旅路4「ラミア退治・勇者は魔物を殺す」
※グロテスクな表現があります、苦手な方はご注意下さい。
サヒナ村まで行く旅程の間、野営だろうが町の宿屋であろうがペインさんは毎日のように私を求めた。
それはサヒナ村についてからも続いた。
宿屋など無い寒村、嘆願を出した村長の家を訪れると私は物凄く歓迎された。だがペインさんの事は胡散臭い目で見る人が多い。
せめて無精髭だけでも剃れば印象が変わるのではないかと思うのですが・・・
村長の部屋もそれほど大きくはなく、使わせてもらえる部屋もあまりない。
私にはすぐに部屋を用意してくれるのに、ペインさんを家に泊めるのは気が進まない様子だった。私が「同じ部屋で構わない」と言って、やっと部屋の確保が出来た。
メインで戦うのはペインさんなのに・・・
ペインさんはそんな村人の様子を気に留める事も無く、慣れた様子で「そんなもんさ」と笑うだけだった。
初日は森の調査。
それほど大きな森ではない。ペインさんは木に付けられた傷跡からラミアの縄張りを予測、大まかな巣の位置を割り出している様だった。
_________その日の夜。
他の部屋に村長夫婦が居て、明日はラミアと戦うかもしれないというのにペインさんは私を求めて来た。
「明日は決戦かも知れない、体力を消耗する事はすべきではない、そんなに毎日しなくてもいいではないか」と抗議する私にペインさんは「傭兵ってのは食いたい時に食うし、抱きたいと思ったら後回しなんぞにせずにすぐに娼館に行く、何でだかわかるか?」と。
傭兵をしている人物に知り合いはいないので、ペインさんの言っている事が正しいのかどうか分かりはしないけど、確かに傭兵というのは「今が楽しければいい」という刹那的な生き方をしている人が多いというイメージがある。
突然そんな質問を受け、答えられずにいる私にペインさんは「明日生きているとは限ら無ェからだよ・・・楽しみを後に取っておいてもその前の戦いで死んだら意味無いだろ? いつ死ぬか分からないからヤリたい事は先送りにしない。俺は死ぬつもりは無ェけどラミアは高位モンスターだ、何があるか分からねぇ、だから今出来ることは先に送らねぇのさ」と、質問の答えを自ら言う。
そう言われると何も言えなくなってしまう。その危険な依頼をペインさんに持ち込んだのは私なのだ。
深刻な顔をしている私を笑わせようとしたのかペインさんは「だから傭兵は娼館に行くと結構派手に金を使ってモテようとするんだがモテねぇんだよ(笑)、娼婦としても明日死ぬかもしれない相手に良くした所でリピーターになって貰えるか分かんねぇし、身請けされてもすぐ未亡人じゃたまんねぇからな、現金なもんだぜ、ったく!」と言って豪快に笑うが、私はその冗談に笑うことは出来なかった。
◇ ◇ ◇ ◇
その夜、私はペインさんに最後の報酬を払う。
ここ数日、毎日のように犯され、それを奇跡で癒すことを繰り返した結果 既に性行為で痛みを感じることは無くなった。
代わりに感じるようになったのは、ムズムズするような疼きに似た感覚。これが女の感じる快感なのか、それは解らない。
しかし放っておくと自然に口から漏れてしまう呻き声は、あまり他人に聞かれたくないものだった。
行為の後、ペインさんの口から「今までこんな事をさせて悪かったな・・まあ明日には恐らく片が付く。こんな事も今日までだ、今までご苦労さん」という、ねぎらいの言葉をかけられる。
私はその言葉を聞き、やっと誓約を果せるのだという安堵感に包まれ眠りについた。
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翌日、その日は良く晴れ、気温もそれほど高くなく過ごしやすい陽気だった。
ピクニックにでも行くんなら最高の日だ。
だけど私達が目指すのはラミアの巣だ。
