じゃぁねぇだろ(笑)、気をつけとけよ?」

 ペインさんが投げてよこしたのは、ペインさんから預かった大金貨が入った財布だった。

 慌てて自分の懐を確認すると財布が無い。あの一瞬突き当たった瞬間スられていたらしい。


 私は一瞬で血の気が引いた。

 中には預かった大金が入っていたのだ。


「若い割にはいい腕だ・・・だが相手が悪かったな・・・って言うかお前、女か?」


 恐らく懐を探った時に()()()()のだろう、ペインさんの言葉に私もその人物の顔に目を向ける。

 暴れたためフードが跳ね上げられたその人物の顔は、薄汚れているとはいえ確かに成人になるかならないかと言ったような、まだ若い少女のものだった。(この世界の成人年齢は15歳)


「ぺ、ペインさん、その子を一体どうするつもりですか?」

「あん? そんなの衛兵に突き出す一択だろ」

「ま、待ってよっ!! 妹が、妹がいるんだ!オレはどうなってもいいけど、オレがいなくなったら妹が・・・」

「ハッ、またずいぶんと使い古された手だなァ?」

「違う! 本当なんだ!」


 まだ若いとはいえ大金を盗んだとなれば罪は軽くない、今の発言や身なりからしても相当苦労しているようだ、何か事情があるのでは。


 フリージアはそう思い、金も戻ってきたのだし、その女性に慈悲をかけてあげるようにとペインさんに申し出た。


 しかしその娘はそれを聞くと烈火のような怒りの目で私を見た。


「シャーリアスの神官なんかに情けなんかかけられたくねぇよっ!!」

 そして一転してペインさんに縋り始めたのだ。


「なぁ、オッサン・・あの金ってオッサンのなんだろ?許してくれよ、オレに出来る事なら詫びはするよ、何でも言う事聞くからさ・・頼むよ」

「なんだァ?フリージアがせっかく許せっつってんのに、なんか光の女神に恨みでもあんのか?」

「チッ、どうでもいいだろそんな事、なぁ・・・頼むって」


 ペインさんはその子の顔をじっと見てから私に言った。


「おいフリージア、こいつに「浄化(ピューリファイ)」かけてみろ」

「浄化ですか?」

 確かに彼女は薄汚れている、でもいきなりなぜ?


「いいから早く」

 言われて私は聖印に意識を集中する。願いは聞き届けられ、その娘の全身を光が包み、浄化の奇跡が効果を表した。

 元々ボロボロの服が修繕されることは無いが、汗やほこりを吸っていた衣服は洗濯したてのようになり、なにより身元や顔を隠す為か泥や炭、灰で汚れていた顔や髪の毛が綺麗になって風呂上がりの様な清潔さを取り戻す。

 するとそこには艶やかな黒髪のショートヘアと黒い瞳を持つ、可愛らしい少女の姿があった。色は浅黒いがなかなかの美少女だ。


 ピュ~、と、ペインさんが口笛を吹く。

「やっぱりな。キレイにしてみりゃァなかなかイイ女じゃねーか、何でそんな格好を・・・て、そんなの聞くまでもねーか」


 ペインさんはそう言って笑うが、私には何の事か分からない。


 やがてペインさんはその少女とアイコンタクトをし、二言三言言葉を交わした後、私に向かって「フリージア、俺はコイツとちょっと話があるから先に帰ってろ、安心しろ、衛兵には突き出したりしねぇから」と言ってニヤリと笑う。


