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旅路21「ソフィアの反省」




 真剣試合の興奮も冷めやらない内、ペインとソフィアはロイエスタール邸の一室、ソフィアの部屋に居た。


 ソフィアとしては自分の部屋になど入れたく無かっただろうが、ペインの泊まっている客間はペイン達の希望によりレインやフリージアと同室であったし、わざわざ別の部屋を主であるリスティール様に用意して頂くのも違う。


「シャーリアス様に誓った事だ・・・好きにしろ・・・」

「ったく、光の女神の信徒ってぇのはどうしてこう融通がきかなくて、頭の固い奴が多いんだろうなァ」


 ソフィアの顔には試合前には有った興奮や、強い意志の様なものが全て失われており、あの強気で高慢なソフィアはどこに行ってしまったのかと思う程だった。

 目からは輝きが失われ、諦めの色が濃くなっている。


「そんなにあの姫さんについて行きたかったのか?イワティスは旧魔王領だ、これから冬になって気候も厳しくなる・・・人間にとってそんなにいい場所じゃねぇぞ?」


 経験者は語る。

 

「それでも私は・・・リスティール様と、一緒にいたかったのだ・・」

「そうかい」


 ガックリと項垂れる私を見ようともしないで、ペインと言う男が許可も取らずに私のベッドにごろりと横になる。


 皮鎧を脱いで軽装のシャツだけになるとその筋肉のつき方が良く解る。

 引き締まった腹筋はまるで弛んでいないし、首も太く、捲り上げた腕には幾筋もの古傷が見えた。


 このペインと言う男は私の師であるロバート様と同じか、それよりも更に多くの修羅場をくぐってきたのだろう、これでは私が敵わないのも納得だ。


 惜しむらくは・・・と言うか納得できないのが、なぜそれほどの男がこんな軽薄な態度で、どこにも仕官せずにブラブラとしているのかと言う事だった。


 魔王軍との戦争は終わったとはいえ、各地の治安は未だそれほど良くなったとは言い難い。町ごとにやくざ者の組織はいくらもあるし、これほど強い男が衛兵や騎士として悪人を取り締まる立場に真面目に邁進すれば、その街の治安維持や平和にどれほど貢献できるか分からない。


 別に神官殿の護衛が悪いことだとは言わない、しかし旅人の護衛ならばそこまで腕が立たなくても務まるだろう。この男であれば騎士団や衛兵団の指南役にすらなれるかも知れないのだ。

 ソフィアにはその不真面目さが許せなかった。


「どうした、何もしないのか!」


 こちらが覚悟を決めているというのにペインと言う男は一向に手を出してこない。

 こちらとしては長々と先延ばしになどしたくはない、さっさと済ませてまたリスティール様と一緒に居られる方法を考えなくては。ソフィアはそう考えていた。


 すると突然ペインと言う男がめんどくさそうに口を開く。


「なぁ・・・お前もしかして、処女か!?」


「それがどうした! 私は15になってすぐリスティール様の下に仕官して、今まで立派に務めを果たして来たのだ、男にうつつを抜かしている暇など無い!」


 男慣れしていない事に感づかれたのであろうか?しかしペインの質問の意味が分からなかった。


「こんな良い女を放っておくなんて、お前の周りの男は随分と奥手なんだなァ・・・まあ、でもそれで納得か、流石にこんな賭けで純潔を失うってのもあんまりって言やぁ、あんまりだからな」


 まわりの男が放っておいた訳ではない。実際そう言う誘いは数多く、様々なタイプの男から誘いを受けてはいた。だが一様にソフィアに()()()()()て手を出す所まで行けなかっただけである。それにしてもさっきからこの男、一体何の話をしている・・・


「フリージアと言いお前と言い、シャーリアスの信徒はお堅いねぇ・・・だからこんな事になるんだぜ、お前はまず剣の腕がどうこうよりも、そのカッとなり易い性格をどうにかするのが先だろうな」


 ベッドに寝ころび、腕を枕にして寛ぎながらそんな事を言うペイン、だから一体何だと言うのだ?


