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私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ  作者: 柚木 潤
第5章 闇との戦い編
178/178

178話 私の薬華異堂薬局

 あれから・・・五年の月日がたった。


 私はブラックの元で一緒に暮らすことにしたのだ。

 魔人の幹部達に再開した時、彼等にとっては五十年ぶりに会った私でも以前と変わらない態度で、ジルコンやアクアは泣きながら私にしがみつき、しばらく身動きがとれないほどであった。

 そんな彼等を見て、私はとても幸せだと思ったのだ。

 

 魔人の国では結婚という制度は存在しなかったが、家庭を作り家族を持つ魔人達も多かった。

 しかし魔力の強い者は長寿でもある為、独り身でいる者が多かったのだ。

 もちろん、ジルコンは恋多き女性であり、男性の幹部達も色々な女性から声をかけられる機会が多いらしいのだ。

 私は城に住むようになって、初めてその事を知ったのだ。

 だから、特定の伴侶などを選ばない魔人も少なくは無かったのだ。


 そんな魔人の国であった為、私を国民にお披露目するとブラックに言われた時は、ひどく驚いたのだ。

 私はそんな事はしないでほしいと懇願したのだ。

 いくら国民が認めている存在と言われても、単純に恥ずかしかったのだ。

 渋々ブラックは、私の事を国民に向けたお知らせとして文書で告げることにしたのだ。

 その文章を見せてもらったのだが、まるで物語に出てくる女神の様な書き方であり、訂正を申し出たのだがそこは聞き入れてくれなかったのだ。

 一般庶民である私にとっては、くすぐったい話であるのだ。

 ブラックや幹部と外に出る時には、なるべく目立たないような姿にしたのだが、かなりの確率でバレることがあったのだ。

 しかし、国民からかけられる感謝や喜びの言葉に初めは戸惑ったが、幸せそうに過ごすみんなの顔を見たら、素直にその言葉を受け入れる事が出来たのだ。


 そして、私にはやる事があるのだ。

 魔人の王としてのブラックを支える一人として、この国についての勉強はもちろんなのだが、私は毎日森に行く事が日課なのだ。

 そう、魔人の森には私が思い描く仕事場があるのだ。

 森の精霊が作ってくれた私の居場所。

 ここには毎日のように、魔人だけでなく、人間や翼人が訪れてくるのだ。

 ここで作る不思議な薬を求めて。

 私は訪ねてくる人達と話しながら、本当に必要があるかを精霊と見極めて渡しているのだ。

 光の鉱石はここにおいても貴重である為、そんな簡単に作る事はできない。

 だからこそ、本当に必要な薬が必要な人達に渡るようにしなければならない。

 精霊の管理の下、この森には邪な心の持ち主が入る事は出来ないのだ。


 

「舞、それにしても、その身体で毎日来るのは大変じゃないか?

 城で休んでいても良いのですよ。」


 精霊は私の事を心配そうにみるのだ。


「大丈夫よ。

 今は動いていた方が良いのよ。」


 私は薬瓶を並べながらそう言うと、ゆっくり薬局のカウンターに座ったのだ。

 実は私のお腹の中には赤ちゃんがいるのだ。

 だいぶお腹も目立ってきたのだ。

 

「それにしても、1日の半分は私と過ごしていたのに、結局はブラックを選んだと言うのが、やはり納得いかないですね。」


「はは、もちろん精霊の事は大好きよ。

 あなたがいてくれなかったら、今ここに私はいなかったのだから。

 心から感謝しているのよ。

 でもね、私は魔人の王であるブラックを守りたいと思ったの。

 とても強くて万能そうな人でも弱いところがたくさんあるのよ。

 だから、近くにいて支えてあげたいと思ったの。」

 

「はいはい、わかりました。

 でも、これから気持ちが変わる事がないとは限らないだろう。

 私はいつまでも待ってますよ。」


 そう言って、いつも美しい顔で私を見つめるのだ。

 ブラックには、ここに来る事を渋々了承してもらっているのだが、こんな話をしているとわかったら、森の出入りが禁止になってしまうかもしれない。 

 私は苦笑いをしたのだ。

 すると、パタパタと羽音が聞こえて来たのだ。

 気付くと一匹の小さなドラゴンが目の前にちょこんと座っていたのだ。


「おかえり、今日はどこまで行ってきたの?」


 私がそう声をかけると、嬉しそうに話し出したのだ。


「ああ、今日は砂地の方までアクアと一緒に行ってきたぞ。」


 彼は数年前に復活した、あのドラゴンなのだ。

 身体は自由自在に大きさを変えられるようで、今は子供のドラゴンの大きさなのだ。

 最近は、ドラゴンの民のアクアと良く出かけているのだ。

 かつて恐れられたドラゴンはこの森を棲家にしており、魔人達や精霊と良い関係を築いているのだ。

 もちろん私とも・・・

 

 私はお腹に手を当てながら話していると、ドンと内側から蹴られた気がしたのだ。

 まるで、私達の話を聞いていると言っているみたいに。

 お腹の子がブラックのどんな能力を引き継ぐかはわからない。

 でも、ブラックだけでなく、それを見守ってくれるたくさんの友人がここにはいるのだ。

 先のことはわからないけど、私はいま自分がやりたい事をちゃんと出来ていると思う。

 だから・・・安心して。

 私はそう思いながら、カウンターの端に飾ってある写真に目を向けたのだ。

 そこには父や母、おじいちゃんの写真。

 そして以前スマホで撮った、若かりしカクとヨクの笑顔・・・


 開店準備は整った。

  

「薬華異堂薬局にようこそ!」



              

            【完】

 

 

ここで舞のお話は終わりとなります。

今まで読んでいただいた皆様、ありがとうございました。

後日、ハナを主人公としたお話が書けたら良いなと思っております。

またその時には、目を通していただけたら幸いです。

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