ペインさんには昨日の時点で大体の巣の位置は予測できると言っていた。森の中の木の幹に付けられた傷。私には獣に付けられたものにしか見えないその傷の中に、ラミアの毒爪で付けられたものが混ざっているという。
人間には解らないその臭いや毒気に動物は近寄らなくなるといい、そして何故そんな事をするかと言えば・・・
「恐らく子供がいる、最初に行方不明になったという男から子種を得て卵を産み、その後攫われた子供はラミアの子の餌なんだろ」
ペインさんは攫われた村の4人の子供の事を平然と餌と言うが、村に残された両親の気持ちを考えれば心が痛む。やはり早く退治しなければと、逸る気持ちを抑えながら森の中を行く。
「この辺りからは俺が先行する、お前は少し離れてついてこい、別に村で待っていても良かったんだぞ? ヤリ逃げされるのが心配か?」
私の緊張を解そうとしたのかペインさんがそんな揶揄いの言葉を口にする。
そんな心配はしていなかったが、そう言われて、犯るだけ犯ッて逃げられる可能性もあったのかという事に初めて気づいた。
やはり私は世間知らずだ。
「依頼主として私には見届ける責任があります・・・小癒と解毒も使えます、いざという時は頼って下さい」
緊張気味に答える私に、ペインさんは苦笑し、「おぅ、そん時は頼むわ、ただ無理だと思ったら逃げろ」と、それだけ言ってまた歩き始めた。
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森の中にある小高い丘、その崖の根元にぽっかりと開いた洞窟、そこがラミアの巣だった。私達がそこまで30mというところまで近づいた時、その洞窟から上半身が人間の女性、下半身が蛇という邪悪な見た目の魔物が姿を現す。
彼女は明らかにこちらに気付いていた。
「ラミアは気配に敏感だ。気付かれてる、お前はここで木の陰にでも隠れていろ、俺が殺る!」
ボロ布で包まれた剣を鞘から払う。それはペインさんの着ている薄汚れた皮鎧の装備には似合わない、研ぎ澄まされたオーラを纏う業物だ。
勇者の剣。現役だった頃はそう呼ばれていた武器かも知れない。
ラミアは巣を守る様にこちらを威嚇している。
人間の男を催眠誘惑でかどわかし子供を産む、その魔物の上半身は一見美しい人間の女性に見える。だがその目は人間ではなく、瞳孔が縦に引き裂かれた様な蛇のものだった。
「悪いな!お前さんに恨みはねェし、人間だったら『綺麗なネイルですね』って口説く所なんだがなァ!」
ラミアの恐ろしい猛毒の鉤爪をネイルとは!
ペインがそんな叫びと共にラミアに突進する。
距離はまだ遠く一息に詰められる距離ではない。その間にラミアの、人外の言語による魔術が完成する。
魔術師の魔弾によく似たエネルギーの礫がペインを襲う! しかしペインは走りながら完成させた呪文と共に左手を前に掲げた。
「 魔壁」
それは本来術者の前方に魔法の壁を作ったり、半球形のドームを作って魔術から身を守る為の呪文であった。
しかしペインはそれを左手の周りの狭い範囲に展開し、まるで丸盾のように使う。
これによってラミアの魔弾は逸らされ地面を抉った。本来の使い方ではないアレンジ。だが、だからこそペインは魔法を弾きながらも足を止めずに距離を詰める事に成功していた。
「gyraaaaaaaaa!!」
怒りの咆哮を上げて振り下ろされるラミアの毒鉤爪を、ペインの剣が迎え撃つ、ラミアの片腕が宙を舞った。
ボトリと、一瞬の間をおいてラミアの腕が地面に落ち、ペインはその時に噴水のように噴き出たラミアの血を大きく飛び退って躱す。
ラミアは血にも毒がある、あまり多く返り血を浴びるのは良くないのだ。
「kyaaaaaa!!・・・nn,ku・・・!?」
その悲鳴はまるで盛りのついた猫の声にも聞こえた。
喉から乾いた空気の漏れるような悲鳴を残し、ラミアが背を向け、逃亡を図る。
しかしそれは脱兎のごとく逃げ出すものではなく、巣穴である洞窟に戻る行動であった。
