旅路16「?勇者の剣」
夕飯をゆっくりと食べ終え、ほろ酔い気分で先に取っておいた宿に戻る途中の事だった。魔族の親子とは酒場を出た所で別れている。
「ちょっと・・・ねぇ、お兄さん・・・・?」
そう声を掛けてきたのは先ほどカナロアと名乗っていた君主と一緒に居た、魔術師風の女である。
「何だよ、まだなんか文句があんのか?」
赤ら顔でそう返すペインは酔っ払いのゴロツキそのもの。フリージアとレインに支えられるように歩いている。
「そうじゃないのよ、アタシ、ちょっとアンタとお話ししたくてぇ・・・アタシ、強い男が好きなの・・・さっきはカッコよかったわ♥」
強い香水の匂い。しなを作るボディーラインは豊満で、魔術師というよりは娼婦のようだ。
明らかに男を誘い慣れている女のそんな分かり易いおだてに、ペインがだらしない笑顔を浮かべた。
「へへっつ、そうだろそうだろ、まああんな見掛け倒しの若造なんか、俺にかかれば一発よ!」
ガハハハ、と笑うペインの裾をレインが引っ張る。
「ねえペイン、早く帰ろう? 酔いを醒ました方がいいよ」
「アタシぃ、ロザリアって言うの。アナタのお名前はペインでいいのかしら? アタシ・・ペインの事がもっと知りたいなァ・・・ちょっと二人で飲み直さない?」
あからさまな誘い文句だった。
レインもフリージアも警戒感を隠そうともしない、しかしペインはそんな二人に「俺のことは心配いらねぇから先に帰ってろ♪」と言い残し、フラフラとロザリアについて行こうとする。
「ちょっとぉ、ペイン、オレ達を無視すんなよ!」
「そうですよペインさん!」
「まあまあ、ここからは大人の時間だ、大人しく留守番しててくれや!」
ゲラゲラと笑うペインに二人に対するデリカシーというものは全く見当たら無い。レインとフリージアはそんなペインを心配しつつ「もう知らない!」とばかりに呆れて宿に帰っていく。
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「あんな可愛い子達を二人も連れて・・・罪な人ねェ?」
ロザリアに引っ張ってこられたのは連れ込み宿の一室である。顔パスで部屋に入れるあたり普段この女がどんな事をしているかが伺い知れた。
体を売っているか、それとも間抜けな旅人を引きずり込んで身ぐるみを剝いだりでもしているのか・・・
「そんで?話ってのはなんなんだ?」
そう言いながらもペインの目はロザリアの胸の谷間に注がれている。魔術師のローブと言えば聞こえはいいが、その衣装はどう見ても冒険向きではない。体のラインや胸の谷間が丸分かりのモノで、賢者の学院とか言われている所で真面目に研究をしている魔術師からしたら眉を顰めたくなるようなものであろう。
「野暮な人ねぇ・・・アタシは強い人がス・キ♥ ってさっき言ったばかりじゃなぁい♥」
ロザリアの年恰好は20代後半くらいであろうか?アップにしてうなじを出し、髪飾りを付けたその髪型や、きつめの香水。そして熟した女の柔らかそうな体型には、フリージアやレインには無い色気がある。
ペインがその言葉に鼻の下を伸ばし、その豊満なバストに手を伸ばすが女は逃げる素振りすらない。
むにゅり、、と、手の指がロザリアの胸に沈み込む。
若くてハリのある二人もいいが、たまには熟女の柔らかさもいいな・・とペインは思った。
まあ単純にどちらが美人かと言えばフリージアの圧勝なのだが、ペインは二人にはまだ気を使う。だがこの女なら多少雑に扱っても構わんだろう。
ペインはそう思いながら、何か企んでいるであろう、ロザリアというカナロアの女をベッドに押し倒す。
魔族が迫害されるようになったのは勇者が魔王を倒してからだ。それが間違った事だとは思っていない。あのまま放置していたら、いずれ人族の方がもっと悲惨な立場に立たされていただろう。
だけど魔王を倒してそれでおしまい「めでたしめでたし」なんていうのは物語の中だけだ、現実世界は醜い真実に満ちている。
魔族の少女が恐喝されていたあの時、吐きそうなほどの胸糞悪さがペインを襲った。そしてその胸糞悪さは魔族ではなく、同じ人間に対しての感情だ。
レインとフリージアの行いに少し救われた気分にになったが、何かに八つ当たりしたい気分だった。
以前にフリージアに甘えてしまった時のような事はしたく無い。
その点この胸の内の何だか解らないようなクソみたいな感情を吐き出す先に、このクソみたいな女は相応しいように思えた。
◇ ◇ ◇ ◇
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「ああっ♥・・・凄いっ!あっ、あっ・あっ、ああああっ!!!!♥」
少しスタイルは崩れているが、年齢を経て、柔らかくなった乳房はスライムのようで、よく言えば経験豊富な女の部分は余裕がある。
