26話 舞の特技
その光の集合体から現れた精霊は、私を見て微笑んだのだ。
私やブラックはその姿を見慣れているが、オウギ王とヨクは息を飲んで見ていたのだ。
無理もない・・・話には聞いていただろうが、今まで見たことも無い優しい光を放った青年が現れたのだから。
確かに精霊がついていてくれるのなら、とても安心だと私は思った。
彼がいれば、他に護衛の方を探す必要はないのである。
いざという時だけ来てもらえらば、精霊にも迷惑はあまりかけなくて済むと思ったのだ。
「そうしてもらおうかな・・・私が来てほしい時だけで大丈夫だし。」
私がそう言うとブラックは面白く無い顔をしたが、精霊はブラックを見てニヤリとしたのだ。
「舞の事は私が全力で守りますので、皆さん安心してください。」
それを聞いたブラックは何やら精霊に対抗するように話したのだ。
「舞には私が渡したペンダントや指輪の加護もあるので、精霊の出番は無いかもしれませんがね。」
二人がなんだかあやしい雰囲気になったので、私は早口で話したのだ。
「・・・まあそう言う事で、私は大丈夫かと・・・
この後、シウン大将に挨拶してから帰ります。」
そして洞窟については、黒い影の対応策が決まるまでは一般人の行き来は中止せざるを得ないと、両国の王は同意したのだ。
せっかく人間と魔人の交流がこれからという時に、制限されるのが残念でならなかった。
だからこそ、早くその黒い影の集団をどうにかしなければと思ったのだ。
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私とブラックはオウギ王に挨拶すると、シウン大将の元に向かった。
精霊は何やら準備をするとの事で、自分の森へと戻ったのだ。
私はそんな準備する事があるのだろうかと、不思議に思った。
どうも、私が精霊に護衛をお願いした事がよほど嬉しかったらしい。
ブラックは逆に不満そうな顔をしていたのだ。
だが、私は普段と違い子供っぽいブラックを見るのも、何だか嬉しかったのだ。
ブラックの今まで見ていない、色々な顔を見たかったのだ。
私がニヤニヤしていると、ブラックは心の内が読まれていることに気付いたのか、今度は決まりの悪そうな顔をしたのだ。
私達は城の中庭を抜けて軍部の人達が訓練している場所に着くと、すぐにシウン大将がいるところがわかった。
大きな声で訓練の指揮をとっており、かなり目立つ存在なのだ。
邪魔をしてはまずいかと思ったが、シウン大将の方からすぐに私達に気付いて来てくれたのだ。
他の兵士達と違い、私達の気配をすぐに察知したようで、相変わらず人間離れしていると思った。
「これは、舞殿。
隣は・・・やはりブラック様でしたか。」
そう言って敬礼し頭を下げたのだ。
「実はお願いしたい事があるのです。」
今回、私は自分の身を守るすべを身につけたい事を話したのだ。
私に出来る護身術や武器の使い方を教わりたかったのだ。
「なるほど、王の了解を得ている事であれば、お力はお貸ししますが。
ただ、武器に関してはかえって危険となるのでは・・・」
確かにシウン大将の言う事は正しいのだ。
中途半端な知識で武器を扱う事は、自分や周りにも危険と言えるのだ。
剣や槍のような物は光っている刃を見るだけで、私自身も怖いのだ。
だが、私にはひとつだけ、扱えるのではないかと思う武器があった。
「ええ、わかってます。
実は一つだけ使いたいものがあるのです。」
私は少し遠くに綺麗に並んである弓矢を見て指さしたのだ。
「確かに剣よりに危なくないかもしれませんが、扱いが・・・」
「そうですね。
でも、少しだけ使い方を教えてください。」
シウン大将は私に弓矢を手渡すと、軽く使い方を教えてくれたのだ。
これなら出来る・・・
そして私はすぐに20メートルほど先の目標に向けて、矢を放ったのだ。
矢は的の中心から少し離れたところに勢いよく刺さったのだ。
それを見たブラックもシウン大将も目を見開いて驚いていたのだ。
「舞殿・・・もしや以前経験があるのでは?」
シウン大将は鋭い目で私を見たのだ。
確かに軽く教わったくらいで、すぐに20メートル先の的を射抜くなど素人には出来ないはずなのだ。
「実は私の世界でも、似たようなものが競技であるのです。
それを学生の頃やってまして・・・」
私は高校時代、アーチェリー部に所属していたのだ。
大学生になっても、たまに弓道場に通っており続けていたのだ。
もちろん、働き始めてからはほとんどやっていなかったのだが、今回久しぶりに矢を放った時の爽快感・・・
・・・思い出したのだ。
ただ、私は誰かを傷つけるためには使いたくなかった。
そんな度胸もないのだ。
そうではなく、薬を上手く必要なところに到達できるためにこの弓矢が使えればと思ったのだ。
ここには魔法道具である弓矢もあるのだ。
目標物をロックオンして、矢を放った後は追跡して必ず当てる事が出来る矢もあるはず。
以前、魔獣がこの世界で現れた時に使っていたのを見ているのだ。
実はふと思ったのだ。
あの時・・・黒翼国の王子であるクロルが黒い影に侵食された時、私がこれを使えていればあんな悲しい事にはならなかったのでは・・・
だから、自分や誰かを守るために使いたいと思ったのだ。
私はシウン大将やブラックに自分のそんな思いを告げたのだ。
「舞にそんな特技があるとは・・・
あなたにはいつも驚かされますね。」
そう言ってブラックは私を見て微笑んだのだ。
「わかりました。
舞殿は学校が終わり次第、私の元に来てください。
毎日、私が指導いたしますから。」
シウン大将は快く承諾してくれたのだ。
ただ、私は毎日ではなくていいと思ったのだが、頼んだ手前そうは言えなかった。