「ペインさん!」
「地面の血に触れるなよ? 毒だぞ?」
ペインは振り向きもせずそれだけを告げると、ゆっくりと歩きラミアの後を追う。
洞窟はそれほど深くないのか、ラミアは洞窟の中に入らず、入り口でここは一歩も通さないとばかりに両手を広げペインを威嚇し続ける。
痛みのせいで集中できないのか呪文は飛んでこない。代わりに肘の先から切り飛ばされた腕を振り回す度、血しぶきが飛んでくる。
それがペインの着ている皮鎧や服を汚すが、少量であれば汚れるだけで問題は無いとばかりにペインはそのまま真っ直ぐラミアに向かっていく。
洞窟の奥から3~4歳の少女が2人顔を出し、ラミアの蛇の胴体に縋り、不安そうな怯えた顔を見せた。その顔はどう見ても愛らしい人間の少女のものだったが、下半身はやはり蛇である。
「子供・・・・」
フリージアが呟く。やはりペインの推察は当たっていたのだ。
何時からこのラミアが森に住み着いていたのかは分からないと言っていた。子供を産むまでは森の恵みだけでも良かったのかもしれない。
しかし子供を産み、育てる為には栄養が居る。村から攫われた4人の人間の子供の命は、この愛らしいラミアの子供を育てるために消費されたのかも知れなかった。
「フッ!!」
血を失い、緩慢になったラミアの爪撃を躱したペインが鋭い突きを放ち、その剣先は寸分たがわずラミアの喉に吸い込まれる。
剣を引き抜いた瞬間大量の血が噴き出し、足元の子供に降り注いだ。
致命傷だ。
ヒューヒューと空気が抜けるような呼吸音を残し、ラミアが大地に倒れる。まだ動いてはいるが、もう助かるまい。
その足元、泣きながら母親に縋りつく、二人の子供の姿。
「ペインさん!!」
「大丈夫だ」
恐ろしい高位の魔物と聞いていたが、終わってみればペインは傷一つ負ってはいない。
しかしその現場は凄惨だった。
周辺は血の海で、ゆっくりと動かなくなっていくラミアの母親、泣きながら必死に母の名を呼んでいるらしき、ラミアの子供の姿。
「なにも子供の前で殺さなくても・・・・」
その悲劇的な光景にフリージアは呟き、そして自分が何を言ったかを自覚して自己嫌悪に陥った。
「ごめんなさいペインさん、私!!」
命懸けで戦ったペインに対し、もっとスマートに出来なかったのかと文句をつける、あるいは自分で殺害を依頼をしておいて、魔物に情けをかけるような発言。
しかし意外にもペインは怒るでもなく、寂しそうに静かに笑った。
「ああ、そうだなァ・・・可哀想だ。だがこいつらはここで殺さなきゃならん、こいつらがまた大人になったら人間に被害が出る。だから殺す。こんなに小さくて、無力な子供でもだ・・・」
ペインが剣を二度振ると、小さな頭が二つ地面に転がった。
母親に縋りついて泣いていた、ラミアの子供の頭だった。
蛇の下半身があればこそ魔物だと分かるが、その生首はどう見ても人間の少女のものにしか見えなかった。
目の前に転がった少女の生首を見た瞬間、フリージアは胃の中のものが逆流するのを感じた。
フリージアはその転がっているものから目を逸らし、近くの樹まで走り、その根元に吐いた。
「うッ、うぇっつ、げぇぇっ・・・・ゲホ、ゲホ・・・」
子供を切った時の返り血がペインのズボンを汚す。ラミアは子供でも血液に毒を持つが、親に比べればその毒性は限りなく弱い。
空になった胃袋から胃酸が逆流してくる、涙を流しながらえずくフリージアをそのままに、ペインはラミアの親子の屍を踏み越え、巣の中を探る。
そして巣から出て来たペインは、剣の血を払いながら宣言した。
「巣の中にもう一匹いたが殺した・・・卵の殻の数からして恐らくこれで全部だろう、依頼は達成だ」
淡々とした報告。だがフリージアは目の前で見た惨劇に言葉を失っており、依頼達成の喜びも高揚感も沸いてこなかった。
「・・・お、お疲れ様です、、ペインさん・・・あの・・・私・・・いま浄化を・・・」
