35話 癒し
精霊はしばらくすると、舞の膝の上で目を覚ましたのだ。
舞は二階の自分の部屋に行き、ベッドに腰掛けて精霊の様子を伺っていたのだ。
私が目を覚ますと、舞の心配そうな顔を見る事が出来た。
起き上がり周りを見回すと、いつの間に舞の部屋に移動していたらしい。
私は眠っていたようだが、はっきりとした記憶が無かった。
「舞、私は一体どうしたのでしょうか?
上手く思い出せないのですが・・・」
あの不審者達が火を放った事を知って、私は怒りを抑えられなかった事を思い出したのだ。
だが、その後の事はやはり思い出せなかったのだ。
「舞、あの者達は?
火は問題なかったのですか?」
舞は私を見て優しく微笑んだのだ。
「もう、大丈夫よ。
精霊が出してくれた蔓が少し燃えてしまったけど、お屋敷はほとんど問題なかったわ。
不審な人たちも何処かに行ってしまったから大丈夫よ。
・・・何も覚えてないのね。」
舞はそう言って私を見つめたのだ。
何故、私は何も思い出せないのか?
何故、私は眠っていたのか?
そして、いつの間にかお屋敷を張り巡らせた蔓が全て無くなっている事にも気付いたのだ。
「舞、何があったか教えてください。
私に・・・何があったのですか?」
私は舞の膝の上に立って、顔を見上げたのだ。
舞は少し考えた後、話してくれたのだ。
私は舞の話を聞いて、愕然としたのだ。
確かに私や大事な舞を傷つけようとする者達は許せないのだが、相手が弱い人間なのはわかっていたはず。
だから、脅かす事はあっても、命を奪い取るまでは考えてはいなかったはずなのだ。
それなのに、私は怒りに任せて何て事をしたのだろう。
舞が止めてくれなかったら、私は非情な殺戮者では無いか。
「ねえ、私にも昔、同じような時期があったわ。
怒りに任せてやってしまった事、言ってしまった事・・・
そしてその後、とても後悔して自分を責めた事もたくさんあったわ。
今回の精霊はそんな時の私と同じ気がするの。
でも、大丈夫よ。
私があなたを止めてあげれるわ。
だから、心配しないで。
今、あなたはいろいろな事を吸収して、成長している途中なのよ。
だって、少し前まで私より小さな少年だったじゃ無い?
いつか落ち着く時が来るから、大丈夫よ。」
舞は私を手のひらに乗せて、私の目を見て優しく話してくれたのだ。
私はいつも、舞を守りたい、舞の助けになりたいと思っていた。
それは以前と変わらず同じなのだ。
だが今日の舞を見て、いつでも私を見守ってほしいとも思ったのだ。
それにしても、怒りで我を忘れていた自分が恐ろしかった。
以前、自然からなる存在は何かに肩入れしてはいけないと言われたが、これがそう言う事なのだろうか?
自分の力が以前に比べ強くなっている事は分かっていた。
それに伴う責任がある事も分かってはいるのだ。
だが、今回のように我を忘れてしまう事があるとは・・・
その時の記憶もない事がとても心配だったのだ。
私は舞にいつでも側にいてほしいと、強く思った。
そうでなければ、私の意図せずまた誰かを傷つけてしまうのではと、怖かったのだ。
「舞、今日は朝まで一緒にいてもいいですか?」
「ええ、もちろん。
この前は私の為に側にいてくれたでしょう?
今日は私があなたの為に居たいわ。」
私は舞と一緒にベッドに横になって、色々な事を遅くまで話したのだ。
そしていつの間にか私達は寝てしまったようで、私が目覚めた時は、まだ横では舞がスヤスヤ眠っていたのだ。
私は小さな姿のままではあったが、一緒に過ごせてとても幸せだったのだ。




