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旅路23「空白の時間」

この旅路23も元々は7割以上エロシーンだった為ほぼ書き直しでした、何とか形にはなったですかね。




 結婚式に向けての方針が決まり、ロイエスタール家を中心に人々は忙しさを増していく。

 フリージアとレインも、いきなり当事者となってしまった事により、打ち合わせやらリハーサルやらで色々と忙しくしている。


 そんな中唯一暇になってしまったのがペインであった。


 仕方なく修理中の剣の様子を見に行ってみるが、よほどガタが来ていたらしく「まだもう少し時間がかかる」と言われ、あまつさえ「邪魔だ!」と追い出される始末である。


「ケッ、忙しいのはしょうがねぇとしても、言い方ってもんがあるだろうが!」


 ロイエスタール邸に戻り、部屋に帰ってふて寝でもしようかと長い廊下を歩いていると、軽鎧姿のソフィアが前からやって来る。

 他の者と違い、ソフィアは道中や式の間リスティールの傍に控えているだけである。事前に予定の確認が終わればリハーサルなどもやる事も無く、手持無沙汰に巡回しているだけのようだった。


「よぉ、ソフィア、どこ行くんだよ?」

「ペイン殿・・どうかなさいましたか?」


 進行方向の壁に手をついて、通せんぼでもするように問いかけるペインと、引き攣った顔でペインを見るソフィア。


「お前も暇してんだろ、ちょっと付き合えよ、暇すぎて酒でも飲もうと思ってるんだ、酌でもしてくれ」


 いくら暇だからとは言え、昼間から酒を飲もうというペインに、呆れたようなため息を吐くソフィア。


「ペイン殿、フリージアさんも言っていましたが、そんな風に悪党ぶらなくとも良いではないですか・・・」

「ぶってる訳じゃねぇ!!これが素だってぇの!!」


 あれからソフィアは稽古中の傷をフリージアに癒して貰った際に、治療がてらフリージアから今までの旅の大まかな出来事を聞いたことで、何とかギリギリ自分の中でペインの事を「各地を旅しながら人々を助けている」という勇者象の範囲に入れ、彼の事を「悪ぶっているけど本当は優しい人」だと思い込む事にした。


「ペイン殿、暇であらせられるなら丁度いい、それならば剣の稽古に付き合って頂けませんか?」


 ソフィアは既にリスティールの近衛警護として復帰が決まっているし、無理に稽古をして武技に磨きをかける必要もなくなったのだけど、長年の習慣と言うものはなかなか抜けるものではない。

 それにあの時言われた言葉・・・「何かあった時に私の一番近くに居るのは貴女です。ソフィア・リンクス、(わたくし)の命を貴女に預けます」と言う、あの言葉を聞いて奮い立たない訳が無かった。


「はぁ!?せっかくの休みまで稽古稽古かよ、全く本当にシャーリアス信徒ってヤツぁ・・・」


 ペインはブツブツと文句を言っていたが、なんだかんだでソフィアに付き合ってくれる。

(やはりフリージア様の言った通りだ)


 ペインと言う人間はがさつで助平、育ちが悪く人に対する気遣いもマナーもまるで無いが、それでもその本質は善であるとフリージアは評していた。

 もちろん正義だ何だという分かり易い「善」では無い。

 普段良い行いを心がけている人間でも、追い詰められれば何をするか分かりはしないし、悪事に手を染める事もあるかもしれない。

 ただそう言った自分の良心に逆らう行動をした時、後悔するかしないかでその人の本質が分かるのではないかと、フリージア様は言っていたのだ。


 そこで何の良心の呵責も感じないのであれば人の心を失っている事になると・・・



「おいっ!お前、人を稽古に付き合わせておいて、その最中に何をボーっとしてやがる!」

 尻に打撃の痛みを感じてソフィアは我に返る。立ち合いの最中に隙を見せたソフィアの尻をペインが蹴り上げたのだ。


「す、すいません!」

 相変わらずペインは女が相手でも容赦がない。流石に真剣で血が流れるような傷を与えることは無いが、今のように尻を蹴り上げたり、鎧を着ていなければ隙を見て乳を揉んだり尻を撫でたりしてくる。


 ペインとしては稽古に付き合ってやっているのだから、これ位の役得はあってしかるべきと言う考えのようだ。

 証拠にロバートを筆頭とした男性の警護騎士からの稽古の依頼はすべて断っている。実に分かり易い。


「ふぅぅっ!」っとソフィアが改めて息を吐き、構え直す。

 ペインは相変わらず片手にショートソードを持ったまま両手をだらりと下げている。しかし以前はそれが挑発かとも思ったのだが、ペインが元勇者だと理解した上で改めて対峙してみると隙が無い・・・


 秋も深まり中庭には冷たい風が吹き始めている、白くなりそうな息を吐きながら、ソフィアは一旦下半身を狙って突くと見せかけて、手首の回転だけで剣先を跳ね上げ上半身へと軌道修正するフェイントを入れた攻撃を敢行した。


 持っているのは真剣だ、稽古にしては危険すぎる技だった。しかしその攻撃もあっさりとペインに見切られ、ショートソードで受けられてしまう。

 しかし単調な攻撃では受ける事すらさせられず、躱しざまに反撃されるのだが、今回は少なくともペインに剣を使わせることが出来た!

