79話 主たる者の決断
主たる者は自分の中で予想もしていなかった事が起きている事に気づき、焦っていた。
そうなのだ・・・我らは合流した者の中で一番強い者の意思が反映されるのだ。
その他の者が表に出ることはなく、全ては強い者の意思に従うのだ。
今まではそれで問題なかった。
私が一番強かったからだ。
しかし・・・私の中で起きていることはなんだ。
いつの間にか、私の中で燻っていた光が大きくなっているではないか。
あの自然から生まれし者の力が増幅している。
それも、今この時点でも増え続けているのだ。
まさか、あのドラゴンか・・・
このままでは・・・
もしもだが・・・もしも自分より大きな力の存在になった時、私はどうなるのだ。
私の意思は閉じ込められてしまうのか。
今までそうなっていた同胞の意思など考えていなかった。
まずい・・・このままではあいつに飲み込まれる。
ここで分離するか。
しかしこの明るい光の下、自然から生まれし者を分離することは、私にかなりのダメージを与える。
だが分離しなければ、私は消えてしまうかもしれない・・・
私はどうしたらいいのだ。
私を見る遥か昔から存在する者達の目が、鬱陶しいのだ。
クソッ・・・
○
○
○
舞は動揺している主たる者を見て、もしやと思ったのだ。
私は主たる者から出てくる、明るい光の集合体を見たのだ。
明らかにそれは、森の精霊に他ならなかった。
その集合体が出てくると同時に、主たる者を囲む黒い集団も現れたのだ。
どう言うわけか、主たる者が森の精霊を分離したのだった。
そして主たる者の同胞である黒い影の集合体が、主たる者を守るように取り囲んだのだ。
どうであれ私はそれを見て、きっとドラゴンが上手くやってくれたのだと思った。
私は光の集合体から元の精霊の姿に変わるのを見て、涙が溢れそうなのを一生懸命こらえたのだ。
まだ、泣いている場合では無いからだ。
それでも、私は嬉しくて精霊を見て微笑んだのだ。
私を見る精霊は、私が知っている以前の精霊でとてもホッとしたのだった。
しかし光で消滅し黒い灰になりながらも、主たる者を守ろうとする黒い影達を見ていると、不憫でならなかった。
そうしてまでも守らなければならないのだろうか・・・
私はそれを見るのが辛かったのだ。
すると精霊は、主たる者の周りに存在する黒い影の集団を自分の元に集め出したのだ。
今の精霊と主たる者では、精霊の意思に従うということらしい。
光の下にさらされた主たる者がどんどん弱っていくのがわかったのだ。
すると精霊は黒い集団を集め手のひらに乗せると、すぐに主たる者に向かわせたのだ。
そこに向かっていた集団は、先ほどと違い明るい緑色をした霧状の集団となっていた。
そしてその集団は、光から主たる者を守るように集まったが、光の下でも消滅することは無かったのだ。
そして街中に目を向けると、緑色のスライム状の塊を全て宙に浮かせ自分の近くに集めたのだ。
その塊も先ほどと同じように綺麗な緑色の霧状にすると、何処かに向かわせたのだった。
その方向を考えると、精霊の棲家である森と思われたのだ。
それを行っている精霊の姿はとても美しく、私は目を離す事が出来なかった。
そして精霊は弱っている主たる者に向かって微笑んだのだ。
『彼らはもう、光の下でも存在できますよ。
人間を侵食したり魔人の国を攻撃する事なく、この明るい世界にいられます。
さあ、あなたはどうしますか?』
それを聞いて主たる者は益々顔をしかめたのだ。
『私から同胞を奪い、主導権を握ったつもりか。
私がもっともっとエネルギーを取り入れ、お前よりも強い存在になれば良いだけだ。』
『あなたの望みは何ですか?
皆を光の下で存在させ、繁栄させる事では無かったのですか?
それならもう心配ありませんよ。
・・・それとも、周りからエネルギーを奪い取り、他の者を犠牲にして自分達だけの世界とする事が目的なのですか?』
精霊はそう言って表情を変えたのだ。
すると、私の指輪に宿りし者が口を開いたのだ。
『もしかするとだが・・・
光と闇と大地である我らの創造主は、お前達を何も無い世界に送り込んだ後、一つの希望を残したのではないか?
意図せず、緑が出現したのではなく、お前達を光の下に導く事が出来る種を残したのではないだろうか?
周りからエネルギーを吸い取るだけの存在のままであるなら、いつまでも暗闇でしかいられなかったはず。
しかし、そうで無いのなら・・・
今がそのチャンスでは無いのか?
お前の中にまだ存在する同胞がいるのだろう?
・・・どうしたいのだ?』
指輪に宿りし者がそう話したのだが、主たる者は顔色を変えることは無かった。
『・・・今更・・・』
主たる者は光を遮ってくれる同胞達から離れた。
そしてあっという間に明るい光の中、上へ上へと進んで行ったのだ。
そして、少しするとパラパラと黒い灰が降ってきて、主たる者の気配を感じる事は出来なくなったのだ。
それが、主たる者の選択だったのだ。




