43話 追跡
魔人の国では結界も上手く張ることができ、一安心であった。
だが、ブラックの元にある事が報告されたのだ。
執務室の扉をノックしてユークレイスが部屋に入って来た。
「ブラック様、お耳に入れたい事があります。
少しよろしいでしょうか?」
ユークレイスはいつもに増して真剣な表情で話し始めたのだ。
その時執務室では、アクアがお菓子を食べながらくつろいでいたのだ。
他の幹部と違い、彼自身の仕事は今の所なかったので、暇があると私の所に来てくつろいでいたのだ。
昔のように暴れ回るよりは良いと思っていたが、アクアも青年の姿になった事だし、しっかりとした役割を持たせなければと思っていたのだ。
「どうしました?
何か問題でも?」
「ええ。
実は人間の世界と繋がる洞窟の事ですが。
・・・今、洞窟の先は人間の王が策を講じて、夜中でも日中のように明るく保たれているかと思います。」
「ああ、聞いてますよ。
あの黒い影の集団の対策として強い光が効果的と聞いてましたからね。」
「その通りです。
実は、その集団が洞窟の内部を通った形跡がありました。
もちろん、人間の世界に入れたかは分かりません。
黒い灰のようなものを出口で多数発見できたのです。
もちろん、そこで消滅したと言う証拠なのですが・・・」
「もしかしたら通過したものがいるかもしれないのですね・・・」
ユークレイスは黙って頷いたのだ。
確かに我々が今まで遭遇した黒い影の集団であれば、通過する事は難しいだろう。
しかし、舞が聞いた者・・・
はるか昔から存在する『大地と闇から生まれし者』であるならどうだろう。
もしその者から何らかの指示を受ける事で、上手くすり抜けたものがいないとは限らない。
もしくは、その者自身が通過した可能性も・・・
「アクア、ユークレイスと人間の城に行き、王に伝えてきてほしい。」
「えーユークレイスとまた一緒?」
そう文句を言うとユークレイスの青い目が光ったのだ。
「ああ、わかりました。
行きます、行きます、
王の御命令とあれば・・・」
そう言ってわざとらしく頭を下げたのだ。
ユークレイスはため息をつくと、アクアを引っ張って部屋を出たのだ。
さて、そろそろ私は指輪に宿りし者に直接聞いておこうと思ったのだ。
舞の指輪に宿りし者と同じように話してくれるかはわからないが、私も話を直接聞きたかったのだ。
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ユークレイスとアクアは洞窟を抜けて人間の世界に渡った。
こちらの世界も今は夕方で暗くなっているはずだったが、光の鉱石のおかげで日中、それ以上の光でそこはとても眩しかった。
「眩しくてチカチカするね。
人間も考えたもんだね。」
アクアは眩しそうに目を細めて話すと、ユークレイスは真面目な顔で話したのだ。
「もしも、こっちの世界に渡った何者かがいるとしたら、それは我々いや、ブラック様より強い存在かもしれないのだよ。
そう考えると、とても恐ろしいぞ。
アクアも気を引き締めるんだ。」
ユークレイスにそう言われると、アクアもいつもと違い慎重に考えることにしたのだ。
そして二人は一気にサイレイ国の城の前に移動したのだ。
するとアクアが不思議な顔をしたのだ。
「何だろう・・・城と学校の間のところに人が集まっている。
こんな時間に、お祭りか何かかな?」
ドラゴンの民であるアクアの目はかなり遠くまで見通せ、暗闇でも日中と変わらず辺りを確認する事が出来るのだ。
「祭りの雰囲気では無いだろう。
それにしては静かすぎる。
アクア、どのくらい集まってる。」
アクアは目を凝らして見た。
「ざっと百人くらいかな・・・
静かに息を潜めている。
そしてみんな学校に視線を向けているな。」
二人は何だか嫌な雰囲気を感じたので、王に会いに行く前に学校に寄ってみることにしたのだ。
少し前に学校には行った事があるので、二人は空間把握は出来ており、人気のない学校の裏口の方に一瞬で移動したのだ。
そっと学校内に入り込むと、人の声が聞こえたのだ。
「さあ、こちらに移動しなさい・・・」
それは人間の国の兵士が、学生達を移動するように促していたのだ。
その雰囲気は、到底和やかなものとはかけ離れていた。
ユークレイスとアクアは顔を見合わせ、そっと後を追ったのだった。




