29話 精霊のプレゼント
舞と精霊がお屋敷に着くと、すでにシウン大将から風の盾が届けられていた。
「すごい、もう届いてるわ。」
私は、相変わらずシウン大将は仕事も早く、とても信頼できる人だと思ったのだ。
「じゃあ、私の蔓でお屋敷を囲みますね。
舞、種を一粒ください。」
私は胸元の小袋の中の種を、精霊に一粒渡したのだ。
種を受け取った精霊は目をつぶって、何か考えているようだった。
少しすると、精霊の手の中の種からウネウネと大小入り混じった蔓がどんどん出て来たのだ。
それは絡み合いながらお屋敷の壁面に伸びて行き、あっという間に全体を包み込んだのだ。
そしてシウン大将から借りた風の盾を精霊の指示のもと蔓達が運び出し、お屋敷の入り口や窓の近くに蔓と一体化されたのだ。
それが行われたのは数分の事で、精霊の凄さをまた実感したのだ。
もともと風の盾は、勢いよく向かってくるものなどを風を吹き起こし跳ね返す力があるのだ。
効果を上手く調整する事も出来ると、シウン大将から聞いていたのだ。
もしも、精霊の蔓により不審者を見つけた時は、その盾の効果を最大に設定する事で撃退する事が出来るのだ。
「ありがとう、すごいわ。
これで安心できる。」
私だけでなくカクやヨクも一緒に住んでいるわけで、彼らを危険にさらすわけにはいかないのだ。
そして私と精霊はお屋敷の中に入ると、精霊が私にプレゼントがあると言ってくれたのだ。
「実は舞が弓矢の練習をしている事を知ったので、ある物を作ったのです。」
精霊はそう言って、左手を見せてくれた。
私は何もなかった手のひらを見ていると、そこに小さな弓矢が浮かび上がってきたのだ。
そしてあっという間に大きくなり、それは精霊と同じように優しく輝いていたのだ。
私はそれを手に持ってみると、城にあったものよりも軽くとても使いやすそうだったのだ。
「私からのプレゼントです。
普通の弓矢とは違い、そんな簡単には壊れませんよ。
それに普段は小さな状態ですが、願えば元の大きさになるので、持ち運ぶのもにもいいですよ。」
「とっても素敵だわ。
もし出来たら一つお願いがあるの・・・」
私はある加工ができないか聞いてみたのだ。
「もちろん出来ますよ。
舞の使いたいようにしましょう。
でも、私がいるのですから、無理はしないでくださいね。
・・・私に舞を守らせてください。」
精霊に弓矢を渡すと、あっという間に私の希望するものに変えてくれたのだ。
私は意外な精霊のプレゼントと、精霊の言葉がとても嬉しかったのだ。
攻撃のためではなく、弓矢を誰かを守るために使いたかったのだ。
○
○
○
魔人の国では黒い影の集団に対する対策を考えていた。
魔人は自分自身で結界を作る事は出来るが、弱っている状況やもともと魔力が弱い魔人では太刀打ちできないかも知れないのだ。
だから、人間だけの問題では無かったのだ。
「ブラック様、どうでしょうか?」
ブラックにある物を見てもらうために魔人の国の職人達が集まっていた。
そこには巨大な水晶を思わせる、青く光る綺麗な石が五つ置かれていたのだ。
それを見てブラックは満足げだった。
「良い出来ですね。」
実はブラックが魔力を込めた石を六つ用意したのだ。
その石を上手く加工して、街を囲むように五ヶ所に配置し、一つは城に置く予定なのだ。
そしてブラックの力で、それらを上手く繋ぎ街全体を結界で囲む事にするのだ。
もしすでに黒い影の集団が入り込んでいるのであれば、それには効果が無いのであるが、少なくとも新たな集団が入るのを阻止できるはずなのだ。
一時的な結界であれば、魔力を込めた石を使わなくても作る事は出来るのだが、ブラック自体の魔力の消耗につながるので持続する事は出来なかった。
だから、舞に渡したペンダントをヒントに作る事にしたのだ。
そしてこの街からの出入りは数カ所のみに限定し、検問を強化する事にしたのだ。
ネフライトはブラックの了解を得たので、職人達に設置の指示をし、早急に取り掛かるように話した。
そして後日、設置した魔力の石を使い、最後の仕上げを行う事としたのだ。
ブラックは一つだけ心配な事があった。
・・・あの黒い集団であれば、この結界で十分なのだ。
しかし、舞の話に出た『大地と闇から生まれし者』がいるなら、こんな私の結界では何も守る事ができないのかも知れない。
それでも、私の今できる事を最大限やらなければいけないと思ったのだ。
私は魔人の王なのだ。
国の者たちを守る責任があるのだ。




