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私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ  作者: 柚木 潤
第1章 薬師大学校編

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55/178

55話 休息

 魔人の城では、いつになくブラックは王の仕事をテキパキこなしていたのだ。

 ネフライトはそれを見て、横で静かに頷いていた。

 黒い影の集団からの襲撃がいつ起きてもおかしくない今、魔人の王としての役目をしっかりと行っているブラックを見て、とても満足だったのだ。



 私は自分の『指輪に宿し者』に渡す物を、舞にもらいに行こうと思ったのだ。

 だが、ネフライトが目を光らせていたため、王の仕事を放っておいて人間の国に行くわけにはいかなかったのだ。

 仕方ないのでやるべき事を終了したら、急ぎ向かうつもりだったのだ。

 このペースなら、午後にはネフライトに文句を言われることなく行けると思っていた時だった。

 執務室の扉がノックされ、ユークレイスが入ってきたのだ。

 厄介な事がまたあったのだとすぐにわかるほど、ユークレイスは深刻な顔をしていたのだった。


「ブラック様、お伝えしたい事が・・・

 人間の国で色々ありまして。

 それと、やはり洞窟を通過した黒い影がいたようです。」


 私はユークレイスから話を聞いて、愕然としたのだ。

 まさか人間の国でそんな事が起きていたとは、思いもしなかったのだ。

 私は不謹慎かもしれないが、早く舞に会いに行きたかったのだ。

 舞が無事であるのを聞いても、会わないと心配でならなかった。

 それにユークレイスの話では主たる者が人間の国に来ていると言うのだ。

 もしも、その者が森の精霊に遭遇する事があれば何が起こるかわからないと思ったのだ。

 精霊がいるところには舞が必ずいるはず。

 そう思うと居ても立ってもいられなかった。


「では、すぐに私も行くとしよう。」


 私はそう言い、ユークレイスと共に出かける事にしたのだ。

 ネフライトを見ると、諦めたようにため息をついていたのだ。


「舞殿の事になると、何を言っても無理ですね。

 さあ、早く行ってください。

 後は何とかしますので。」


 そう言って、快く送り出してくれたのだ。

 いつも私は幹部達に支えられながら王をやっているんだと実感したのだった。


              ○


              ○


              ○



 舞は次の日、授業は休講となっていたがカクと一緒に温室に行く事にしたのだ。

 昨日起きた騒動で、温室内は荒れ果てていたのだ。

 元気に育っていた薬草達が踏み潰されたり、ちぎれていたりと散々であった。


 カクは荒れ果てた薬草達を見て、とても心を痛めているようだった。

 薬草学の講師をしていることもあり、カクが大事に育ててきた薬草達も数多くあったのだ。

 私はカクと、まだ元気そうな薬草を植え直したり傷んだ部分を取ったりと、丁寧に出来るだけの事をしたのだ。

 しかし、このまま元気に育ってくれるだろうかと心配であった。


「カク、あの薬を使ってみようと思うの。

 お水に溶かして、かけてみるわね。

 以前、精霊の森で使ったものだけど、ある程度のエネルギーが回復したのよ。」


 そう言って私はバケツに水を汲み、その中である薬を破裂させたのだ。

 それは精霊の本体である大木が弱っていた時に使った薬なのだ。


 ジオウ、トウキ、ビャクジュツ、ブクリョウ、ニンジン、ケイヒ、オンジ、シャクヤク、チンピ、オウギ、カンゾウ、ゴミン


 が入っており、もともと疲労回復や全身衰弱、体力低下に用いられるのだ。

 そこに風の鉱石の粉末が入っているのだ。


 私はバケツから少しずつ全ての草木にその液体を振り撒いた。

 振り撒いたところから優しい光を放ち、元気のなかった薬草達が顔を上げ、茎や葉もピンとしはじめたのだ。

 そして、前と同じ状態とは言えないが、私達はそれを見て安心したのだ。


「舞、ありがとう。

 ここは僕が学生時代から面倒を見てきた草木もあってね。

 もうダメかと思ったけど、これなら問題ないね。」


「カク、薬だけじゃ元には戻らないわ。

 魔法とは違って、一時的なものなのよ。

 でも、ちゃんと手入れをする事できっとまた元気になるはず。

 また見に来ようね。」


 私は土で汚れた手の泥を払いながらカクを見ると、カクは全身泥だらけになっていて、とてもおかしかったのだ。

 いい大人がここまで汚れる事はなかなかないと思った。

 それだけ一生懸命だったのだろう。

 しかし、よく見ると私も同じくらい汚れていて、私達は顔を見合わせて笑い合ったのだ。

 

 最近、殺伐とした事ばかりだったけど、何だか草木の手入れをしていたら心が安らいだのだ。

 考えなければいけない事は多かったが、それを忘れる時間が出来て良かったと思った。

 

 

 

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