体がガタガタと震え、心は混乱したままだ。そんなフリージアにペインは少し離れた所で休憩してから村に帰る事を提案する。
「浄化の奇跡は村に帰るまで使うな。村に帰った時、汚れ一つない格好で帰ったら村人はこう思うだろう『なんだ、そんな簡単に討伐できるならケチケチせずにもっと早くやってくれればいいのに、こんな楽な仕事ならもっと頻繁に嘆願を出そう』とな」
ペインさんの言葉にショックを受けると同時に納得もした。
それはペインさんに会う前の私が抱いていたイメージとほぼ同じだったから。悪い魔物を簡単に倒す勇者・・その姿は颯爽としていて綺麗なイメージだった。こんな凄惨で血生臭い現場など想像してさえいなかった。
焚火を熾し、湯を沸かす。
ペインさんは素肌に付いた返り血を拭い、私は沸かした温かい湯を飲んだ事で、ようやく落ち着いて体の震えが治まって来た。
しかし目を閉じればついさっき目の前に転がった子供の生首を思い出しそうになる。
私が落ち着く間、ペインさんは少し魔王退治の時のことを話してくれた。
魔王の領域に入り、城に近付く程高位の魔物が多くなる。そして高位になればなるほど魔物も知能が高くなり、姿も人間に近くなるのだと。
そんな魔物を勇者パーティーは殺し続けた。もちろん魔族にだって女もいれば子供もいる。
魔王領深部に居る魔族の中には一度も人間の領域に手を出した事など無い、一般人の様な魔族だって居る筈だった。
それを勇者が突然現れ、魔族だと言うだけで女子供の見境も無く突然殺し始めるのだ。
「あいつらにとっては俺の方が化け物だっただろうよ。俺だってやりたかねェ、何で俺が勇者に選ばれたのかも分かんねえよ。俺は人殺しが好きで好きでたまらねぇ様な、精神病質者じゃねぇんだ。 罪もねぇ子供もいる、ほとんど人間と変わらねぇ姿で、人間の言葉で命乞いをする老人もいる・・そう言う人達をな、俺は『戦争だからしょうがない』って殺し続けたんだよ、頭もおかしくなるってもんだろ?」
元勇者の口から語られる、魔王征伐の話は、神殿で子供たちが聞いて憧れる、勇ましく、颯爽とした物語とはまるで違っていた。
私が落ち着くまでの暇潰しとして語られるペインさんの話。煙草を持つ手が震えている、話した事で記憶が揺り戻ししているのだろうか。
たった一度ラミアを討伐した所を見ただけで心的外傷になりそうなのだ、それを何十回、何百回と繰り返すのは、まともな神経の人間にとってどれほど過酷な事なのだろうか。
街に居る人たちは「魔王を征伐する、魔物討伐、魔物を倒す、駆除する」そんな風に言ったりもするが、つまりそれは知恵ある相手を殺すという事なのだ。
「ヘッ、慣れてる筈なんだがな、久しぶりなせいか、今頃震えが来やがった・・・情けねぇ」
ガタガタと震える手を見てペインさんがそう自嘲気味に呟くのを聞いて、フリージアは少しでも力になれればとその傍らに寄り添い、その手を握った。
「おい、あんまり近づくな、血が付く。それと今俺は気が高ぶってんだ、襲うぞ?」
へらへらと笑いながらそんな下品な言葉を口にするペインさん。フリージアにはその姿がとても辛そうに見えた。そしてそのきっかけを持ち込んだのは自分だ。
「ハァ・・ハァ、クソ!震えが治まらねェ・・・ハハハ、情けねぇな・・・」
気が付くとフリージアは自嘲気味に笑うペインの頭をその胸に抱きしめていた。
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・・・一体この人は今までどんな経験をしてきたのだろう。
胸の中でペインの震えが少しづつ治まっていくのが感じられる。
過呼吸のようにヒューヒューとなっていた呼吸音も落ち着いて来た。
情けなくなどない。フリージアなど一回の戦闘を見ただけで未だ震えが収まらないのだ、それなのにペインさんは、魔王軍との戦いの間、こんな事を何度も繰り返してきたのだろう。
