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プロローグ
半獣の少年が一人、森の抜け道をくぐって天界へと足を踏み入れた。肉球のある黒い毛並みの二本足を、ふわふわとした雲が包む。その雲を跳ね飛ばし、少年は雲の上に建つ白い小さな小屋へと一目散に駆けだした。
「天使様、ナサニエル様っ!」
その小屋の前。金色の長髪を持つ、男性の姿をした背の高い人影を見つけて、少年は叫ぶ。その人影は少年の方を振り向いて、穏やかに微笑んだ。
「やぁ、ハヨット」
「ナサニエル様、僕ね、昨日ね……!」
ハヨットは力天使ナサニエルの元に駆け寄ると、目を輝かせ早口にまくしたてた。少年の黒いふさふさのしっぽもぴょこんと立った耳も、嬉しさを抑えきれないといった風に揺れている。
「ハヨット、焦らなくても時間はたくさんある。中でお茶でも飲みながら話そう」
ナサニエルはそう笑って、ハヨットの黒いくせっ毛の頭を撫でた。
「は、はいっ!」
ハヨットの元気の良い返事にうなずくと、ナサニエルはくるりと振り返って小屋の戸を開けた。
その背に生えた翼は、片方だけだった。