54話 人間に出来る事
オウギ王とヨクはシウン大将からの連絡で、魔人の王からの伝言を聞く為、ユークレイスを待っていた。
薬師大学校の占拠の件では、オウギ王自らが出向く事で、王や軍の独断ではなく国民の意見を聞くという姿勢を示す形になったのだ。
そして今回占拠した集団の言い分も、直接聞く機会を作る事としたのだ。
結局は周りにいた国民が、占拠した集団を支持するわけでもなく、王政に批判が集まるわけでもなく、騒ぎはあっという間に終息する形になったのだ。
王の執務室の扉がノックされ、シウン大将、ユークレイス、アクア、そして舞も一緒に現れたのだ。
「舞、大丈夫だったかい。
全く、勝手に学校に潜入するとはのう。
まあ、そのお陰で学長は助かったようなものだがな。
あまり心配させないでおくれ。」
ヨクはそう言って舞の肩に手を置いたのだ。
「ごめんなさい。
心配ばかりかけて。
でも、私は大丈夫よ。」
舞は申し訳なさそうにヨクを見たのだ。
そして、ユークレイスは皆が落ち着くと話し始めたのだ。
今回ここに来た理由はある事を伝える為であった。
あの洞窟の入り口にある、光りの鉱石からなる明るい場所でさえ通り越して、この世界に黒い影が移動してきた可能性があると伝えるつもりだった。
だが、それが可能性ではなく、確信に変わった事を伝えたのだ。
ユークレイスは先程の黒い影の考えを読む事ができ、後からこの世界に入り込んで来た者がいる事が確実となったのだ。
それも移動してきた者が、彼等が『主たる者』と崇める強い存在である可能性が高いと言うのだ。
これについては、まだ魔人の王にも伝えてない事であり、この後急ぎ戻って話す予定との事であった。
シウン大将は舞に言われたように、学長に黒い影達との関係や影の意図について、知っている事を話すように尋問する手筈となっている事を話した。
そして、今回の件から強い光が彼等の弱点である事は明らかであるので、出来るだけ夜間も光を絶やさぬようにと舞が付け加えたのだ。
ヨクはその夜、拘束されている学長に会いに行ったのだ。
学長はヨクの顔を見ると、少し間をおいて話し始めたのだ。
「あの娘はすごいな。
こんな私を助けるとは・・・ 」
そう言ってため息をついたのだ。
「舞はそう言う娘なのじゃよ。
目の前でそなたの命のともしびが消えそうなのを見て、見殺しにできる娘では無いのだよ。
感謝するのだな・・・
しかし・・・なぜこんな事を。
そなたが五百年前に戦争を起こした者と関係があるとは、私も知らなかった事だ。」
ヨクはそう言って学長の顔を見たのだ。
学友でもある彼について、初めて聞く事であったのだ。
「ああ、言うような話では無かったしな。
それに、あの黒い影達に出会わなければ、こんな事を考えても、行動に移す事は無かったかもしれない。
年老いた自分でも何かやれる事があるのではとな・・・
大義のためなら、多少の犠牲は仕方ないと思ってしまったのだよ。
結局何も出来なかったのだがな。
・・・教育者が言うことでは無いな。」
その後、学長は自分が知っている黒い影達の情報を伝えたのだが、こちらに来た目的など詳しい事はやはりわからなかったのだ。
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舞はお屋敷に帰ると、すぐにベッドに横になったのだ。
どっと1日の疲れが押し寄せてきた。
それでも、頭では色々な事を考えずにはいられなかった。
私が学長のもとに行った時には、周りに黒い灰が多数見られた。
学長は光の鉱石からなるライトを手に持っていたが、黒い灰に包まれ、本来の明るい光を示す事が出来ていなかったのだ。
それは、あえて黒い影達が消滅して残る灰でライトを曇らせる作戦であったと思われたのだ。
彼等がどんな存在かはわからないが、目的のためには仲間や自分の存在を消滅させるなど、手段を選ばない集団である事がとても恐ろしいと思ったのだ。
そして、『指輪に宿し者』から話に聞いていた『大地と闇から生まれし者』・・・
その主たる者がこの世界に来ていると考えると、この世界をどう守れば良いのかと、不安でならなかった。
人間に出来る事がどれだけあるのだろう。
やはり考えずにはいられなかった。




