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私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ  作者: 柚木 潤
第2章 暗闇の世界編

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71話 ドラゴンの解放

 舞とシウン大将は洞窟の中で、岩山の精霊と言うべき存在と会う事が出来たのだ。

 しかし、その精霊は伝えてきたのだ。


『その者は封印すべき存在・・・』と。


 その様子を見てシウン大将は私の前に出て、腰元の剣に手をかけたのだ。

 私はシウン大将の顔を見て大丈夫だからと伝え、岩山の精霊の前に進んだのだ。


「確かに以前はそうだったかと思います。

 しかし、今は違います。」


 私はまっすぐに岩山の精霊を見て話したのだ。


『何故そう思うのですか?

 あなたがそのドラゴンに助けられたから、そう思うのですか?

 本当にそうですか?

 そのドラゴンが攻撃を加えなければ、あなたを傷つけることがなかったはず。

 元はと言えば、そのドラゴンのせいでは無いのでは?

 違うと言えますか?

 それに、本当にそのドラゴンがあなたの助けになるのですか?』


 岩山の精霊はそう私に問いかけてきたのだ。

 私とドラゴンの関係も全てお見通しだった。

 そうだ、この人は前もそう。

 疑問を投げかけるのだ。

 そして私の信念を確かめるのだ。

 私は封印の石の中のドラゴンを見ると、ドラゴンは何だかしょんぼりしている様に見えたのだ。

 私はそんなドラゴンを見て話しかけたのだ。


「大丈夫よ。

 私の気持ちは揺らがないわ。」


 そう言って私は顔を緩めたのだ。

 岩山の精霊に向かい直すと、その存在は冷たい表情を崩す事は無かった。

 

「ええ、違うわ。

 私はあの時、あえてドラゴンを怒らせる様に仕向けたのよ。

 自分に攻撃を向けさせる為にね。

 あの時私に何かあったとしても、私は後悔していなかった。

 私はドラゴンに、この世の中をもっともっと知って欲しかったの。

 楽しさだけでなく、悲しみや、本当の強さをね。

 だって、ずっと封印されていたのよ。

 自我を獲得した後も、何も知らないままで。

 自分の巨大な力をどう使えば良いかなんて、わからないのは当たり前だわ。

 誰かが伝えなければってね。

 大きな力を持つ者は、それ相応の責任があると言う事を。

 このドラゴンは私の気持ちをわかってくれたはず。

 今は森の精霊を助ける為に、力を使いたいと思っているのよ。

 そこにウソは無いと信じてるから。

 だから・・・お願いします。

 封印の石からドラゴンを出してください。」


 その言葉を聞いた岩山の精霊は大きなため息をついて私を見たのだ。

 

『あなたは全く変わって無いですね。

 この世界で起きている事はある程度把握しています。

 しかし私は封印の石を守る為の存在にすぎない・・・

 私は状況を見守る事しか出来ません。

 あなたの思いを裏切る者がいなければ良いのですが・・・』


「それでも・・・疑うより信じていた方が何倍もいいわ。」

 

 私はそう言って大きく深呼吸をして笑ったのだ。


 岩山の精霊は両手を広げると私の持っている封印の石を宙に浮かし自分の方に引き寄せたのだ。

 そしてドラゴンの入った封印の石を手に持つと、パリンと音を立てて石が割れたのだ。

 すると中からドラゴンのエネルギー体と言うべき霧状の黒い塊が出て来たのだ。

 私はその水晶のような石が、あっという間に割れた事に驚いたのだ。

 確かにこの岩山の精霊が作り出した石なのだから、破壊するのも簡単なのかもしれない。


『私はこの石を作り出したり破壊する事は出来ますが、ドラゴンを封印できるのはドラゴンの民だけなのを覚えておいてください。』


「ええ、ありがとうございます。

 覚えておくけど、きっともう封印は必要ないはず・・・」


 私はそう言って、封印の石から出てきた大きなドラゴンのエネルギー体に目を移したのだ。

 

 さて、本当ならこのエネルギー体には依り代が必要なのだ。

 まだ不完全体であるドラゴンをどうやって魔人の国まで連れて行こうか。

 私が思案していると、岩山の精霊はそれを理解したようで洞窟の出口を指さしたのだ。


 私とシウン大将は洞窟の出口に急ぐと、外には大きな怪鳥が一体草原の中に佇んでいたのだ。

 私はドラゴンのエネルギー体に向かって話したのだ。


「ねえ、あなたはまだ不完全体だから依り代が必要だけど、今はこの怪鳥の身体を借りるだけに出来るかしら?」


『舞の言いたい事はわかっておる。

 身体を借りるだけで、エネルギーを吸い取ったりはしない。

 安心するが良い。』


 そう言うとドラゴンは怪鳥の体に入り込んだのだ。

 そして翼を羽ばたかせ、空に舞い上がったのだ。

 少しの時間、このドラゴンの里の上空を優雅に飛び回ると、舞達の前に降り立ったのだ。


『なかなか良いでは無いか。

 飛ぶのはいつ以来であろうか。

 さあ、我に乗ると良い。』


 ドラゴンは久しぶりに青空を飛ぶことができ、とても満足そうだった。

 振り向くと、洞窟の出口のところに岩山の精霊が立っていたのだ。

 私を見つめる表情は、さっきと同じで冷たいものではあった。

 しかし今の私には、まるで見守ってくれている様に見えたのだった。

 そして私達は頭を下げると、怪鳥の背中に飛び乗り転移の洞窟へと向かったのだ。


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