57話 精霊の中の黒い存在
ブラックは魔人の森の入り口に着くと、細い一本道をゆっくりと奥に進んだのだ。
目の前に大きな木のある広場が現れると、ザワザワと枝や蔓が動き出し、小さなトンネルが作られたのだ。
ブラックはいつもの様にその中を歩いていくと、森の精霊が待っていたのだ。
相変わらず優しい光を放ち、とても美しい青年の姿の精霊を見ると、私は少しだけ心がチクリとしたのだ。
「どうしたのですか?
ブラックが私の元に来る時は、舞の事かこの世界の一大事の時ですよね。
今回はどちらですかね?」
そう言って精霊は微笑んだのだ。
「今回は両方に関係するかもしれません。
あなたに話すべきか悩んだのですが、舞を守るためにも言っておこうと思いました。」
私は自分の『指輪に宿し者』に言われた事を、森の精霊に伝えたのだ。
ただ、これは必ず何か起きるという事ではないと言う事を、付け加えてだが。
「ブラックは私があの影達と同じ様な怪物になってしまうのではと心配しているのですか?
それでしたら心配ご無用ですよ。
・・・確かに、私が生まれた事については、詳しくはわかりません。
ですが、私は光から隠れるのではなく、光から恩恵を受けている者なのですよ。」
そう言って笑ったのだ。
確かにそうなのだが、何故か不安が拭えなかった。
「その主たる者に会った時に、どうなるかはわかりません。
ですが、その時に舞が近くにいる事で巻き添えになるのだけは避けたいと思っています。
主たる者はあなたを取り込もうと考えるかも知れません。
もし同じ気配を感じる事が出来たならですが・・・」
私がそう言うと、精霊はとても不満な顔をして下を向いたのだ。
「わかりました。
ブラックの忠告は気に留めておく事にしましょう。
私も舞が傷つく事は避けたいとは思いますから・・・」
精霊は渋々ながら、理解してくれたようだった。
そして、私は城に戻る事にしたのだ。
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精霊はブラックに言われた事が、正直納得出来ていなかった。
私があの黒い影の集団に取り込まれると?
以前の私であるなら、その可能性もあったかも知れない。
だが、今の私であればそんな心配は無いのでは・・・
大体、私が『大地と闇から生まれし者』から派生して生まれたと言う事も納得が出来ない。
・・・もしかして、ブラックは私と舞を離すために今回の事を話したのでは。
いや、ブラックは立派な魔人の王である。
自分の私欲のために、偽りを話す様な人物では無いのは確かだ。
・・・だが、舞の事においてはどうだろう。
私は疑念を消す事が出来なかった。
私はドラゴンが封印されている石を見ながら考えていた。
舞が良心を目覚めさせたドラゴン。
今は封印されているが、完全体になったら外に出してあげるつもりなのだ。
最近は眠っている時間より目を開けている時間のほうが長くなった気がするのだ。
もうすぐ目覚めるのかも知れない。
私は、舞がそれを知って喜ぶ姿を想像すると、自然と顔が緩んだのだ。
もう少ししたら、ドラゴンが住んでいた岩山の精霊に、彼を見てもらおうと思った。
「君はどう思う?
私は、あの黒い影達と同じなのだろうか?」
ドラゴンは目を開けて私をじっと見たが、すぐにまた目を閉じてしまい、眠っているかのようだった。
以前から答えの出ない事を、返事のないドラゴンに向けて話しているのだが、それでも彼を見てつぶやく事で、何だか気持ちが落ち着くのであった。
私が封印の石を預かってから、彼は返事のない話し相手なのだ。
しかし、ドラゴンの彼にも呟いていない事があった。
実は以前から気になっていたのだが、今まで目を逸らしてきたのだった。
私はより強い力や知恵を得ると同時に、黒い何かが身体の片隅に存在している事に気付いていた。
これが、もしかしたら・・・
私は考えるのをやめたのだ。




