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旅路1「プロローグ」

元々R18作品だったもののR15リメイクになります、よろしくお願いします!




 うらぶれた宿屋の一室、隣でいびきをかいて寝ている無精髭の中年男、『元勇者』ペイン・ブラッド。


 今夜、私はこの下品で無礼な人に初めてを奪われた。


 強姦(レイプ)された訳ではない、彼からの条件を私が受け入れたのだ。

 私は夜中に一人目を覚まし、酷い有様になっている自分の体とベッドを月明かりで見て、眉を潜める。


「清め浄化させたまへ・・・浄化(ピューリファイ)!」


 聖なる祈りと共に汚れた身体や衣服、シーツが浄化され、清潔さを取り戻す。


 良かった、まだ神聖魔法は使えるらしい。何故こんな事になったのだったか、私は真っ暗な部屋の中、一人記憶を手繰り寄せる。


________________________



「失礼します、フリージアですが入って宜しいでしょうか?」

「おお、フリージア、待っておったよ、入りたまえ」


 都の大聖堂に勤めるようになって1年、やっと仕事に慣れてきた下位神官の私は、エウロペ様と言う高位の司祭様に突然呼び出され、困惑しながらも礼拝堂を訪れた。


「何か御用でしょうか?」

「うむ、此度はずっと棚上げになっていた地方の村、サヒナ村でのラミア被害についての事でな、君に頼みがあるのだ」


 サヒナ村でのラミア被害とは、私がこの大聖堂に来る前から棚上げになっているという案件だった。


 地方の寒村、サヒナ村近くの森にラミアが住み着き、既に大人1人、子供が4人犠牲になっている。しかしラミアは人間の上半身と蛇の下半身を持ち、魔法を操り、身体能力も高い高レベルの魔物だ。おいそれと討伐できるものではない。


 寒村ゆえに高額な討伐報酬も用意できず、ギルドに討伐依頼をする事も出来ずに神殿に嘆願が来たのだが、いくら神殿の人間だとて、何の実入りも無い上に危険な任務には二の足を踏む。


 村の人間を可哀想だとは思うが聖職者は本来戦闘職ではない。メインで戦ってくれる人間が居なければ・・・それも格安で引き受けてくれる人間が居なければどうしようもないと棚上げされている問題だ。


「放浪の勇者という存在を知っているかね?」

「話だけは・・・」


 20数年前、魔王を討伐した勇者様は、勇者としての役割を果たした後も、各地を放浪して人々のために戦っている・・・と、確かそんな話だった筈だ。


「実はその放浪の勇者、ペイン・ブラッドがすぐ近くに来ているらしい。君には彼を説得してラミアを打ち滅ぼしてもらいたい」

「!!・・・私の様な半人前では勇者様の足手まといにしかならないのではないでしょうか?」

「大丈夫だ・・・誓約(ギアス)の奇跡は知っているね?」

「はい」


 誓約(ギアス)というのは光の神の奇跡のうちでも高位の奇跡で、ある誓いを立てる事により、その誓いを遂行している間、誓いを立てた人間の能力を大幅に上げる効果がある・・・しかしその誓いを途中で諦めたり、遂行できなかったりした時はその誓約が呪いになって跳ね返るという覚悟のいる奇跡だ。


「君に『ラミア退治を遂行するまで勇者のサポートを十全にする』という誓いを立ててもらう、君はまだ神官として未熟だが、誓約の影響下ならば十分勇者様の助けになるだろう。勇者様のサポート役は君にしか出来ない。これは神託であり我々もそう判断した。どうか哀れな村の人々に平穏な暮らしを取り戻す為、引き受けてもらえないだろうか?」


「・・・・・」


 この時私は、何故私なんかが勇者様のサポート役に任じられたのか理解できなかった。しかし伝説に近い勇者様をサポートし、悪い魔物を討伐して村人から感謝される・・そんな物語に憧れたのも事実だった。

 そして私はその話を引き受け、誓約をして勇者様が居るという町に旅立ったのだ。


______________



 フリージアが旅立ったのを見送る大聖堂で、誓約の奇跡を執り行った高位司祭エウロペと大司教、ザッハール・ニルスが話し合っている。


「放浪の勇者ペイン・ブラッドですか・・・あれは勇者のイメージが崩れるのを嫌った関係者の流したおとぎ話では無かったですかな? 確かペインは魔王を倒した後、王国から多額の褒美を貰ってその金で遊んで暮らし、その上周りから色々煩く言われるのが嫌だと王都から逃げ出して遊び歩いていると聞きましたが」


