小さなコㇿポックㇽには巨大な豚カツ
これは『手乗りコㇿポックㇽと可愛い魔女っ子と私』( https://ncode.syosetu.com/n2661ik/ )の前日譚です。ただし予め本編を読む必要がないように書いていますが、これを読み終わってもっとこのキャラと舞台設定について踏み込みたくなったら本編も是非読んでください。
「美味そう! この料理何って呼ぶの?」
私が自分で作った豚カツセットを食卓に置くと、そこで待ってる小さな小さな女の子は興味津々で訊いてきた。
「豚カツ知らないの?」
「ボクまだ人間の料理よくわからない」
それは仕方ないね。だって彼女は人間ではなく、『コㇿポックㇽ』という小人の種族だ。身長は15センチしかない。だから今食卓の上に立ってても違和感はない。人形が乗ってるみたいに。
ちなみに言葉使いは男の子っぽいが、長い水色双馬尾に14歳の私と同じ位若い顔で、食べちゃいたい位可愛い女の子だ。サイズ的には食べれなくもないし? 勿論冗談だけど。コㇿポックㇽはコロッケではないし。
食べるなら今目の前の豚カツだ。そして彼女も私と一緒に食べる。
彼女はこの家の居候を始めてから基本的に人間と同じものを食べてるが、その小ささで態々彼女の分を作る必要がなく、私が自分の食べる一人分の料理を僅か分けるだけで十分。人間の10分の1サイズの体で食べる量は1000分の1しかなく、それ位減っても何も感じないから。
「では好きに食べていいよ」
「やった! 頂くぞ!」
そして彼女は小さく切られた豚カツの一切れを両手で持ち上げようとしたが、彼女には重すぎるようだ。一応1センチ位薄めに作って、1.5センチ位の幅に切ったが、長さは彼女の身長の半分位で、丸で幼児を抱くって感じだ。持てなくはないが、気楽に食べる余裕はなさそう。
そんな頑張ってる小さな姿は可愛いが、見ていられない気もするよね。
「そのまま無理だろう。ほら、貸して」
「あ、ボクの!」
私が箸でそれを挟んで彼女の手から引き離したら不満そうな膨らんだ顔で睨まれた。
「ただ切ってあげるだけだよ。ほら、これで食べやすくなるだろう」
私は箸で1センチ位の長さに切って彼女に渡した。これで簡単に持てる。それでも食べきれない程の量だよね。でも食べ残ったらその分私が貰うから問題ない。
「有難う」
そして私は残った部分を、小皿に入れた中濃ソースに漬けて口に運んだ。
「いい香り。この黒いの漬けるの?」
「うん、もっと美味くなるよ。あーん」
答えた後私はこれを噛んで一口を、そしてご飯とキャベツの繊切りも食べた。悪くない。我乍ら普通に美味。普通ってのは私が料理人ではなくただの中学生でそれなりのものができたって事。
彼女も私を見真似して、自分にとって大きめの盆みたいな小皿の中のソースに掌サイズ位の豚カツを浸してすぐ持ち上げて口に運んで囓った。丸で栗鼠みたい。私にとって一口だが、彼女が食べるとこんな感じだね。
「肉もパン粉も同時に食べた方が美味しいよ」
頬張って美味そうに食べてるが、この口の中に肉ばかりね。折角豚カツだ。衣がないなんて豚カツと呼ばない!
「あーん。バリッと美味いぞ!」
ほらね。剣立ちを口にして咀嚼したら彼女も結構気に入ったようだ。
「ご飯も一緒に食べてね」
私は箸で適当な量のご飯を摘んで彼女の隣に置いたら彼女は手で拾って噛んだ。これじゃ米粒というより丸で饅頭みたい。
「キャベツもね。偏食しないように」
「わかったー」
子供扱いしないで、とでも言いたそうな白けた返事。彼女は幼児ではないのはわかってるが、小さいからつい世話焼いちゃうよね。
キャベツの繊切りも彼女と並ぶと灌木みたいで、持ち上げる動作は花を摘むような感じ。
こんな小さな体で食べるだけで沢山動いて大変そう。私はそんな彼女の必死な姿を見守りながら自分の食事も進めていく。
「ごちそうさま」
暫く経って彼女は満腹でお腹を撫でた。私から見ればあまり減ってないように見えるが、この子の小さな胃袋にはもう限界ね。
「頬汚れてるよ」
こんなに汚れてやっぱ子供だ。私は指先で彼女の頬を拭いたら……。
「な、何してるの!?」
彼女は私の指に口付けした。
「一番汚れてるのは唇だから」
「あ、そういう事か」
てか私勝手に誤解して意識しちゃった!? こんな小さな子相手に。
「ではこれを私が……」
「待って! これボクが貰ったから最後まで責任取るよ」
私は食べ残った豚カツの一切れを摘もうとしたが、彼女はギュッと放さない。
「え? でももうお腹一杯だろう?」
「そうだけど。ほら、あーんして」
「あ、こういう事か。嫌だけど」
何で私がこんな小さな子に? 自分で口に入れた方が速いし。
「あーんして!」
彼女はまだしつこく、本当に子供みたい。でも私に何かしたい気持ちは伝わったよ。
「わかったよ」
根負けして結局顎を食卓に乗せて口を開けた。恥ずかしいが別に嫌ではない。
「ボクの……美味しい?」
口に入れて貰った後、彼女は訊いてきた。
「別に普通だけど?」
「もー!」
なぜ拗ねたの!? 作ったのは私だよ。どんな答え期待してるの? 訳わからん……。
「ところでどう? 初めての豚カツ」
「凄く美味だぞ!」
「よかった。では今後も又作るね」
「やった!」
気に入ってくれたみたい。
こんな感じで、小人と一緒だと風変わりな食事だが、彼女のいる日常で私は楽しんでいる。
お読みいただきありがとうございます。
この作品は『とんかつ短編料理企画』の参加料理で2000文字制限なので、できるだけ簡潔に書いて、漢字も普段より使っていますが、ついでに振り仮名も多め。
豚カツには他にもまだ味噌汁など色んなものが入りそうだが、重要な「豚肉+パン粉+ソース+ご飯+キャベツ」だけで精一杯なので、カツ愛しました。