「ギャリン!!」と言う音が鳴り、金属同士が擦れる感触が手に伝わって来る。


「おっと!」

 そんな言葉を吐きながら技を受けて見せるペインは未だ余裕綽々で悔しいが、だが、だからこそ稽古でこんな危険な技を繰り出す事が出来るという安心感もあった。

 

 暇潰しと言うにはやや激しい訓練は、午後の数時間、ソフィアの体力が尽きるまで続いた。


◇ ◇ ◇ ◇

_________________



「この者の傷を癒したまへ・・『小癒(ヒール)!』・・・はい、終わりました」

「すまない、こんな事は他の者には言えなくてな」


 稽古の最中何度も尻を蹴り飛ばされ転がされ、内出血や擦り傷があちこちに出来たためフリージア様のもとを訪ねる。

 男性神官に「お尻の内出血が痛いので治して欲しい」などと言うのは恥ずかしいが、そのままと言う訳にもいかない。しかしペインの攻撃は割と容赦がなく、そのまま放置すると痛くて寝つきが悪くなるのだ。


「ふふふ、ペインさんももう少し手加減してくれればいいんですけどね・・・」

「いや、怪我と言う怪我をしている訳では無いんだ、これ以上手加減をされたら稽古の意味がない」


 稽古が終わった後ペインは「ふぅ・・・動いたら腹が減ったぜ」と、立ち上がれない私の事を気遣いもせず、どこかに行ってしまった。最低の男だ。


 クスクスと笑うフリージアさんはとても可愛らしい。この女性がペイン殿に純潔を捧げたのだという話を聞いた時は「敵わぬまでもせめて一太刀」と思ったものだった。フリージアさん本人に止められたが。


 それからフリージアさんが何故ペイン殿と一緒に旅をするようになったのか、レインが仲間に加わった理由などを聞く事になった。


 私は今まで、このオスカという北方の、魔王領最前線の地で生きている自分はかなり苦労をしている方だと思っていた。しかし世界には、たとえ魔族との敵対が無い地だったとしても、苦労している人間などいくらでも居ると知ることになる。


 そしてペイン殿の事。


 彼へのイメージは最初の頃と変わってはいない。下品で態度が悪く、見境なく女に手を出そうとする、最低の男。

 この男が「放浪の勇者」のモデルだなどとは冒涜にも程があると思った。しかしレインが言ったのだ「でも、ペインのやってる事って、概ね同じような事だよね? まあ物語みたいにスマートでキレイにとはいかないけどさ」と。


 フリージアさんもレインも、彼と旅をするきっかけは、放浪中の彼に「()()()()()()からだ、まあ代わりに処女の神官に性交渉を持ちかけたり、大人になったばかりの少女に愛人契約をさせたりと、やっている事は滅茶苦茶だ。しかしそれでも確かに助かった人はいるのである。


「どうしました、やはり幻滅してしまいましたか?」

 治療後黙り込んでいた私にフリージアさんが優しく話しかけてくる。心配してくれたのだろう。今度この方がリスティール様の結婚式を執り行うと言う事になったが、この方ならば適任だ。

 同じシャーリアスの信徒としても尊敬できる。「幻滅するか?」とは、ペインが憧れの勇者と同一人物と知ってしまってと言う事だろう。


「いえ、もうこれ以上幻滅のしようがないですから、大丈夫です」

 私がそう言って笑うと、フリージアさんも笑った。


 フリージアさんは私がその短気で頭に血が上り易い性格のせいで様々なトラブルを起こしても、軽蔑せず、優しく治療し、相談に乗って下さる。光の神の信徒とはかくあるべし、シャーリアス様は人の欠点や汚い所も許し、お認めになるのだ。

 私だってフリージアさんが頻繁にペインに抱かれていると知っても、彼女を汚いなどとは思わない。


 世の中に無償の善意など中々あるものではない。ならば私もあの卑劣で下品な元勇者の事を認め、感謝しよう。


 確かにあの男は無礼で、私の事も散々馬鹿にしてくれたが、少なくともおかげで私はこれからもリスティール様と一緒に居られるのだから。


 ソフィア・リンクスは事故の性格と向き合い、それを認めつつ、それでも自分を変えていくことは出来るのだからと、未来に希望を抱くのであった。




______________つづく




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