42話 精霊の弓矢
舞は静かに目標に向けて、狙いを定めたのだ。
私は階段の上にいる見張りの男の足元に矢を放ったのだ。
もちろん、その人物を傷つけるためではない。
私が使いやすいように、精霊に弓矢を改良してもらったのだ。
私は鞄からある薬を取り出し矢にセットし、狙いを定め右手を離したのだ。
その矢は目的の所に上手く到達し、その階段の上にいる者は一瞬明るい光に包まれたのだ。
その男は何が起きたか分からず驚いていたが、すぐに周りにいる者も含め数人がその場でゆっくりと倒れたのだ。
私は不眠に効く漢方に光と風の鉱石を混ぜた薬を放ったのだ。
そのためその辺り一帯にいた人達は、みんな眠りについてしまったのだ。
多分魔人達と違い、数時間は起きる事はないだろう。
光が収まるのを見て、私達は階段を駆け上がった。
辺りを見回すと倒れている数人しかいなかった。
やはり仮面の老人は、すでに城の方に向かったらしい。
私は眠っている人たちが大きな怪我などしていない事を確認すると、街の中心部に向かったのだ。
あの仮面の老人が何をしようとしているかが分からなかったが、もし五百年前の事をある程度把握しているなら、カクやヨク、王様などに危険が及ぶのではないかと心配であったのだ。
王室の薬師の人達は話し合いをしていたと聞いていたので、城にまだ残っていたはず・・・
しかし、実際は私の予想とは違う事が行われていたのだ。
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城と薬師大学校の間の公園には、暗闇の中何十人もの人達が集まって息を潜めていた。
首謀者の指示のもと、彼らは城ではなく学校に静かに向かったのだ。
黒い影の襲来から学校に配置されていた軍関係者は、首謀者達の息のかかった者に替えられており、彼らは問題なく入る事が出来たのだ。
学校に残っていた学生や教職員は、すでに一箇所に集められていた。
そしてその場に、先ほどまであの仮面をかぶっていた老人が入ると誰もが注目したのだ。
そこには見慣れた顔があったのだ。
「学長・・・これはどういう事ですか?」
そう言いながら、教職員達はその老人に駆け寄ったのだ。
その人物はこの薬師大学校の学長であったのだ。
「ああ、皆さん驚かせて申し訳ない。
ですが、安心しなさい。
我々はこれから人間だけの安心した世界を取り戻す為に、立ち上がるのだよ。
その為にも君たちも我々の力になってほしい。
まあ、先ずは私の話を聞いてほしい・・・」
そう言う学長の背後には武器を持った兵士が何人も控えていたのだ。
それを見た教職員や学生達は黙って話を聞くしか無かったのだ。
この学校自体が、今やこの集団の手に落ちたも同じだった。
いつも開いていた正門の扉が完全に閉じられていたのだ。
現役の兵士もこの集団の中に数多くいたので、他の者がこの学校内に簡単に立ち入る事は出来なくなったのだ。
もちろん、中にいる者も簡単には外に出れない状況であったのだ。
そしてオウギ王が、この薬師大学校が占拠された状況になっている事を知るのも時間の問題であった。
意図せず、学校に配置されていた兵士達の交代があった事に、彼らは疑問に思いながら城に戻ったのだ。
そして念のため上役に確認に行くと、そんな指示は出ていないと誰もが驚いたのだ。
何故なら交代だと言ってきた兵士は、もちろん顔馴染みであり部外者でもない為、誰もが疑う事は無かったのだ。
そして学校で何かが起きている事を、シウン大将からオウギ王へと報告されたのであった。