 私はその笑いに何か嫌なものを感じ取って、ペインさんを制止しようとするのだが、こちらを睨みつける彼女の視線の迫力に何も言えなくなってしまう。


「宿はすぐそこだ、一人でも大丈夫だろ。今度はスられんなよ?」


 そう言い残し、ペインさんは少女と裏路地に消えていく。

 私は訳も分からずそれを見送る事しか出来なかった。



 ◇ ◇ ◇ ◇

____________


「お前、名前は?」

「レイン」

「年は?」

「16」


 連れ込み宿___男が女をそういう目的で連れ込む宿___に入り、ペインが名前を聞くと、少女は観念したのかあっさりとそう答えた。


「レイン、お前今から何をされるか分かるか?」

「こんな所に連れ込んどいて何言ってるのさ、さっさと済ませれば?その代わりあんたの金をスろうとしたことはチャラだからな!」


「・・・良い覚悟だ」


 ペインは口許だけを僅かに歪め、皮肉っぽく笑った。


「お前・・・何でフリージアの事をそんなに目の敵にする?」

「べ、べつにあの神官の姉ちゃんを目の敵にしてる訳じゃねぇ!!」


「ってことは、シャーリアスが気に入らないのか。だけどな?アイツは多分純粋にお前の事を心配しただけだぞ?」

「っ・・・分かってるよ、そんな事!」


「ま、何となく想像はつくがな。 あいつも元は孤児院の出らしいが、あいつは運が良かったらしい、お陰でえらく世間知らずだが...」


 ペインのその言葉に、今度はレインが皮肉っぽい笑みを浮かべた。



 こんな事をしているのを見ても分かる通り、恐らくレインは親が居ないのだろう。

 親に死なれ、親戚に引き取り手の無い女の孤児の行く末は概ね3通りだ。


 孤児院に拾われ、そこで行儀や作法を身に付けて働く、あるいは尼(聖霊力があれば神官)になる。

 娼館の人間に拾われる、あるいは人買い買われて娼館に売られ、娼婦になる。

 そして、誰にも拾われずにのたれ死にする。その(いず)れかだ。


 そして運良く孤児院に入れたとしても、その孤児院がマトモである保証はどこにもない。


「お前の事情はなんとなく想像できる、だけど憐れんだりはしねぇぞ? よくある事だからなァ? ただし俺はお前を変に殴ったりはしねぇし蔑んだりもしねぇ。フリージアの体は最高だけどな、毎度あいつに相手をさせるのも気が引ける。たまにはお前みてェな生きのいいガキに相手を頼むのもいいかなと思っただけさ。悪い大人だ、言い訳はしねぇ。代わりにお前のした事も見逃すし、お前が積極的に俺を満足させられたら小遣いも弾んでやるよ、3万レイアでどうだ?」


 ペインは皮肉な笑みを張りつかせたまま、レイン相手にそんな言葉をかける。それは相手が16の、成人したばかりの小娘とは思えない様な非情な言葉だった。

 だがレインはそれを聞いて安心したように笑った。


「ハハッ・・・変に善人ぶられるよりオッサンの言う事は信用できるよ。言ってる事は最低だけど嘘は無さそうだし、タダより高い物はないってね?」


 レインはそう言うと、自分が着ていた継ぎだらけの服を脱ぎ始める。


 しかし、下着姿になったレインの、その痩せこけた躰を見た瞬間、ペインはため息を吐いた。


「・・・止めだ」

「はぁっ!? いまさら何言ってんだよっ!?分かった、3万レイアなんて言っちゃって、惜しくなったんだろ?」

「そうじゃねぇよバカ、お前そこそこ顔は良いけどな、そんな鶏ガラみてェな体じゃ抱く気になんねぇっつってんだよ。もうちっと肉を付けろ肉を(笑)」


 冗談のように笑いながら言うペインだが、明らかにレインの栄養状態は良くない。そしてペインはそんな風にやせ細った女の身体は見たく無かった。トラウマと言ってもいい。

 だが貧民街に住み、盗みをしながら育った子どもであれば致し方ない事だろう。魔王軍との戦争が終わり二十数年経つが、こういう貧民街の人間の生活は改善された様子はない。

 そして、金額を提示してあっさり買われるという事は処女ではあるまい・・それがどんな方法で大人になったかは分からないが、いい想い出でないことは想像に難くなかった。


 それでもペインはあえてその事を口にすることなく、ベッドにうつ伏せなって言った。


「今日の所はマッサージでもしてくれや、そんで金は払ってやるよ」

「はぁ?本気かよ、たかがマッサージしただけで金くれんのか!?」

「オウ、この年になると体がきつくてなぁ・・・あと俺は金持ちだからな、3万位はした金なのさ」


 ペインの挑発的な言葉にレインは下着姿のままその背中に跨ると、「クソ、見てろよオッサン!絶対ヒイヒイ言わせてやる、金も絶対払ってもらうからな!!」と言って腰を揉み始める。


 だかその顔には言葉とは裏腹に、明らかにホッとしたような安堵の表情が浮かんでいた。




______________つづく






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