旅路2「対価の支払い」
暮れの7つの鐘が鳴る頃、私が昼間の安宿を訪れると、一階の酒場の喧騒がピタリと止んだ。
今まで騒いでいた酔客達が皆一様にその手を止め、私の方を伺っている。
確かに神官と言うのは旅の者でも教会に宿泊するものだ。そういう意味で、私の格好は少々場違いかも知れない。
やがて止まっていた時が動きだし、喧騒が戻ってくる頃、宿の主人らしき男性が話し掛けてくる。
「失礼ですが神官様、ウチにどのようなご用で?」
「この宿に泊まっていらっしゃるペインさんという方と同室にして頂きたいのですが、どのように手続きすれば良いでしょう?」
私達の会話は、喧騒に紛れて周りの客には聞こえていないようだ。それを聞いた宿の主人だけがその顔に渋面を作り「ついて来て下さい」とだけ言って二階への階段を登り始める。私は慌てて後に着いていった。
「ペインさん、この神官さんがあんたと相部屋になりたいって言ってるが、知り合いかい?」
「ああ、ちょっと野暮用でな、少しの間一緒に行動するんだ」
「ウチは宿代さえ払ってくれれば良いけどよ、教会と揉めるような真似だけは勘弁してくれよ?」
「ああ悪い、迷惑はかけねェよ」
そんなやり取りが聞こえてくる。
その後、ペインさんがエクストラベッドを断った所でやっと宿の主人は私を振り返り「それではどうぞ、ごゆっくり」と、初めて笑顔を見せてくれた。
私もそれに軽く会釈を返す。
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「バカ正直に神官服で来たのか?」
「はい、神官服以外は寝間着しか持っていないので。不味かったでしょうか?」
服は夏冬の神官服を2着ずつと、寝間着しか持っていない。逆に今までそれ以外必要なかったのだ。
「くっくっく、その服じゃあ下で目立ってしょうがなかっただろ?」
そう言ってペインさんは笑った。そして「ここに来たって事は覚悟が出来たってことでいいな?」と。
私は彼の目を見てしっかりと頷く。
刹那、彼が私の手首をつかみ、私は一瞬でベッドに引き倒された。
「あっ!!」
「お前さん、本当に損な性分だな・・・ジジイ共に騙された事が分かって、それでも自分を犠牲にして村人を助けたいのか?」
ベッドに押し倒され、至近距離でそう凄まれるが、私の覚悟は決まっている。
私がペインさんの目を見てハッキリと頷くと、ペインさんはニヤリと笑い「いい覚悟だ。お前、イイ女だな・・・オレは約束は守るぜ」そう一言だけ言うと、神官衣の中に無遠慮に手の平を侵入させてくる。
男性に触られるのももちろん初めてだった、しかしこれで村人が助かるのだと、フリージアは覚悟を決めて目を閉じ、全てを受け入れた。
◇ ◇ ◇ ◇
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「フリージアだったか、お前さん『浄化』の奇跡は授かってるな?」
覚悟はしていた筈だったが実際に純潔を失う事を経験し、放心状態のフリージアにペインが尋ねた。
「・・・・はい」
浄化とは神官が授かる奇跡の中でも下級の奇跡で、神聖魔法が使える神官ならおおよそ誰でも授かっているものだ、当然フリージアも授かっていた。
「そうか、それを聞いて安心したぜ」
魔法や奇跡というのは使いようによっては本来の目的以外の使い方が出来るものもある。
浄化の奇跡は本来汚れた水を飲めるようにしたり、汚れた傷口を綺麗にして破傷風を防いだりという使い方が主だが、服や身体に付いた血や体液などの汚れも取る事が出来る。内側の汚れもだ。
つまり裏技的な使い方で避妊にも使えるという訳だ。
最も知られた裏技的使い方は風呂代わりに使うというものだろうが、それを発展させた感じだ。
神に仕える連中は、奇跡を使って楽をする事を「手抜き」と捉える為どっちも聖堂内でやったら反省室行きだが、ペインにはそんな事はどうでもいい。
「行為の後の後始末を奇跡でやれて楽でいい」程度の認識なのだろう。
「そんじゃ、続き・・・するか」
どうやら一回で終わりでは無いらしい。そしてペインのその言葉は、初めての体験でぐったりとしているフリージアにとって最悪の近未来を意味している。
「ぐ、約束は・・・守ってもらいますからね!」
「分かってるって」
気丈にもペインを睨みつけるフリージアだが、ペインにはまるで効果が無かった。そして上機嫌なペインと悲壮感漂うフリージアの夜は更けていく。
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それからどれほどフリージアの躰を貪っただろう、ペインのような中年男に抱かれるなど、まだうら若きフリージアにとっては悪夢のような事だったろう、しかしフリージアは泣きごとも言わず必死に耐えた。
行為が終わり、疲れて息も絶え絶えのフリージアの顔を見ながらペインは思う。
(へっ、今時こんな奴が要るもんなんだなァ・・・)
大聖堂・・・神殿に使える司祭だ司教だと言った所で結局は人間だ。中には真面目な奴も居るだろうが、大抵は金に意地汚い俗物ばかり。口では偉そうな事を言っていても中身は真っ黒だ。
