74話 結界の消失
主たる者は精霊の力を使い、魔人の街を囲む結界に大小様々な蔓を張り巡らせたのだ。
この『大地と闇から生まれし者』の力は、本来生き物からエネルギーを吸い取る力を持っているのだ。
魔人などは結界があり侵食する事は出来ないが、少しずつだがその結界を作り出すエネルギーを取り込む事は出来たのだ。
もちろん、ただの黒い影達ではその力は微々たるもので大きな影響を及ぼす事はなかった。
しかし主たる者においては、その結界のエネルギーを取り込む事で自分の力に変え、そして結界を破壊する事も可能であったのだ。
それを精霊の力を使う事で最大限発揮する事が出来たのだ。
その為徐々に結界の魔力が低下し、破壊されるのも時間の問題であった。
ジルコンは今いる城全体を包む結界を張ったのだ。
もちろん自分の魔力を使う事で行っているので、攻撃されればジルコン自身の力が低下する事になるのだ。
しかし、ブラックのいない今自分がその役目を引き継ぐ必要があったのだ。
そして幹部達には、主たる者がブラックの結界を破って入って来る事があれば、対抗しなければならない事を伝えていたのだ。
魔人の世界では強い者が弱い者を守るのが当たり前であった。
魔力の強い者にはそれなりの特権や地位が与えられていた。
いざと言うときにはその者達が戦う事が魔人のあるべき姿だと誰もが理解していたのだ。
その為、力の強い魔人達は自分のやるべき事はわかっていたのだ。
彼等は空を見上げ、主たる者の動向を見ていたのだ。
そしてジルコンからの指示を待っていたのだ。
その頃ブラックは森の外に向かいながらも、主たる者の後を追うべきか、ここで舞を待つ事にするか悩んでいた。
舞を一人でドラゴンに会わせるのは心配ではあったが、いざとなったら『指輪に宿りし者』が助けてくれるはずなのだ。
舞の言うように、私は魔人の国を守る責任があるのだ。
それにドラゴンの力を借りるのであれば、舞が適任であるのは明らかだった。
私は悩んだ末、魔人の城に戻る事にしたのだ。
私とユークレイスは街の入り口に瞬時に移動した。
結界は問題なく張られていたが、そこから見える魔力を込めた石の色が少し薄くなっている事がわかった。
結界のエネルギーが消費されている事は明らかであった。
そしてちょうど城の上空には主たる者が存在し、精霊の力を使い結界を破壊しようとしていたのだ。
ただ、街の上空だけが殆ど雲のない快晴となっており、主たる者以外の黒い影達を見る事は無かったのだ。
なるほどと思った私は、思念でアクアにこちらに来るように伝えたのだ。
アクアは指示通りすぐに現れたのだ。
「ブラック、遅かったではないか!
あいつが結界をどうにかしようとしているぞ。
念のため、ジルコンが自分の力を使い城全体を結界で包んでいる。
だが、早く何とかしないと・・・」
「ああ、すまなかったね。
アクア、私を乗せてくれるかい?」
私はそう言い、アクアにドラゴンの姿になってもらったのだ。
ユークレイスには結界の中に入り、ジルコンの指示に従うように伝えたのだ。
私はアクアの翼の横に乗ると、主たる者の所に向かったのだ。
そして結界の破壊に力を注いでいた主たる者は私に気付くと、張り巡らせていた蔓を戻し、私を見てニヤリとしたのだ。
「上手く街を光で照らしたものだな。」
「ああ、私には優秀な部下がいますので。
私がいなくても上手くやってくれるのですよ。」
私はそう言うと、左手を主たる者に向け小さな結界を作り閉じ込めたのだ。
しかし主たる者は以前よりもエネルギーを増した様子で、あっという間に自分を囲んでいる結界を破ったのだ。
そして手から暗い影を浮かべそれは鋭い剣のような形となり、こちらに向かってきたのだ。
私は直前でその鋭い剣と化した黒い影を止めると、一瞬で灰のようなものに変えたのだ。
それは風に吹かれ、あっという間に消え去ったのだ。
主たる者は不満そうな顔を浮かべると、今度は手のひらから精霊の力で作られた蔓を出現させ私に向かわせたのだ。
精霊には悪いがこちらに害を与える存在であるものに、私は手を抜く事はしなかった。
それが魔人の国を守る為であれば尚更なのだ。
私は左手をその蔓達に向け、渦を巻いた黒い衝撃波を放ったのだ。
それは蔓達を消滅しながら主たる者の前まで到達したが、やはりそこで止められてしまい、主たる者にダメージを与える事は出来なかった。
主たる者は薄笑いを浮かべると、今度は街を囲む結界に向けて手のひらから何重にも蔓が絡まった大きな硬そうな物を作り出したのだ。
それを勢いよく結界に、刺すように放ったのだ。
すると、私が作った結界がパリンと割れるように消え、私の魔力を込めた石も砕けたのだ。
そして結界が消えるのを確認すると、主たる者はある物を生み出したのだ。
主たる者は次々と濃い緑色の塊を四方に投げていったのだ。
そのスライム状の塊はすぐに人のような形となり、結界の失った魔人の街へと降下して行ったのだ。
それはとても奇妙な形をしているが二本足で歩き、強い光の下でも問題なく動くことが出来る存在であった。
私はその状況を見てまずいと思ったとき、ジルコンから思念が伝わったのだ。
『ブラック!
こっちは大丈夫。
この状況は想定していたから、あなたは主たる者の事だけに集中して。』
そんなありがたい言葉が伝わってきたのだ。
『済まない。
ジルコン、任せましたよ。』
私はそう思念を送り、街の事は幹部達に任せて主たる者に向き直ったのだ。
その者は奇妙な存在をいくつも作った事で、さっきよりエネルギーが減っているはずなのだ。
どうにかなるはず。
今は目の前の危機に集中する事にしたのだ。