誘われるままにペインはロザリアとベッドを共にし、普段レインやフリージアには出来ないような、叩きつけるような雑な性交をしていた。
だが多くの経験を経たロザリアはそんな雑で乱暴なセックスを何でもないように受け入れる。
彼女としてはペインを丸め込んだと思っているかもしれない、しかしペインはむしろ冷めた気分で、愛情も何もなく、まるで便所に小便をするような感覚で腰を振る。
それなのに何を勘違いしたのか媚びたような大声を上げる目の前の年増女、本当に心底滑稽だった。
(クソ、なんか面白い罠でも仕掛けて来たのかと思ったが、何の捻りも無い色仕掛けかよ)
ペインはもう帰ってレインやフリージアを抱きたいとすら思っていた。
あのレインの安心しきった表情や、フリージアの恥じらいの顔が見たかった。
ペインを篭絡したと思い、わざとらしい派手な嬌声を上げるこの女に、ペインはうんざりしていた。
「凄かったぁ・・・ペイン、アナタ最高よ、カナロアよりもイイわ♥」
行為の後、しなだれかかって来るロザリアのセリフは、本気なのか世辞なのか半々と言った所だろう。恐らくハニートラップの類なのだろうが、もしかしたら真正の痴女なのかもしれない。
ピロートークにロザリアは、なぜかいきなり勇者の剣について聞いて来た。
「ねぇ・・ペインって勇者の剣を持ってるんでしょ? カッコイイわぁ・・私見てみたい」
ペインは突然何の脈絡も無い話を始めたロザリアに、笑いを堪えるのに必死だった。
(ここまで来るとかえって面白れぇな・・)
「ねぇン♥、ペイン・・・あなた勇者の剣を持ってるって本当なのぉ?凄いわよねぇ・・私勇者の女になりたぁい」
そんな甘えた声を出すロザリアに、ペインは笑いながら答えた。
「勇者の剣ならさっきお前にぶっ刺してやっただろうが!? 俺の勇者の剣はどうだった? スゲェ威力だったろ? 特に突きの威力がスゲェってみんな驚くんだよなァ、くっくっく」
その答えを聞いて慌てたのはロザリアだった。
「ちょっと!何よ、それじゃあアンタ勇者の剣・・・持って無いの!?」
「いや、だから持ってるって言ってるだろ?このご立派な剣をなァ!!」
ガハハと笑いながら腰をクイクイと動かすペインに、ロザリアは殺意を込めた視線を投げかける。
「騙したのね!?」
「あん?騙した?誰がだよ、オメェは強い男に惚れて俺んとこに来たんだろう、違うのか?」
「誰がアンタなんか!!」
そう言ってロザリアはベッドの下に手を突っ込んで、手探りで掴んだナイフを鞘から抜くと、逆手に持ってペインに振り下ろす。
だが素人同然の女の攻撃など、ペインに見切れない訳がない。
振り下ろされる女の手首を掴むとそのまま捻り上げる。その手からあっさりとナイフが落ちた。
「ほほ~、毒塗りナイフか、手慣れてやがるな。だけどこんなもんじゃ俺は倒せねぇぜ? お前のご希望の勇者の剣は十分に味わっただろ?」
ペインがそう言って揶揄うような声を出すと、ロベリアが本気で悔しそうな顔をしながらペインを睨みつける。
「チクショウ!!、こんな奴に・・・あ痛たタタタタ!! クソッ・・・何のためにこんなオヤジに・・・っくっ!」
ペインはロザリアの毒塗ナイフを部屋の隅に投げ捨てると、腕を捻り上げたまま部屋の外に叩き出す。
「へっ、そんな中途半端な色仕掛けじゃあ俺は騙せねぇぜ・・・ま、気持ちイイには気持ち良かったから、気が向いたらまた相手をしてやらァ(笑)」
「クソっ!誰がアンタなんかっ! 憶えてなさい!!」
叩き出されたロザリアは、本当に悔しそうに顔を歪めながら捻りの無い捨て台詞を吐く。そんな所もカナロアとそっくりで思わず笑えて来た。
(ま、レインやフリージアには何のかんの言っても優しくしてやりてぇし、そういう意味じゃぁコイツが馬鹿な事を仕掛けて来たのはいいタイミングだったな、思いっ切り雑な性交もできたし、ストレス解消にはちょうど良かったわ)
何か企みがあるとは思ったが大したことは無く、魔法攻撃をしてこなかったところを見るとアイツも似非魔術師なのだろう。それを確認してペインは連れ込み宿を出ると、二人が待つ宿に戻る。
「お帰り・・・」
出迎えたレインはペインに移った強い香水の臭いに鼻をつまみ、フリージアは眉間に皴を作りながら無言で問答無用の「浄化」を飛ばして来る。
「おう、サンキューな、スッキリしたぜ」
まるで悪びれないペインに、フリージアとレインは同時に大きなため息をつき、そのままゴソゴソと自分の寝床に入っていく。
(流石に不味かったかな・・・)
ペインは不機嫌な二人の態度に頭を掻きながら、冷え切ったベッドで一人朝を迎える事になったのであった。
_______________つづく
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