「あのリスティールってお姫さんに頭を下げられたんだよ、『ソフィアは激高しやすく、挑発に乗って、とんでもない約束をしてしまったようですが、何卒ご容赦頂きたい』ってな、その分慰謝料を払うからってよ・・・良かったな、優しくて部下想いのお姫様で。」


 その一言を聞いてソフィアは膝から崩れ落ちそうにる。後頭部をぶん殴られたような衝撃だった。

 自分のせいで主が・・・あの誇り高いリスティール様がこんな男に頭を下げる事に・・・しかも賠償金まで・・・・


 それは自分が犯されるよりもソフィアにとっては余程ダメージがあった。


(ま、これもあのリスティールって姫さんの計算の内なんだろうけどな・・・ソフィア(コイツ)みたいな手合いは自分が傷つくよりも他人の命や名誉の方を大事にするタイプ、ましてや仕えるべき主人の名誉ならなおさらだ。確かにこうやって自分の行動で主家に迷惑がかかった実績を作ってやれば、コイツも少しは大人しくなるだろうな)


「うう・・・リスティール様に・・・申し訳が無い・・・」

「言っとくが自害しようとか考えんなよ?余計迷惑がかかるしこっちも寝覚めが悪い」

「くっ!・・・分かっているっ!」


 ソフィアはそれこそ血を吐かんばかりに後悔の念を滲ませてそう絞り出す。その姿を見てペインは本当に面倒臭そうに馬鹿でかいため息をついた。


「あーあー、分かったよ、クソ、全く辛気臭くていけねぇぜ!」


 ペインはベッドから腹筋だけで起き上がると、そのままベッドに座り、両膝の上に手を置いて話し始める。


「あんまりに横柄な態度だったんでちょっと揶揄うつもりがこんな近衛の役目を外れるだとか、騎士の名誉だ、生きるだ死ぬだの話になるとは思わなかったんだ・・・悪かったな」


 ペインにとっては跳ねっ返りの女騎士にちょっとお灸をすえてやる程度の認識だった。だから怪我もさせなかったし、ちょっとケツを触ったり唇を奪ったりしただけで、揶揄い半分の悪ふざけで済む話だろうと思っていた。、彼女にこんなに本気で自死を考える程の屈辱や後悔を与えるつもりは無かったのだ。


「女に泣かれるのはどうも具合が悪い・・・それで?お前としてはどうしたいんだ。要はアレか?リスティールって姫さんと一緒にイワティスについて行けるようになればいいのか?」

「ああ・・・だがやはり私は未熟だ・・・真剣でやり合ってみて判った。ロバート様が私を護衛から外すと言うのも納得だ・・・私は少し自分の力を過信しすぎていたのだ・・・」


 先ほどペインから言われた事・・・自分が未熟だったためにリスティールに迷惑をかけたと言う事は、思ったよりソフィアから自信を奪ってしまったらしい、どうやらお灸が効きすぎたか。


「だ~か~ら~、そう言う事じゃねぇんだけどな。まあいいや、ともかく明日だ、明日また姫さんと話し合う事になってるから、お前は大人しく待ってろ!」


 多分恐らくだが、あのリスティールって言う姫さんだったら事の本質にとっくに気付いている。明日の食事の話の中心はきっとその話になるだろう、であればこそコイツが姫さんと一緒に居られる可能性は十分ある筈だった。

 

 だがそんな風に話を振っても、相当落ち込んでいるソフィアは死んだ魚のような目をして放心している。


「おいっ! 聞いてんのか? 明日の話し合いでお前が姫さんについて行けるように、俺が話を付けてやるって言ってんだよ!」

「ほ、本当か!?」

「うをぉっ!、いきなり食いついてきやがったな!!」


 ペインの言葉にソフィアは藁にもすがるというような勢いで顔を上げた。そして両手両膝を床に付くとペインに向かい深々と頭を下げる。


「お願いだ・・・何でもする、私の事を好きにしてくれても良いし、金が必要ならば集める・・・だからどうか私をもう一度姫様の近衛警護に戻してくれ・・・」

「ハァ・・・バカかよお前・・・好きにしろって、それじゃ姫さんが慰謝料払ってまでお前の賭けを無しにした意味がねぇじゃねぇか・・・」


 ペインは呆れつつ、頭をボリボリと掻きながらその頼みを引き受ける。

 まあ俺にしか出来ない方法ではあるが、コイツの同行を認めさせる方法はある。


 そしてそれは、あのリスティールと言う姫さんの思惑とも合致するとペインは読んでいた。

 そして思った、ナレイアといいリスティールと言い・・・ああいうタイプの女が一番厄介なんだと。



 一体ペインはどの様な方法でソフィアのイワティス行きを、ロイエスタール家の人間に認めさせるのか?


 ペインは心底面倒臭いと思いながらも、これもまた自分の蒔いた種だと半分諦めながら自室に戻るのであった。



________________つづく






 

 

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