39話 舞のイラつき
部屋の扉がゆっくりと開いた。
私は壁にもたれかかって、その扉からいったいどんな人物が現れるか注目したのだ。
すると、二人の人物が部屋に入って来たのだ。
一人はさっきまで一緒にいたリョウであり、もう一人は仮面を被った人物であった。
だが、身体の動きや姿勢を見ると、どうも高齢の男性である事は明らかであった。
私は無表情なリョウに目線を合わせると、彼は目をそらしたのだった。
そんなリョウとは違い、仮面をつけた者は朗らかに話し出したのだ。
「お嬢さん、こんな所に閉じ込めて申し訳ないね。
しかし、あなたを傷つける事はしませんから、安心してください。
あなたにお願いがあってお呼びしたのですよ。」
「お願い?
お願いがあるなら、仮面を外して言ったらどうですか?
それに、わざわざこんな所に閉じ込める必要も無いですよね。」
私はその仮面の老人を睨みながら言ったのだ。
「ははは、その通りですな。
では、言い方を変えましょう。
我々は魔人をこの世界から排除すべきと考えております。
お嬢さんは魔人と交流がありますよね。
それも、魔人の王や幹部達と・・・。」
やはり私の情報はある程度把握しているようだ。
その仮面の老人は続けたのだ。
それも、今度は冷たく低い声で・・・
「彼らにこの世界から出て行ってもらい、洞窟を消滅させたいのですよ。」
そう言って私の近くまで歩いて来たのだ。
リョウは黙って、そんな私達を見ているだけであった。
「私はね、お嬢さん。
この五百年、魔人のいない世界はとても素晴らしかったと思うのです。
あの戦いの勝利の後、魔人達が消える事で素晴らしい世界になったのですよ。
私の先祖には、先頭に立って魔人と戦った勇敢な人達がいるのです。
ですが、残念な事に魔人により傷つけられたり、命を亡くした者もいたのですよ。
今回はそうなってほしくないのですよ。
だから、お嬢さんの力を借りたいとね。」
予想通りの発言で、私はイライラしたのだ。
この人物は五百年前を本当に知っている者では無いのだ。
それを知っているのは今や魔人達だけ。
どんな争いがあったにせよ、ハナさんを脅して闇の薬を作らせた事の言い訳にはならないと思ったのだ。
その事で、未だに苦しんでいる人がいたのを私は知っているのだ。
核となり人間の中で生き続けた魔人達の怒り、その戦いでこの世界を離れなくてはいけなくなった魔人達の悲しみ・・・
「私は先祖から色々と言い伝えられている事があるのです。
魔人が去った後、何故だかわかりませんが、この国ではその戦争を書物として残す事を禁じられていました。
だから、代々言い伝えられていた事があるのです。
『災いをもたらす黒髪の娘』・・・災いがもたらされるのは魔人達の方なのだよ。
黒髪の娘が現れた時、魔人に災いがもたらされると。
我々にとっては救世主の様な方なのですよ、あなたは。
魔獣を捕らえた薬の話を聞いた時、それこそが五百年前に人間を勝利に導いたものだと私は確信したのだ。
いざとなったらそれさえあれば、魔人達に屈する事は無いのだとね。」
仮面の下の顔はわからないが、興奮して話し出したのだ。
くだらない・・・何が救世主よ。
私はこの人の話を聞いていると吐き気がしてきたのだ。
「あなたは本当の事を何も知らない。
本当の事を知っているのは五百年前も生きていた魔人達だけよ。
それに私はそんな薬はもう作らないと決めたのよ。
勝手な解釈で私を巻き込むのはやめてほしいわ。
・・・ねえ、リョウ、あなたもこの人と同じ意見なの?」
リョウは黙っていたがさっきの無表情から少し変わったのだ。
「・・・まあ、考えを変えるまでここにいてもらう事にしましょう。
それに、魔人達がいなくならないのなら、無理にでもその薬を作ってもらうしか無いですがね。」
そう言って仮面の老人は笑いながら部屋を出たのだ。
リョウも彼に続いて外に出るかと思った。
「私が彼女に話してみます。」
仮面の老人にそう言って、リョウは部屋に残ったのだ。




