41話 脱出
仮面の男が部屋を出て行くと、リョウはやっと舞に目線を向けたのだ。
「舞さん、すみません。
信じてもらえないかも知れないですが、私はあなたを利用する事には反対なのです。
ただ正直、この世界から魔人がいなくなる方が良いとは思っています。
私は今まで、人間しかいない世界で生きて来たので、変化が怖いのかも知れません。
ですが、舞さんを閉じ込めてあの薬を作らせようとする事には反対です。
しかし、私が連れてこなければ、他の者に襲撃させてまで連れてくるつもりだったようで、かえってその方が危険と感じたのです。
・・・一つだけお願いがあります。
五百年前の本当の事を知っていたら教えて欲しいのです。
さっきの方の話が本当なのかを知りたいのです。
あの人は人間が正義であると話しますが、本当に悪いのは魔人だけなのでしょうか?
それを知りたいのです。
舞さんを利用しようと考える彼らが、今は信じられないのです。」
そんな風に一気に言われ、私はリョウを責める事はできなかった。
私はブラックから聞いた事を話したのだ。
もちろん私が別の世界から転移して来た事は伏せたままであるが。
「あの人はただ魔人がいなくなればいいと思ってるだけかしら?
それとも、魔人討伐が目的?
五百年前はクーデターを起こしたのよ。
そして、王家の人たちや私と同じ風貌のハナさんも城に閉じ込められたのよ。
そして、ハナさんの大事な人達に危害を加えられたくなければ、薬を作れと脅されたらしいの。
そんな事を繰り返したいのかしら。」
私はさっきまで冷静を保っていたが、話しているうちに感情が抑えられなくなっていた。
すると、それに反応する様に胸元が優しく光ったのだ。
私は首にぶら下げている小袋から光る種を取り出すと、小さな精霊が現れたのだ。
「舞、どうしました?
ここは・・・」
そう言って私を見た後に、周りを見回しリョウを見ると精霊の顔つきが変わったのだ。
そして小さな精霊の姿から、私よりも大きな青年の姿に変わったのだ。
それを見たリョウはとても驚いて後退りし、床に座り込んだのだ。
「舞に何をしたのですか?
舞を傷つける事は絶対に許さない。」
精霊がリョウに向かい歩き出したので、私は精霊の腕を掴んで止めたのだ。
「待って、大丈夫だから。
私に任せて。」
私はそう言って、精霊に小さな姿になる様に伝えたのだ。
精霊は渋々小さくなると、いつもの様に私の胸ポケットに収まったのだ。
「舞さんは色々な友人がいるのですね。
すごいや・・・
それにしても、舞さんの話が事実ならば、魔人達は戦いに敗れて異世界に行ったわけでは無いのですね。
何だか切ないですね・・・」
リョウが言うように、ハナさんとブラックの取った選択はある意味とても悲しい結果であった。
でも、私は欲張りなのかも知れない。
誰かが悲しむ結果にはしたく無いのだ。
「舞さん、私はここを出てあの人達を止めに行きます。
軍にも報告します。
今日、彼らは何か行動を開始すると言ってました。
私は詳しくは聞かされてないのですが、城の近くに行っていると思います。
私が隙を作るので、舞さんは逃げて下さい。」
そう言って扉を開けようとしたが、鍵がかかっていたのだ。
リョウは外に見張りがいる事がわかっている様で、扉を叩いたのだ。
「話は終わったから開けてくれ。」
しかし、見張りの返答は無かったのだ。
何回か扉を叩きながら叫んだのだが、開けてくれる事は無かったのだ。
「私と同じで、あっちも信用してなかったわけですね。」
そう言ってリョウは肩を落としたのだ。
私は扉を見ると上下に少しだけ隙間がある事がわかった。
それならと思い、精霊にお願いしたのだ。
精霊は嬉しそうに承諾したのだ。
私は小袋に入っている種を一粒手のひらに乗せたのだ。
精霊が力を込めると、その種から細い蔓がヒュルヒュルと出て来たのだ。
そして細い蔓はドアの隙間からそっと部屋の外に出ていったのだ。
それは精霊の目や手足となるのだ。
するとその蔓は、あっという間に見張りから鍵を盗み出し、そっと鍵を回したのだ。
私達は扉を少し開けて辺りを見ると、精霊に言われた通り見張りは階段を上がったところに立っていたのだ。
私は首からぶら下げていたある物を手に取り願ったのだ。
すると、それは優しく光りながら大きくなり、精霊にもらった弓矢が現れたのだ。
これを使う時が来たみたい・・・