「ああ、確かに魔王を討伐した後のペインは勇者らしさの欠片もないロクデナシだ。死んだ仲間も浮かばれまい。だが腹が立つことに勇者としての戦闘力はそのままだ。後は本人がやる気になるか次第だが、あいつは既に一生働かなくても食っていけるだけの金を持っている、まあ今回は寒村からの依頼でその金すらないのだがな」


「ではどうやって彼にラミア退治をさせるので?」

「その為のフリージアだ、今のペインの興味は酒と煙草と・・・女だ。フリージアは神官としては未熟だが見た目はすこぶるいい。恐らくペインの好みのど真ん中だ。フリージアの聖霊力はあまりにも小さくて、この大聖堂でこれ以上役に立つことは無いだろう、それならば女として、私達の宗派のイメージアップに貢献してもらおう、僅かな報酬で、誰もが見捨てた寒村の危険な魔物を討伐した・・・とな」


 確かにフリージアは大聖堂に勤める女神官の中で、ヴィジュアルに関して言えば頭一つ、いや二つは飛びぬけていた。年は若く、神官の頭巾の下に隠れる金髪はサラサラと流れる錦糸の様で、深い青の瞳は宝石の様。

 白い肌、スラリとした体形に豊かな胸。これで聖霊力が強ければ、聖女として祭り上げた方が教団の利益になっただろう。


「ペインは引き受けるでしょうか?」

「腐っても勇者だ、勇者は剣技だけでなく、魔法も操る知性も持ち合わせている、我々の意図にもすぐに気付くだろう。きっとタダ働きに応じてくれるだろうて・・・本来勇者だと言うなら、こんなまだるっこしい事をせずとも進んで討伐に赴いて欲しい所だがな」

「全くです、勇者なのに怠慢としか言いようがありませんな」


 自分についてそんな会話がされているとは心にも思わず、フリージアは辺境の小都市、イバーラへと急いだ。

 村人を救うという、聖なる役目を果たすために。


_______________________



 イバーラの町の安酒場___。


 そこに炙った鶏肉を齧りながら酒を飲む、一人の酔っぱらい中年が居た。

 

 髪はくすんだ茶色で所々白髪が混じり、着ている服もお世辞にも上等とは言えない。逞しい体つきと油断のならない眼つきから、恐らく傭兵か何かに見える・・でなければゴロツキだろう。

 テーブルに立てかけてあるボロ布に包まれているのは恐らく剣だ。


 時折近くを通りかかる女の給仕に下品な冗談を飛ばし煙たがられているこの男、これが元勇者?


 だが人相書きとも一致しているし、多少なりとも聖霊力のあるフリージアは感じていた、この人物がペイン・ブラッドだと。


 神官服のままテーブルの近くまで行き、正面に立つと、彼が私に胡乱な目を向けてくる。


「んぉ? ここみてェな小汚い飲み屋にこんな美人が一体何の用だァ? 姉ちゃん、一緒に飲むかい?」

「初めまして、ペイン・ブラッド様でよろしいでしょうか? 私はフリージアと申します。大聖堂から派遣されまして、元勇者の・・・」と言いかけた所で言葉を遮られた。


「待ちな姉ちゃん、それ以上は喋るな」


 一瞬放たれた殺気の様なものが私の口を(つぐ)ませる。周りの人間は気付いていない、それだけでこの人が只者でないことは明白だった。


「ハァ・・大聖堂のジジイどもの使いかよ、一体どこから嗅ぎ付けてくるんだか、クソ面倒くせぇ!」


 彼はそう吐き捨てる。

 そして「その肩書はもう捨てたって言ってもあんたらは納得しないんだろうな。まあいい、話だけは聞いてやる。場所を移すぞ」と、そう言って飲み屋の勘定を払い、私と連れだって自分が宿泊しているらしい安宿に移動した。