自分が望んだ訳でもない勇者の力を使って、自分の為ではなく、人族の為に。
最初ペインさんは私が依頼を持って行った時「元勇者の肩書で俺の事を便利に使おうって魂胆が丸見えだ」と言っていた。確かにその通りだ、ペインさんは神様の気まぐれで手に入れてしまった職業のせいで、自分で戦いたくないすべての人間から、その役目を押し付けられたのだ。
だがその人達にもに悪意があった訳では無い、多くはかつての自分と同じように「勇者は特別でカッコいい存在で、簡単に魔物を倒してくれる」と信じて疑っていなかっただけなのだ。そんな訳はないのに・・・
もしかして放浪の元勇者が旅をしているのも、教会の読み聞かせなどで教わるような「諸国を回りながら困った人を救う旅を続けている」などと言う理由ではなく、何かから逃げたかったのかも知れない。しかし、もしそうだとしても私にはペインさんを笑う気にはなれなかった。
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暫く抱き合ったまま、お互いの存在を感じていると、ペインさんの手の震えは止まり、多少落ち着いた様だった。
「浄化の奇跡はまだ使わない方がいいのでしたね?」
フリージアはそう言いながら、身支度を整える。
ペインの体重を支えきれず、剥き出しの地面に押し倒される格好になったフリージアの神官服も土に汚れていた。だがこの方がラミア討伐の苦労を演出するのに役立つだろう。
「・・・その、ありがとよ。流石神官様だな、慈悲深ェもんだ、情けねぇ所を見せちまったが・・・」
ペインさんが今まで見た事の無いような真面目な顔でそう言い、頭を掻く。
「いえ・・どういたしまして、ペインさんの心に平穏が戻りますように」
私はそう言って聖印を切る。
ペインさんはそれを見て僅かに笑った。聖印を切ってそれらしい事を言ってはいるが、やった事はただ黙って抱きしめただけだ、聖職者として褒められたものではない。だが、それで多少なりとも心が落ち着く事もあるのだと知った。
「行くか」
それから少し休み日が傾きかけてきた頃、ペインさんは短くそう言って焚火の始末をする。
最初勢い良く燃えていた焚火の火は、いつの間にかもう消えかけていた。
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村に戻った私達は盛大に出迎えられはしたが、返り血を浴び、汚れ、凄惨な姿をさらしている私達に眉を顰め、可哀想なものを見るような目を向ける人もいる。
それは村長であり、その息子であったりと、村の中で比較的裕福な人間に多かった。
焚火を囲んでの会話の中でペインさんが「魔王を殺してズタボロになって帰って来てみれば、何の苦労もしていない様な王とその家族が玉座にふんぞり返って『よくぞ務めを果たした』とか演説をぶちやがるんだ、ぶん殴ってやろうかと思ったぜ」と言っていた気持ちが分かった気がする。
井戸水で体を流し、浄化の奇跡で身を清めるとやっと人心地が付く。
村長の家のベッドは粗末なものだったが、この日私は余程疲れていたのだろう、夢も見ずに泥のように眠った。
翌朝、追い出されるように私達は村を出る。
報酬も何もない。
元々この依頼はお金が無くてギルドに仕事を発注できない寒村が大聖堂に嘆願を出し、その願いを叶える形で私が派遣されたものだ。
村人の中には「教会は普段から偉そうな事を言っているのだし、寄付も募っているのだからこんな時くらい助けてくれるのは当然だ」という想いがあるのかもしれない。
恐らくペインさんの言っていた通り大して苦労していないような格好で帰っていたら、この村の人達は次からは「やって貰って当たり前」と考えて感謝すらしないに違いない。私ですらそう思った。
「ペインさんはこれからどうするんですか?」
