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旅路3「サヒナ村への道行き」

今回短めです。




 馬一頭に天幕(テント)に、いくつかの日用品や着替えを入れたザック、食料に水。それがペインさんの旅の荷物の全てだ。


「大丈夫だ。怪しい気配があればすぐに気付く、心配するな」


 サヒナ村への道行き、最初の夜営でのペインさんから掛けられた言葉。それだけ聞けば、「流石は元勇者様、頼りになる」と見直したかもしれない。

 これが一人用の天幕に私を引っ張り込もうとしている時のセリフでさえなければ。


 昨晩あれだけ激しく何度も私を抱いたばかりにもかかわらず、ペインさんは夜営の食事の後に私を求めてきた。

 年齢的に考えても、さずがに昨日の今日でまた求められることは無いだろうと思っていたのですが、甘かったようです。


「昨日の今日ですよ!? 昨日の傷も癒えていないのですから、今日くらいは我慢できませんか?」

「昨日の傷? ああ、破瓜の傷か。 ま、ちょっと激しくやっちまったからなぁ」


 ペインさんはそう言って愉快そうに笑うが、私にとっては笑いごとではない。

 下腹部の痛みは多少治まったとは言え、今日また性行為をする事は、治りかけの傷を抉る様なものだ。


「明日またお相手致しますから・・・」

 私は恥を忍んでそう申し出てみる。後日の行為を確約するなど聖職者として恥ずべき事かもしれない、しかし明日になればもう少しマシになっているはずだ。


「なんで小癒(ヒール)の奇跡を願わない?」


 ペインさんが不思議そうに聞いてくる。そう言われる気はした。

 小癒(ヒール)系の奇跡は、冒険者パーティーが神官を欲しがる理由と言っても過言ではない、傷や火傷、打撲などの身体の怪我を癒す奇跡だ。


「これは予測出来ない不幸な怪我ではありませんから・・・」

「は?なんだそりゃ?」


 怪訝な顔をするペインさんに私は説明する。


 大聖堂では、些細なミスによる怪我に奇跡を使うことは禁じられている。


 理由は、『奇跡は偉大な神の御業であり、軽々しく使うべきものではない』という考えがまず大前提にあり、また、小さな怪我・・・例えば転んで擦りむいた、包丁で指を切ったなどであれば、次からは怪我をしないように、転ばない様に静かに歩く事や、慎重に包丁を扱うと言った事が大事で、「怪我をしたら奇跡で治せばいい」では生活習慣が改善しないと言う教育方針からである。


 そして昨日の破瓜による傷は、強姦された訳でもなく、同意の上で一人の男性と行為をしたためのもの。

 生理痛と同じ、いわば女性であれば誰でも経験するであろう、自然なものであり、奇跡を使って治すべき不幸な傷ではないと言う認識だ。


「ハッ!馬鹿馬鹿しい。そんな聖堂のルールを、聖堂の外でまでバカ正直に守ってるのか?」


 ペインさんはその説明を鼻で笑った。


「確かに聖堂内で行儀を覚えさせるにはそれで良いだろうよ、だがココは安全な町の中じゃねぇぞ? もし魔物やら盗賊に襲われた時、その痛みのせいで一瞬の判断や行動が遅れて致命傷になったらどうすんだよ?」


 気になる痛みがあるなら、外では奇跡でもなんでも使って治しておけ、それが鉄則だとペインさんは言う。


 確かにその通りかもしれない。しかし本当にそうなのだろうか? ペインさんの性格なら、私を抱きたい一心でそう言っているだけなのでは?

 そんな疑惑が頭をもたげる、普段の行いは大事だと思った。


 私が怪しんでいる事に気付いたペインさんは、軽薄な笑いを浮かべながら「おいおい、嘘じゃねぇぞ? ったく、判ったよ、今夜はお前を抱くことはしねぇ。ま、それよりも、ともかく早くその傷とやらを治せ!あと俺の身体に浄化も頼まァ、一日中歩いて汗だくだぜ!」


 浄化を風呂代わりに使うのも抵抗があるが、ペインさんの希望なら仕方がない。これもサポートの内だ。

 それから私は小癒(ヒール)と、浄化(ピューリファイ)の奇跡を使い、傷を癒して身体を清潔に清める。


「ふう、サッパリしたぜ。これでお前とヤれれば最高なんだがな」

 にやにやと笑うペインさんに、私としても嫌味の一つも言いたくなる。


「普通ペインさんくらいの年齢の方ならもう少し落ち着いていて、精力も落ちているのではないでしょうか、やはり勇者様の身体は特別性なのですか?」


 ジト目でペインさんを睨む私の言葉に、ペインさんは嫌な顔をするでもなくニヤリと笑った。


「ああ、そうだよ、『勇者』の身体は特別製だ・・・別に俺が望んだ訳じゃねぇけどな。ある日突然神様とやらが俺の身体に「職業・勇者」とか言うスキルを授けていきやがった・・・ちょうどいい、その証拠を見せてやるよ」