「このような所に・・・勇者様は国王から多額の謝礼を受けており、お金には余裕がある筈では?」


 この人が偽物だとは思わないが、思わず出た質問に勇者様は、「金はギルドに預けてある。金持ってるって判るといろいろ面倒くせぇんだよ『恵まれない人の為に寄付を』とか『いい投資話がある』とか言う奴らがうようよ寄ってきやがる。傑作だったのは『自分は貴方の父親の隠し子で、生き別れの兄弟だ』って奴だな、アレは笑ったわ」と、彼はそう言って皮肉そうに口元を歪めた。


「それにあんた等は教会に行けば清潔な寝床が用意してもらえるんだろうけどな、庶民の宿泊施設なんてこんなもんだ、あんたの今の言葉は真っ当に働く庶民をバカにしてんぜ?」

「も、申し訳ありません」


 言われて私は自分の言葉を恥じた。世間知らずということは自覚しているが、確かに私は恵まれているのだ。


「で? 大聖堂のジジイどもが一体いまさら俺に何の用だ?」

 ベッドに腰掛けるなり煙草に火をつけた勇者様が面倒臭そうにそう聞いてくる、私は今回自分がなぜ勇者様の所に来たのか精一杯説明した。

 きっと勇者様であれば村人を気の毒に思い、立ち上がってくれるだろう、そう信じて。


「ハッ! それで? そんな危険な役割を何で俺が引き受けなきゃいけねぇんだ? しかもタダでよ? ギルド行って言ってみろや『報酬は出ないんですけど正義の為に命懸けで戦って下さい、怪我しても死んでも自己責任で!』ってよ。引き受ける奴がいるかどうか」

「そ・・・それは」

「大体正義だ何だ言うならよ、村からの謝礼が少なくてギルドに頼めないって言うなら、大聖堂のジジイが報酬出してやればいいだけだろうが。自分の懐からカネは出したくない、それで元勇者の肩書で俺の事を便利に使おうって魂胆が丸見えだぜ」

「・・・・・・」


 確かに勇者様の言う事も一理ある、だけど、だからこそ立ち上がってくれる勇者様は尊敬されるのではないかと、そんな私の考えは甘いのでしょうか。


「それにフリージアだったか、あんたまだ新米だろう? 大聖堂にはもっと腕っこきが居るだろうに・・・こんな金にならない魔物退治より、貴族の怪我でも癒していた方が金になるのは解るがな」