「ん?ああ、そうだな、そろそろ路銀も不安になって来たし、纏まった金を下ろすために大き目のギルドがある街にでも行ってみるか。まあ・・また気楽な放浪の日々よ」
私はどうしたらいいのだろうか? ラミアを討伐した事により誓約は達成され、その効果は切れた。
今の私に使える奇跡は小癒と浄化、あと明かりの奇跡程度だ。神官としては最低レベルかも知れない。
本来であれば大聖堂に帰り、ラミアを討伐した旨を報告して以前の生活に戻るべきだろう。
しかし私は今回の事で、大聖堂の司祭様や司教様に対して、完全には信じられない様な懐疑的な気持ちを持ってしまっている。
私は元勇者であるペインさんを利用するための駒として、人質、あるいは・・その・・性行為の相手として売り払われた事になるのだから・・・
「あの・・・ペインさん、私も付いて行ってはいけないでしょうか?」
「あ゛?何でだ? もう誓約は終わっただろ?」
私は今の自分の心の内を説明する、以前ほど大聖堂の方々を信頼できなくなったと。
「そりゃ正しいわな、あのジジイどもは周りが言ってる様な善人じゃねぇぜ、だけどよ、それでお前の面倒を俺が見なきゃなんねぇ理由がどこにあるんだ?」
「それは・・ですが今回の事で私は自分の未熟さを思い知りました、その事に気付かせてくれたのがペインさんで・・・」
私は訴えるが、ペインさんはあからさまに面倒臭そうな顔をする。
「お前みたいな神官といると目立つんだよ、それにお前といる事で俺に何のメリットがある?」
「依頼だとか・・神官がいれば回復が出来ます!」
「だから金はいくらでもあるんだから、依頼なんか受けなくていいんだよ!」
「では料理は!? 放浪中でも私が料理を作ります、野菜中心になりますが・・・」
「・・・う~む、まあ確かに野営中のお前のメシはまあまあだったがよ・・街へ行けば食堂もあるしなァ・・・もう一声だな」
ペインさんは私の体を舐め回すように見ながらそう言ってニヤニヤと笑う。彼が私に何を言わせようとしているか手に取る様に分かった。
私は恥ずかしいのを我慢して、絞り出すようにその言葉を口にする。
「う・・・く、か、身体の方・・・は、気に入って頂けていると思うのですがっ!!」
その答えを聞き、私の答えに満足したようにペインさんは厭らしい笑いを浮かべた。
「ま、いいだろ。ククッ・・・そんな心配すんな、頻度は減らしてやるからよ・・・・あと肉料理を憶えろ、草ばっか食わされたらたまんねぇからな」
「は、はいっ!!」
◇◇◇◇◇
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少し早まったかなと思いながらもフリージアは次の町から大聖堂に宛てた手紙を書いた。
その内容はラミア退治を完遂し、誓約を果した事。そしてその旅の間に自分がどれ程未熟だったかを思い知った事。
そして自らを見つめ直し、鍛え直すために放浪の元勇者、ペイン・ブラッド様と行動を共にする事に決めた旨が記されていた。
どんな理由かは知れず、魔王を倒した後、放浪生活を送っているという元勇者ペイン・ブラッド。
その道行は決して華やかではない。
そして今その放浪の旅に一人の仲間が加わった。まだ未熟ではあるが若く美しき女神官、その名をフリージアという。
_____________つづく
R18版ではお試しでここまでの4話を書いて、人気が出なければそのまま完結も視野に入れていたのですが、「続いて欲しい」という声があり、需要があるみたいなので続きを書くことになりました。ここから29話まで続きます、完結までエタる事は無いので安心して続きをお読み下さい。
状況によっては29話以降も続けるつもりです、応援よろしくお願いします!
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読んでいただき有難うございました。