多少真面目な奴で、悪いことを悪いと思える奴でも、それで自分が損をするとなれば見て見ぬふりをするのが当たり前。
だがこいつは「聖なる使命」とやらの為に自分の体を差し出した・・・馬鹿正直と言うかお人よしと言うか。
思わずペインの顔に笑みが浮かぶ。
衰えたとはいえラミアごときに後れを取るとは思えないが、危険が無いわけでは無い。だがここまでされたら引き受けない訳にはいかないだろう。
魔物・・・特に人間に近いような高位の魔物とは二度と戦いたくなど無かったが、これだけ自分を犠牲に出来るような、コイツみたいな女の為ならばもう一度くらい剣を振るってもいいだろう、それだけの価値はあると。
ペインは煙草で誤魔化していた不安や焦燥感が溶けていくような感覚を味わいながら、そのまま久しぶりに闇に抱かれるように、安らかな眠りに落ちて行った。
◇ ◇ ◇ ◇
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何度目かの行為の後、ペインさんの身体から力が抜け、ぐったりと私にもたれ掛かって来る。何かあったのかと思ったが、何の事はない、すぐにイビキが聞こえてきた。
やるだけやって満足したら眠ってしまったようだ。私への気遣いなど何もない。やりたい事だけヤッて熟睡するペインさんの顔はまるで子供のように見えた。
初めてな上に連続で行為をされ続けた私には、もう動く気力も残っていない。
自分にもたれかかっているペインさんをどかすのさえ面倒で、私も目をつぶると、そのまま泥の様な疲労感に身を任せて眠ってしまった。
そして夜半過ぎ、少し眠った事で体力が回復し、痛みと寝苦しさで目を覚ましたフリージアは、今日、この隣で眠る中年男性に純潔を捧げたのだと思い出したのである。
浄化の奇跡をこんな風に使う事に若干の後ろめたさは感じたが、部屋と自分達の体が綺麗になった事に安心感を憶える。
あんな惨状を宿の人達に見られたり、あまつさえ始末をお願いするのは耐えられない。
ホッとしたらまた眠気が押し寄せてくる、本来ならば寝間着を着るべきだろう、しかしその時の私は気疲れと体の重さから、そのままペインさんの隣で布団に潜り込み、そのまま眠ってしまったのである。
______翌朝。
とは言っても、もう日は高く昇り、大聖堂の日課を考えれば寝坊では許されない時間になって私は目を覚ました。
胸のあたりで誰かの手が蠢いている、剥き出しの乳房を揉まれているのだと気が付いた私は飛び起きて上半身を起こし、布団を手繰り寄せて胸を隠した。
「おお、起きたか。 夕べは良かったぜ・・・お前の体、どんだけ触っても飽きねぇくらい触り心地がいいな。何喰ったらそんな風になるんだ?」
「なっ・・ぐ・・普通の物しか食べていません! 聖堂は野菜中心の食事なのでそのおかげでは!?」
無遠慮に寝ている私の体を弄っていたことを悪びれもしないペインさんに私がそう答えると、何故か笑われた。
「くっくっく、わはははは、そんなに馬鹿正直に答えるこたァねえだろ」
ともかく約束は果たしたのだ、私は浄化で綺麗になった神官服を着る為ベッドから降り、シワが入ってしまった神官服を身に着け始めるが、その様子をペインさんが裸のままじっと見ている。
「見ないで下さい! あと貴方も早く服を着た方がいいのでは!?」
「そんなつれない事言うなよ、俺とお前の仲だろ? 美女神官の生着替えなんざァそうそう見られるもんじゃないからなァ」
ペインさんはそう言って、顎の下をボリボリと搔きながら私の着替えを無遠慮に観察している。
「っ・・・ともかくこれでラミア退治には来ていただけるという事でいいですよね!?」
服を身に着け終わった私がやや投げやりにそう言うと、ペインさんは少し真面目な顔になって「ああ、お前さんがこうして自分を犠牲にしたんだ、口だけで自分では何にもしねぇ大聖堂のジジイ共も、お前を見習うべきだな。約束は守るから安心しろ」と。
私は意外にも真面目なペインさんの言葉に、少し安心したのだが、続く彼の言葉に眩暈を憶える事になる。
「サヒナ村までは馬車も出てねぇし、徒歩だろう?5日くれぇか? ラミアを討伐するまでこれから毎日のようにお前を抱けると思うと、今から楽しみだな」と。
確かに誓約は「ラミア退治を遂行するまで勇者のサポートをする」というものだし、昨日ペインさんも「ラミアを退治するまでお前の体を自由にする」と言っていたのだ。
一夜限りではない・・・
これからラミアを退治し終わるまで、昨夜の様な性行為を望まれたら断る事が出来ない・・・その事に気付き、フリージアは憂鬱になる。
昨夜の決断が間違いだとは思わない、だけどあまりにも酷ではないか・・と。
フリージアは自らの使える神、光の女神シャーリアスを恨みたい気分になるのであった。
______________つづく
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