27話 大地と闇から生まれし者
かつてこの世界が三つに分かれた時、『大地と闇から生まれし者』達は広大な大地以外何も無い場所に存在していた。
それも、強い光のもとでは存在出来ない彼らは、普段は闇に紛れるか、大地の中に身を隠すことしか出来なかったのだ。
そして何も無い場所ではエネルギーを得ることも出来ないため、静かに冬眠をしているような状態であった。
だが時間の流れと共に、何も無かった場所に『光』と『大地』の意図せず、緑の芽が顔を出したのだ。
そして、他の二つの世界と同じように、緑溢れる場所が出来始めたのだ。
それまで眠っていた『大地と闇から生まれし者』達が、地上での変化に気付いたのだ。
そして・・・彼らは動き出したのだった。
彼らは自分達の存在を維持するために、本能のままエネルギーを貪り始めた。
初めは必要なエネルギーが得られると、それ以上侵食することもなく、緑の生命にとっては数百年おきに起こる襲撃であったのだ。
ところが、長い年月を重ねることで、エネルギーを維持するだけでなく、自らの繁栄を目指す意志が存在し始めたのだ。
その中心にいる者は、世界が三つに分かれる前から存在しており、いち早く自我を修得し周りの者達に自分の考えを共有させたのだ。
その為、遅れて自我を修得した者達も、中心となる者の意志の元に手足の如く動くのであった。
彼ら・・・つまり黒い影の集団は、翼国人や魔人に遭遇する事でその姿などを記憶し、全ての記憶は中心となる者に集められていたのだ。
そして中心となる者は、多くの情報を修得し知恵を持ち、徐々に大きな力を備えていったのだ。
他に存在する『自然から生まれし者』達と同じように、自分の空間を闇の中に作る事が出来るようになった。
その空間は今まで他の干渉を受ける事なく、大きな空間を作り出していたのだ。
だが彼らは気付いたのだ。
魔獣などに侵食している状況では、弱い光なら闇の世界でなくても存在できると言う事を。
それも人間という侵食しやすい生き物が存在する事を知り、もう闇に隠れる必要がないと思ったのだ。
そうであるならば、その人間を侵食する事で暗闇ではなく明るい光のもとで、自分達の繁栄が目指せるはず。
それが彼らの意志であったのだ。
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「ほう、また面白い情報が入ったようだな・・・」
黒い光の届かない空間で一人つぶやくものがいたのだ。
黒い影の主たる者・・・
情報をもたらした黒い影達は、主たる者に吸い込まれるように入っていき、情報を提供し共有すると静かにその場を去っていったのだ。
主たる者の姿も本来黒い霧状の姿であるのだが、全ての情報は主たる者に集約されている為、それを基に何にでも変わる事が出来たのだ。
つまり魔人や魔獣などにも姿を変えることは簡単であったのだ。
そして今回もたらされた情報により、その主たる者は人間の姿に変わる事が出来たのだ。
「他の世界には何と侵食しやすい種族がいるものだ。
我が同胞達も簡単に入り込む事が出来るではないか。
遥か昔からの私の願望を叶える時が、ついに来たようだ。
さて、次はどうしたものか・・・」
人間と変わらない姿になった黒い影の主たる者は、久しぶりに、自分の作った空間から出てみようと思ったのだ。
もう何百年もこの空間から出ることは無かったのだ。
わざわざここから出なくても、同胞達がエネルギーや情報を運んでくれていたからだ。
だが、今回もたらされた情報を得ると、人間という種族に興味を持ったのだ。
黒い影の主たる者は、自分の思いのままに動く人間を見てみたかったのだ。
そして遥か昔からの願いである、暗闇ではない場所での繁栄を同胞達と共に目指したかったのだ。
だが、そんな願望に水を差す者がいるのも知っていたのだ。
同胞を消滅に導く強い力を持つ魔人達がいる事。
そして、侵食しやすい人間の種族にも、見過ごせない者がいる事も知っていたのだ。