 皮肉っぽく笑いながらそう言って、ザックから小さな小瓶と水袋を取り出し、私に小瓶から出した小さな丸薬を一粒渡して「飲んでみろ」と言って来た。


「何ですか、これ?」

「いいから飲め」


 強引に進められ、その赤黒い胡椒粒ほどの丸薬を飲んでみる、すると・・・


「聖霊力が・・・回復してる!?」


 ペインさんは驚く私をニヤニヤしながら見つめて言った。


「これが勇者の体質の一つってヤツよ。勇者の体液、まあ基本的に血液だが・・・そいつを飲むと聖職者で言う聖霊力、魔術師で言う魔力、、まあ俺はひっくるめて精神力って言ってるがな、そいつが回復すんだよ、そいつは俺の血を精製して作った精神力回復の丸薬だ」


 驚くべき報告だった。魔物の血や体組織の一部が薬の原料になる事は知られているが、人間の血液にそんな効果があるなんて聞いた事が無い。まさか勇者の血液にそんな効果が!?


「高価な魔力回復ポーションですら大した効果は無くレアなのに、そいつには大抵の術者の精神力を全快させるレベルの効果がある」


 信じられない・・・そんな顔をしていたのだろう。ペインさんは「な?特別だろ?こんな事、強欲な錬金術師にでも知れたら、監禁されて血を絞るだけの家畜にでもされかねねぇぜ」と自嘲気味に笑った。


 まあ実際は勇者を捕らえて監禁できる錬金術師や薬師など居ないだろうから冗談だとは思うが、実際にその身体から高価な毛皮や角、薬の原料が取れるからと乱獲された魔物が居るから笑えない。


 しかし信じられなかった、だが確かに私が使った小癒(ヒール)浄化(ピューリファイ)の奇跡分の聖霊力は完全に回復していた。


「へっ、神様から勇者ってクラスを突然授かった時はよ、その力の大きさに浮かれちまってたけど・・・こんなのもう人間じゃねぇわな」


 ペインさんは皮肉そうにそう呟くと焚火の火で煙草に火をつける。

 そして一服大きく吸い込んで紫煙を吐き出すペインさんのその横顔が、私には何故か一瞬寂しそうに見えた。


 しかし、しばらく煙草を吸った後再び顔を上げた時、ペインさんの顔は元の好色そうな中年の顔に戻っていた。


「よし、そろそろ寝るか?フリージア、お前天幕(テント)使え」

「え!?、そんな、ペインさんのテントなのですから、私が使う訳には・・・」

「バ~カ、女に野宿させられるかよ、それとも一緒に寝るか?俺はそれでもかまわねぇぜ? お前の躰は気持ち良かったしなぁ、むしろ歓迎するぜ!」


「・・・先に寝ます、天幕、有難く使わせてもらいますね。」


 女に野宿はさせられない・・・か。

 ただのエロオヤジの様かと思えばそんなセリフを口にしたりする。本当に下品なんだか紳士なんだかわからない人。


「血液を精製すると精神力が回復する薬が作れるとか・・・勇者は人間じゃない」 

 自分の事をそんな風に言っていた。


 確かに私もペインさんに会う前は、勇者は特別で、神々に選ばれた「ある意味人間を越えた存在」だと信じて疑っていなかった。


 しかし実際会った『元勇者』はスケベで中年で、どうしようもなく人間だったのである。


 先日もあんな事をさせられてしまった。だがなぜか怒りや憤りはあまり湧いてこない、しかし一方でラミアを滅ぼすまで、これからどんな事をさせられるのか不安でもある。


 フリージアはなんだかペインに対する憐れみと不安のような不思議な感覚を抱きながら、天幕の中で目を閉じた。



______________つづく






R18作品から直接的なエロ表現を削除していく関係で、短くなってしまう話が出てくる事が分かりました。出来るだけ作品内容に矛盾が無いよう修正・変更・加筆していきますがご容赦頂きますようお願いいたします。


皆さんの応援が次話執筆の励みです、気に入って頂けたら↓にある☆☆☆☆☆評価をポチッと押して頂いて評価、あるいはブックマーク、イイね等で応援して頂けるととても嬉しいです!


また感想、レビューなど頂けるとモチベーションが上がります、よろしくお願いします!


読んでいただき有難うございました。

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