46話 それぞれの思惑
舞と精霊が校舎に入る少し前の事である。
ユークレイスとアクアは連れていかれる学生の後をそっと追ったのだ。
兵士達は彼等を上の階へと連れて行ったのだ。
そして四階まで行くと、多くの人が集まっている場所があり、彼等もそこに行くようにと促していた。
その時である。
ふと、奥の方から怪しい気配を二人は感じたのだ。
それは、多くの人達が集まっている部屋とは別の方向からであった。
二人は顔を見合わせて、その嫌な雰囲気を出している部屋の前に一瞬で移動したのだ。
扉の前に行き、ユークレイスは魔力探知を働かせたのだ。
その部屋の中には人間や魔人などの存在を感じる事は出来なった。
だが、怒りや不安などの大きな負のエネルギーの存在を感じる事が出来たのだ。
そして、少し前に感じたあの黒い影の集団と同じ気配がしたのだった。
だが、先日遭遇した黒い影達とは何か違うような気がしたのだ。
中に入ろうとした時、背後から人の気配を感じたので、二人は瞬時に階段の下に移動したのだ。
そこには二人が以前会っている、舞の通っている大学校の学長がいたのだ。
彼も拘束された一人かと思ったが、他の者に指示を出す姿を見ると、何やら違うと感じたのだ。
彼はこの集団を率いる一人だと言う事が、見ていればわかったのだ。
そしてあの怪しい気配のある部屋の扉を開けて、一人で中に入っていったのだ。
それを見た二人はどうしたものかと思ったが、様子を見ることにしたのだ。
学長はその扉を開き中に入ると、部屋の奥にある皮で出来た豪華な椅子に、ゆっくりと腰掛けたのだ。
そして、笑いが込み上げてくるのを抑える事が出来なかったのだ。
「ハハハハ・・・ああ、上手く行ったな。
こんな簡単に行くなら、もっと早く行動に移せば良かった。
まあ、まだ遅くはないがな。
なあ、・・・相棒。」
学長は部屋の片隅に存在する黒い影に向かい、話しかけたのだ。
そう話しかけられた影はザワザワと動きだすと、あっという間に人の形に変わったのだ。
それは学長自身の姿に変わったのだ。
『そうだな、相棒。
我らの希望はお前の希望でもあるだろう。』
そう思念を学長に伝えたのは、明らかに魔人の国に存在した黒い影達であった。
だが、彼等は今までの黒い影達と違い、人間の世界に来てから進化を遂げたような存在だった。
この人間の世界に溢れる恐怖、怒り、不安などの負のエネルギーはその黒い集団を変化させて行ったのだ。
そして、この学長に遭遇しエネルギーを少し吸い取った時に、黒い影達はこの者の考えを知る事となったのだ。
魔人排除の考えは、この黒い影達にとっては好都合であった。
これから黒い影達の主たる者を迎える前に、先に来ていた同胞達はある程度の成果を上げたかったのだ。
「さて、最後の仕上げに行くか。
上手く世論を味方につけられれば、お前達は多くの負のエネルギーを得ることになるだろう。
魔人達がいる事での恐怖や不安を煽る事で、人間の心のうちはどうにでも変わっていくのだ。
そうなれば、お前達にとっては餌と言うべき負のエネルギーが増え、我らにとっては上手くこの世界を動かす駒が出来ることになるな。」
学長にとって五百年前の事など、本当はそれほど重要では無かったのだ。
それはきっかけの一つでしかない。
魔人を排除して先祖の恨みをはらすと同時に、この世界を上手く動かす事が彼の本当の目的であった。
そんな時、この黒い影の集団と遭遇したのだ。
黒い影の集団は学長を操るわけでもなく、エネルギーを吸い取り消滅させるわけでもなく、頭に思念を送って来たのだ。
・・・そして両者は手を組んだのだ。
学長にとっては、この邪悪の象徴とも言える黒い影達を、上手く利用出来ればそれだけで良かったのだ。
『そうだな。
我々はエネルギーが得られれば問題はない。
その為に力を貸そうではないか。』
そう思念を伝えた黒い影の者達は、主たる者を迎える準備をする事は伝えなかったのだ。
彼等の真の目的は、人間の世界に主たる者を呼び寄せ、同胞達と共に明るい場所での繁栄であるのだ。
その為に人間が必要であり、利用するだけであった。
そして学長は部屋の扉を開けて、人々の集まっている場所に向かったのだ。




