76話 ドラゴンの吸収
舞とブラックを乗せたアクアは怪しい生き物がうろつく魔人の街へ降りて行った。
私とブラックはアクアに頼み、街中が見えるくらいに降下してもらったのだ。
今は主たる者をドラゴンに任せる事にしたのだ。
まずは、この緑の奇妙な者達をどうにかしようと思ったのだ。
この明るい光の下で存在できると言う事は、精霊の力を使ったに違いないのだ。
しかしこの緑の者達には自我があるようには見えなかった。
魔人の力で消滅させる事は出来るだろうが、それで良いのだろうか・・・
彼らは主たる者によって作り出されただけであり、ただのエネルギーを吸い取る物として存在しているだけに感じたのだ。
その後は主たる者に合流する事は目に見えていた。
そうであるなら・・・
「ねえ、ブラック。
みんなを一旦撤退させてもらえるかな?
使いたい薬があるの。
それを使えば一時的だけど、動きを止めれると思うの。
・・・きっと精霊を助ければ、この奇妙な者達も変わる気がするのよ。
どうかな?」
私がそう言うと、ブラックは微笑みながら頷いたのだ。
「わかりました。
確かにあの者達から意思を感じる事は出来ませんね。
舞が言う通り、やってみましょう。」
ブラックは目を閉じて、ここにいる魔人達全体に思念を送ったのだ。
上から街中を見ていると、すぐに魔人達が建物の中に移動し始めたのだ。
そしてあっという間に緑の奇妙な者達しか見る事が出来なくなり、街は静まり返った。
全ての魔人に伝える事が出来るなんて、今更ながらすごいのだ。
そして、ブラックの指示にみんなが素早く従う様子を見て、やはり魔人の王なのだと私は実感したのだ。
私は鞄からある薬をいくつか取り出したのだ。
多分使う事が多くなるだろうと思い、カクと一緒に沢山作っておいたのだ。
アクアに街中を上手く低空で飛ぶようにお願いすると、私は薬を入れたカプセルを少しだけ開けて、うろついている緑の者達に振り撒いていったのだ。
私は飛びながら振り撒く事で、広範囲に薬を行き渡らせる事が出来たのだ。
街中は金色の霧で包まれたようだった。
それはとても綺麗で、さっきまでの殺伐とした雰囲気を浄化してくれるかのように見えたのだ。
精霊にも効果のあった薬・・・
私は緑の者達を眠らせ、動きを止めたかったのだ。
精霊が助かれば、彼らはもっと違う形の存在になれるような気がしたのだ。
金色の霧が消えていくと、そこには今までうろついていた緑の者達の姿はなく、地面にスライム状の緑の塊が丸く水溜りのように出来ているだけであった。
私が思った通りとなり、ホッと胸を撫で下ろしたのだ。
ただ、この薬が効いているのもせいぜい数時間。
精霊や主たる者と分離している存在なので、そのくらいは問題無いと思うのだ。
その間に精霊を助けなければ・・・
私とブラックは街の様子を見届けると、アクアに主たる者のいるところに戻るように頼んだのだ。
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主たる者を包み込んだドラゴンは、あえて自分を吸収するようにしむけたのだ。
『我はお前が知っている人間や魔人とは全く違う存在であるぞ。
我に従ってはどうだ?』
ドラゴンの言葉を聞いた主たる者は、苛立ちながら答えたのだ。
『ふざけた事を・・・
ただのエネルギー体であるならば、吸収する事などたやすい。』
そう言って、主たる者は自分を囲むドラゴンのエネルギー体を取り込み始めたのだ。
人の形をしている主たる者の体に、囲んでいた黒い煙がどんどん入って行ったのだ。
そしてあっという間にドラゴンのエネルギー体は消え去ったように見えたのだ。
だがそれは、ドラゴンの思惑通りだった。
本来ならブラックと変わらないほどの強い存在であるドラゴンが吸収されることなどはなかった。
しかし、ドラゴンは自分の一部のエネルギーを実際吸収させる事で主たる者を欺き、即座に主たる者の中にいる森の精霊に接触を試みたのだ。
そして主たる者の中に入り込んだドラゴンはある小さな光を見つける事が出来たのだ。
必ず精霊の意思を見つける事が出来ると、ドラゴンは疑わなかったのだ。