 やはり私が未熟者である事はすぐに見破られてしまいます、しかし、その点は心配ありません。

「それは大丈夫です、私は誓約(ギアス)の奇跡を受けていますから、ラミアを滅ぼすまではお役に立てると思います!」

「なんだと・・・・?」


 勇者様の顔が一瞬険しくなる、そしてしばらく考え込むような表情になった。

 そしてタバコの火を消すと、忌々しそうに吐き捨てた。


「そう言う事かよ、ジジイどもの考えそうな事だぜ・・・」

「何が・・・でしょうか・・・」


 恐る恐る聞く私に勇者様は憐れむ様な視線を投げかけてくる。


「フリージア、あんたジジイ共に売られたんだな・・・いや、人質にされたって言った方がいいか・・・」

「人質ですか?」

「その誓約(ギアス)ってのは『ラミア退治の間、俺の言う事を何でも聞く』とかそんな感じのもんじゃ無いのか?」


「いえ、『ラミア退治を遂行するまで勇者様のサポートを十全にする』というものですが・・・」

「同じようなもんだ・・・」


 勇者様は呆れたようにため息を吐く。

「フリージア、お前は相当バカ・・というか素直なんだな、あとその勇者様も止めてくれ」

「ではなんとお呼びすれば・・」

「ペインでいい」


 ペインさんはヤレヤレと首を振った後、その誓約(ギアス)の意味を教えてくれる。


「つまり俺がここで断ったらお前に呪いが跳ね返ることになんだよ、ジジイどもはそれを解った上で、目の前の女を不幸にしたく無かったら俺にタダ働きしろって脅してる訳だ」

「あっ!!」


 司祭様からこの話を受けた時は、そもそも勇者であるペインさんが断るかもしれないという考えそのものが無かった。頭が固い・・・私の悪い癖だ。

 ・・・ここで断られたら誓約未達成の呪いが・・・まさかそんな私の身を人質にするような真似を司祭様達がするなんて・・・


 ペインさんは恐怖でカタカタと震えだす私をじっくりと観察した後、一言「・・・引き受けてやってもいい、ただ条件がある」と。


「申し訳ありません・・私が世間知らずなばっかりに・・それで条件とは?」


「・・・・ヤらせろ」

「えっ!?」


「セックスだよ。お前はイイ女だ。俺がそれに釣られる事もジジイの予想の範囲内なんだろうさ、ジジイどもの思惑に乗るのは癪だけどな。だからわざわざ『ラミアを退治する』じゃなくて『サポートを十全に』なんて、どうとでも取れる誓約(ギアス)をさせたんだろ、下の世話(セックスの相手)だってサポートと言やぁサポートだからなぁ?」


 自分が何を言われたか分からなかった。

 自分の外見が殿方の劣情を誘うものだという事は、何となくだが理解している。だが弱きを助け悪を討つ『勇者様』からそんな事を言われた事が信じられなかった。

 しかも司祭様達がそれを承知で私を?

 だがそう考えると未熟な神官である私が今回のサポート役に任じられた意味も理解できる。これがさっきペインさんが言っていた「お前は売られた」という意味なのか・・・・


「お前さんの事は気の毒に思うよ、だが、それだけで俺が命がけでタダ働きする理由にもならねぇ。ま、考えようによっちゃぁ破格だと思うぜ、小娘が数日体を差し出すだけで命懸けの魔物退治の対価にしてやるっつってんだからな!」


 それでどうする? とでも言いたげな視線を私に送って来るペインさん。その視線は私の顔から体を舐め回すように移動する。何だか値踏みをされているようでいい気分ではない。

 しかし彼の言う通り、私一人が体を差し出せば、ギルドでも退治の難しい凶悪な魔物を退治でき、村人が助かる。それは確かに破格の条件なのかも知れなかった。


「・・・やり・・・ます」


 もちろん経験など無い。初めてがこんな形で納得出来る訳もない。

 だけどだからと言って、この危険な仕事をタダでやって下さいというのはあまりに厚かましい願いだ。

 勇者なのだからタダでやってくれて当たり前だと思っていた私は、何と夢見がちだったのだろう。すべて自業自得、身から出た錆だ。

 ならばせめて誓約を達成し、村を救う事だけでもしなくては。

 私は自分を戒めるように、条件に頷く。

 この体を好きにされても構わない、その代わりラミア退治に協力してください・・と。


「ハァ、真面目過ぎるってのもなかなか難儀なもんだな、だが俺は容赦しねぇぞ? 抱くと言ったら本当に抱く」

「・・・はい」


「・・・・まだ時間は早いな。昼間っからってのも情緒が無ぇか。日が落ちて7つの鐘が鳴る頃もう一度ここに来い。別に逃げても構わねぇよ、呪いったって死ぬことはねぇだろう、戻ってジジイに文句言って解呪させればいい。ただお前が次にここに来た時点で契約成立だ。俺はラミアを退治するまでお前を自由にする、代わりにラミアは絶対ぶっ殺してやるよ」

「・・・・わかりました」


 最後通牒なのか、彼は私に猶予をくれる。

 もしかしたら、それほど最低な男では無いのかもしれないと、そう思いたくなる。


「それでもなんだ、せっかくだし手付を貰っとくかな」


 ペインさんはそう言うと、素早い動きで私を引き寄せ、唇を奪った。

 無精ひげが顔に当たる、ただ唇が触れるだけでは無い、まるで貪るような・・・。


 ・・・それが私のファーストキスだった。


「・・・ごちそうさん。それじゃ暮れの7つ、楽しみにしてるぜ」

 そう言ってニヤニヤと笑うペインさんはやはりとても元勇者には見えない。


 強引に奪われた初めてのキスは、タバコ臭い味がした。



______________つづく



自己判断でここまでは大丈夫だろうという表現にとどめていますが、「R15でこの表現はまずい」と言うものがあったらコメント等で教えていただけると助かります。


皆さんの応援が次話執筆の励みです、気に入って頂けたら↓にある☆☆☆☆☆評価をポチッと押して頂いて評価、あるいはブックマーク、イイね等で応援して頂けるととても嬉しいです!


また感想、レビューなど頂けるとモチベーションが上がります、よろしくお願いします!


読んでいただき有難うございました。

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