80話 その後
主たる者は明るい光の下、消滅という道を選んだのだ。
そこにいる誰もが、素直に喜べる気持ちにはなれなかったのだ。
そんな空気の中、私の指輪に宿りし者が口を開いたのだ。
『今更・・・それが奴の決断なのだよ。
まあ、残された影達を光の下で過ごせるようにするとは流石であるな。
お前が面倒を見ることになるのだぞ。』
「もちろん、私の森で過ごしてもらいます。
森をより良くし、守る者になっていただこうと思います。」
精霊がそう答えると、指輪に宿りし者は少し考えた後精霊を見たのだ。
『ふむ ・・・それにしてもお前の中にいるドラゴンはどうするつもりなのだ。』
「そうですねー、彼はまた眠りについてしまいましたから、起きるまではそのままでも良いかと。」
そう言った後、精霊は私を見たのだ。
私はその美しい姿の精霊を見て、涙を堪える事ができなかった。
そんな私を見て精霊は、私の頬を伝う涙を手で拭ってくれたのだ。
そして優しく私を抱きしめたのだ。
私は益々涙が止まらなかったのだ。
「舞、ありがとう。
舞がドラゴンを復活させてくれたから、私は今ここにいるんですよ。
だから、泣かないで。
もう私は大丈夫だから。
・・・それと、ブラック。
迷惑をかけたね。」
精霊は私を抱きしめながら、ブラックに向き直ったのだ。
「・・・いや、私は魔人の国を守ろうとしただけですよ。
結局は舞やあなたに助けられましたがね。
だから、舞を抱きしめるのを許しましたが、そろそろ離れてもらって良いですか?」
「ああ、そうですね。
じゃあ、最後に。」
精霊はそう言って笑った後、私をギュッと抱きしめたのだ。
ブラックを見ると少し面白く無い顔をしていたが、何だかそのやりとりを見て私はホッとしたのだ。
気付くといつの間にか涙も止まっていたのだった。
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魔人の街に大きな被害は無かった。
しかし、主たる者が作った緑の怪しい者達により、草木などのほとんどがエネルギーを吸い取られていたのだ。
森の精霊は城の上に立つと、緑色の霧状の存在を街全体に振り撒いたのだ。
霧が地面に到達すると、様々な場所で緑の芽が吹き出したのだ。
以前と同じとまではいかなかったが、ある程度の大きさまですぐに育ったのだ。
後は住人である魔人達に委ねられたのだ。
そして、ブラックの魔力を込めた石はそのまま置くこととし、必要な時があれば結界で街を守れるようにしたのだ。
そして今は結界の解除された街となり、自由に街の外に出る事が出来るようになったのだ。
精霊の森はというと、主たる者の仕業によりほとんどの草木が枯れてしまっていたのだ。
ただ、森の中心には大きな大木が生き生きと存在していたのだ。
精霊はそれを見て大きなため息をしたが、すぐにやるべき事に取り掛かったのだ。
枯れた草木を一箇所に全てまとめると、この森の糧として何も無い大地に振り撒いたのだ。
そして、ドラゴンに託していた精霊の空間より、この森に育っていた植物の種を森全体にばら撒いたのだ。
するとすぐにたくさんの芽が出てきて、あっという間に元の森のように生命力溢れる草木が繁り出したのだ。
そして、光の下でも存在出来るようになった主たる者の同胞達は、精霊の指示により森の管理の一役を担う事となった。
それはまるで、森に住む妖精のような存在となったのだ。
その明るい緑色の霧状の者達は、今や他の植物と同じように光や水、大地からの糧をもらう事で存在する事が出来るようになった。
だから、他の者のエネルギーを吸い尽くす必要が無くなったのだ。
『大地と闇から生まれし者』達は、精霊の力により明るい光の下で過ごす事が出来るようになったのだ。
それは、奇しくも消滅した主たる者の遥か昔からの希望でもあった。
人間などの負のエネルギーを吸収し続けた事で、自分だけの欲が増大していったのかも知れない。
ある意味、純粋な存在であったのか・・・
もしも人間に接触せず、自分の作った空間でずっと過ごしていたのであれば、結果は変わっていたのだろうか・・・
今となってはわからない事であるが、『大地と闇から生まれし者』達にとって、森の精霊が希望のカケラであった事は確かだった。
私はと言うと、カクのお屋敷から薬師大学校へと今まで通り通っているのだ。
休んでいた分を取り戻すのに一苦労だった。
そして黒い影の集団に関しては、一部の者しか知る事もなかったので、人間の世界は何事もなかったようにいつもの日常が繰り返されていた。
そして魔人の国と人間の国は、転移の洞窟を通し交流が再開されたのだ。
私は精霊を人間の国に呼び出すと、精霊はこの世界にいる全ての黒い影達を自分の中に吸収し森に連れて行ったのだ。
今や黒い影からの脅威は、この世界においても消えたのであった。




