25話 五百年前
舞はブラックの顔を見ながら、以前聞いた話を思い出していた。
かつて五百年前までは人間と魔人は同じ世界に共存していたのだ。
ブラックは五百年以上前から魔人の国の王であった。
人間の国のサイレイ国ではオウギ王の先祖にあたる者が王を務めていたのだ。
しかし上手くいっていた関係に、綻びが出てきたのだ。
人間の国で魔人を脅威と考え、排除すべきという集団が現れたのだ。
魔人討伐を掲げる者たちが現れてからというもの、争い事が絶えなくなったのだ。
もちろん人間の王も愚かではなかったので、全面戦争を避けたく、なんとか穏便に済ます事が出来ないかと考えていたのだ。
しかし、その考えに納得のいかない集団によるクーデターが起こり、王家は一時軟禁状態となったのだ。
そして首謀者は魔人との交流を禁止し魔人を敵とみなし、排除すべき存在とする事を国の方針として掲げたのだ。
実はその時、私と同じ世界から現れたハナさんと言う女性がいたのだ。
彼女も、同じように城から一歩も出ることの出来ない状態になったのだ。
魔人討伐の集団はハナさんに少し前から目をつけていたのだ。
ハナさんが別の世界から来た者であることを知っていたのは、王家とハナさんがこの世界に来た時からお世話になっていたケイシ家のみであった。
さらに、ハナさんが不思議な薬を作る事ができることを知っていたのは、本当にごく一部の者だけであったはず・・・
当時、この世界ではいくつかの鉱石が発掘され、人間にとっては色々な技術を飛躍的に発展させる物となったのだ。
ハナさんにおいては、それを使って不思議な薬を作り出していた。
もちろんその薬は、病気や怪我などを改善するためのものであり、まだ公にされている物ではなかったのだ。
その頃、ハナさんは魔人の城にもよく出入りしていた。
ブラックを始め、他の魔人達とも良い関係を築いていたのだ。
ところが、闇の鉱石が発掘されてから状況がおかしくなったのだ。
ハナさんは他の鉱石と同じように、闇の鉱石の粉末を調合に使ったのだ。
しかしその薬が本来ある効果の逆の作用に転じる事がわかったのだ。
それも闇の鉱石の割合が多ければ多いほど効果も大きくなるので、人間だけでなく魔人にとっても危険な薬であったのだ。
ハナさんはその事がわかってからは闇の薬の調合をする事は無かったのだ。
しかし、城に軟禁されてから状況が変わったのだ。
どこから情報が漏れたのか、魔人討伐の集団はハナさんの作る薬をどうにか戦争の道具に出来ないかと考えていたのだ。
城に閉じ込められたハナさんは、その集団に闇の薬を作るように連日命じられたのだ。
もちろんとても危険な薬とわかっていたので、作ろうとはしなかった。
だが、王家やケイシ家の人達に危害を加えると脅され、作るしかなかったのだ。
つまり友人であった魔人達を倒すための薬を・・・
当時、ハナさんを大事に思っていたブラックにとっては、心が痛むことばかりだったのだ。
その事を知っている者がもしもいたとしたら・・・
私を同じように捕らえて、魔人排除を掲げようとする集団がいるとしたら・・・
もちろん私は簡単に捕まるつもりはない。
ただ、やはり守られるだけではなく、自分の身は自分で守るすべを身につけなければと思ったのだ。
昔のような戦争を起こさせるわけにはいかないのだ。
私はオウギ王にお願いをする事にしたのだ。
「あの・・・お願いがあります。
私に身を守る特訓を受けさせてもらえないでしょうか?
また同じような者達が現れた時、私だけでなく他の学生も危険にさらしてしまうかも知れない。
もちろん、私がどこかで大人しくしていれば良いのだろうけど・・・
私は勉強もしたいし、色々な所にも出かけたいのです。
この世界を色々知りたいんです。」
そんな風に私の勝手な思いを告げたのだ。
「舞の気持ちはわかった。
しかし、護衛をつけた方良いのでは無いのか?
軍から適任な者を探す事が出来るが・・・」
オウギ王は困った顔をしてヨクを見たのだ。
「ハッハッハッ、舞らしいのう。
確かに護衛もある程度必要だが、やらせてあげてはどうでしょうか?」
ヨクは私の気持ちをよくわかっていたのだ。
それに、私にはブラックのペンダントと指輪があるのだ。
ただ、学校の警備を強化をしてもらう必要はあった。
私の為に、他の学生を危険にさらす事は出来ない。
「では、シウンに頼んでおこう。
舞もよく知っているシウンなら安心だろう。
ただ、しばらくは護衛も必要であるだろう。」
オウギ王は何とかわかってくれ、そう言ってくれたのだ。
「私がそれを引き受けますが。」
ブラックはそう言って私を見たのだ。
「ブラック、あなたは魔人の王なのだから、そんな暇はないわよ。
大丈夫。
必要ならシウン大将に誰かお願いするから。」
ブラックの迷惑になることだけはしたくなかった。
私の為に王の仕事を疎かには出来ないのだ。
「しかし・・・」
ブラックが納得いかない顔をしていた時である。
私の胸元が優しく光ったのだ。
私は首からぶら下げていた小さな袋から、光る種を取り出したのだ。
するとその種から光の集合体が現れ、それは美しい青年の姿に変わったのだ。
「舞、勝手ながら話を聞いてました。
護衛は私が適任ですよ。」
その美しい青年は私を見て微笑んだのだ。




