68話 舞を呼ぶ声
主たる者は精霊の森のエネルギーを吸い取り始めた。
その時、舞は自分を呼ぶ懐かしい声に気付いたのだ。
「ブラック・・・私行かなくちゃ。
彼が私を呼んでる。
それに・・・森は大丈夫だって言ってるわ。」
私はブラックにそっと伝えたのだ。
「彼って精霊?
いや、違うか・・・
まさか・・・彼がもう復活したのかい?」
「それはよくわからないけど。
だから、行ってみたいの。」
ブラックはすぐに理解したのだ。
それはこの場所で精霊がずっと見守り続けた者。
私は呼びかけに答えて、彼の元に行く事を決めたのだ。
「しかし・・・危険では?」
「きっと大丈夫。
今この状況で私を呼んでるって事は、ちゃんとした意味があるはず。」
私はそう言ったものの、ブラックは複雑な顔をしたのだ。
主たる者が周りの草木のエネルギーを吸い取り始めると、植物達はみるみる下を向き、葉や茎が茶色に変色しはじめて枯れたような状態になったのだ。
しかし、ブラック達は主たる者を攻撃する事が出来なかったのだ。
精霊を取り込んでいる事と、森と繋がっている事が問題なのだ。
特に精霊は同じ気配を持つ者として吸収されているとしたら、あの異物を分離する薬もきっと役には立たないだろう。
主たる者は枯れ始めた草木を見て満足そうに、黒い霧状の影のまま笑い出したのだ。
『ハッハッハッ・・・さて、先に行った同胞の後を追うとするか。
今頃は魔人の街に着いているころだろう。』
そして主たる者は、霧状の影から怪鳥の様な姿に変わると、魔人の街へと飛び立ったのだ。
「ブラック、ユークレイスと早く街に行って。
私は私のすべき事があると思う。
あなたは魔人の王なのだから、街を守る責任があるのよ。」
私はそう言って、主たる者を追うように話したのだ。
ブラックは少し考えた後、私を抱きしめて耳元で囁いたのだ。
「わかりました。
舞、気をつけて。
無茶はしないでくださいね。」
私は頷くと、ブラックは私から離れユークレイスと森の外へと向かっていったのだ。
主たる者は森からエネルギーを吸い取り、力を増幅させた事だろう。
しかしまだ精霊は眠っているはず。
彼の力は使えないのだ。
そして魔人の街には優秀な幹部達がいる。
ブラックが加われば問題ないと思うのだ。
それに私を呼ぶ彼に会えば、きっと何か変わるような気がしたのだ。
○
○
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私は目を閉じ、彼の呼ぶ声に集中した。
すると、一瞬である場所に移動したのだ。
そこは精霊が以前作った空間である事がすぐにわかったのだ。
なぜらならそこは優しい光の溢れる、以前見た生薬の元となる植物がたくさん植えられてる場所だったのだ。
そして、いつもと同じに蔓で出来たテーブルと椅子が置いてあったのだ。
よく見ると、テーブルの上にはあの封印の石が置かれていたのだ。
私はそのテーブルに駆け寄ると、久しぶりに封印の石の中のドラゴンに会うことが出来たのだ。
以前見た時は眠ったままであり、話す事は出来なかった。
だが、今回見た封印の中のドラゴンは、はっきりと目を開けて私を見つめたのだ。
『舞、久しぶりだな。
ずっと我が呼んでいるのに、何をモタモタしておるのだ。』
私の頭にさっきと同じ口調で、思念を伝えて来たのだ。
久しぶりに聞くその話し方に、私は何だか嬉しくて涙が出てきたのだ。
そんな私を見て困った様にドラゴンはため息をついたのだ。
『泣いている暇はないぞ。』
私はもうこのドラゴンと、話す事はないだろうと思っていたのだ。
私を助ける為に、自分から消滅という選択をしたドラゴンなのだ。
今までは世界を火の海にする事も出来る、封印すべき恐ろしいドラゴンと思われていたのだ。
しかし、彼の中に良心を目覚めさせることが出来たのだ。
だから次に復活する時は、封印すべき存在では無いはず。
ただ、いずれ復活する事は分かっていたが、きっと私が生きている間ではないと思っていたのだ。
だから、今回本当に会えて嬉しかったのだ。
「だって、二度と会う事は出来ないと思っていたから。
私、会えたら伝えたいことがあったの。
・・・私を助けてくれてありがとう。」
私は泣きながら、封印の石の中のドラゴンを見て話したのだ。
『・・・我が勝手にやった事だ。』
何となくドラゴンは照れている様に見えたのだ。
『さあ、それよりも大事な話がある。
この森の、自然から生まれし者から託された事があるのだ。
封印の石の中では出来る事は限られるがな。』
そう言って、精霊がドラゴンに託した事を話し始めたのだ。




