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私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ  作者: 柚木 潤
第3章 失われた記憶編

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93話 ラピス

 ユークレイスは自分の記憶の曖昧な部分がある事を、とても不安に感じていたのだ。

 しかし、誰かに相談する事も出来なかった。

 今までユークレイスは、任された仕事を完璧にこなす事が、幹部の立場としては当たり前であると考えていた。

 たまにアクアやスピネルが遊び半分で行っている態度を、許せない時があったのだ。

 ユークレイスは彼等とは違い、ブラックの指示を完璧にこなす優秀な部下でありたかったのだ。

 その為、他人にも自分にも厳しい態度を貫いていた。



 ユークレイスは鏡に映る自分を睨みつけていた。



 最近記憶がすっぽりと抜けている時間が、少しずつ増えている気がする。

 以前は数分だけであったのに、最近は1時間近くわからない時もあるのだ。

 私は鏡に映る自分を見て、昔のことを考えていたのだ。

 あいつがまた現れたのか・・・

 彼女は私の中に統合されたと思っていたのに・・・


 私は幼い頃から、自分の中にいくつかの人格が形成されている事をわかっていた。

 別の人格が表に出ている時はその時の記憶は無いのだが、寝ている時に他の人格達と話す事が出来たのだ。

 幼い頃は自分が知らない事をみんな伝えてくれたので、特に困る事もなかったのだ。

 そして数人いた私の兄弟とも言うべき人格は成長と共に消えていったのだ。

 だが、一人だけずっと存在している人格があったのだ。

 彼女はずっと自分の中に存在している事を知っていた。

 あまり表に出る事が無かったが、夢の中で話をする事があったのだ。 

 彼女は他の人格と違い自分に統合されなかった理由は不明ではあったが、それほど気になる事では無かったのだ。

 私は心配事があると、彼女と夢の中で話した。

 彼女に話す事で心が落ち着き、彼女は私の姉のような存在であったのだ。


 しかし五百年前、急に表に現れたのだ。

 それも長時間・・・夢の中で行動の一部始終は話してくれたのだが、私にはその行動の意図がわからなかった。

 その頃、人間のハナ殿と交流があった時期である。

 ブラック様のお気に入りだったハナ殿と、私はそれほど話す事は無かった。

 だが自分の中の彼女は、ハナ殿と親しく話す状況に持って行ったのだ。

 それだけであれば良かったが・・・

 あの時の彼女はまるでハナ殿に嫉妬しているような口ぶりであったのだ。

 その後人間との戦いとなり、ハナ殿との接触もなくなると、いつの間にか自分の中の彼女は現れなくなったのだ。

 表にだけでなく、夢の中でも会う事は無くなったのだ。

 だから、彼女は自分の中に統合されたと思っていたのだ。

 ・・・それなのに今になって・・・

 それも、今回は私の夢の中にも現れないのだ。

 だから、私は自分の記憶が欠落している部分に何をしていたのか全く分からないのだ。

 

 私は鏡に映る自分に怒鳴ったのだ。


「いるんだろ、出てこい。

 何故何も報告しない。

 舞殿に何をした!」


 すると、鏡に映る自分の目が光ったのだ。

 そしていつもと違い冷静さを欠く自分の表情が一瞬で変わり、冷ややかに笑ったのだ。


『何を怒っているの?』


 私の頭の中に話しかける声が聞こえたのだ。


「どうして今になって出て来たのだ。

 それも今回は私に何も知らせないとは・・・

 何を企んでいる?」


 私は鏡の中の冷ややかな自分に問いかけたのだ。


『企んでいるなんて、心外だわ。

 私はあなた。

 あなたは私でもあるのよ。

 あの邪魔な人間の小娘を追い払っただけよ。

 何か怪我を負わせたりしたわけでは無いわ。

 それは・・・あなたの希望でもあったはずよ。』


「私の希望?

 そんな事は望んでいない。

 舞殿がこの世界にいなくなってしまったら、どれだけブラック様が悲しむか・・・」


『悲しむ?

 まあ、一時はね。

 でも完璧主義者のあなたは思っていたはず。

 あの崇拝するブラック様が、あんな弱い人間の小娘一人に翻弄されている事が許せないとね。

 あの人間の娘がいなければ、もっとブラック様はしっかりと王の仕事に向き合えたのでは無いかと。』


「そんな事を思った事は無い。

 どんな時もブラック様は素晴らしいお方だ。」


『あはは、嘘つきね。

 そんなだから、私が存在するのよ。

 ・・・何も知らせないって言ったわよね。

 今教えてあげる。

 あの舞という娘のこの世界の記憶を全て抜き取ったわ。

 それだけの事よ。』


 私はそれを聞いて愕然としたのだ。

 鏡に映る自分は高笑いをしていた。


 私の中に存在するラピスの魔人としての力は、私とは少し違っていたのだ。

 もちろん自分より格下の相手の考えを読む事が出来たり、記憶の上書きのような事も出来るのだ。

 だがそれは永遠にではなく、ある一定の時間が来れば元の記憶に戻るのだ。

 しかし彼女は私よりもすごい力を持っていた。


 相手の記憶を抜き取る事が出来たのだ。


 その抜き取った記憶を、小さな石のような物の中に閉じ込めてしまい、いつでもそれを破壊する事で記憶を消滅させる事が出来たのだ。

 そして、その魔法を私には解除する事は出来なかったのだ。


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